流れるしずく
お待たせしました。火の国二話です。どうぞ。
突然出てきた煙のせいで少し息苦しいが、僕は煙の中に浮かび上がる数本の煙突を見つめた
さっき、公害で苦しんでいる時の日本国民状態だと言ったが、まさにその通りで、目の前を煙という煙が充満しているようだった
先ほど吸い込んだ煙は、風に乗ってたまたま吹いてきたようで、決して体に良さそうなものとは思えなかった。
そしてそれは、その煙の持つ色と特有のにおいからも判断できた
(ああ、今からこんな煙だらけの国に行かないといけないのか……。)
息苦しそうだなと思ってから元々持っていた手すりを離れると、レストランに唯一入ることのできるドアが、誰か開ける音が聞こえてきた
カランカラン
響く鈴の音に僕は、思わず予想していた
(三人のうちの誰が来るだろう……。今までのパターンから考えると、早朝、今の時間はアリアがやって来て、「泳がないと一日が始まらないわ!」などと言い、ビート板がないと泳げないと知っている僕を道ずれに、いつも海に飛び込んでいってしまうのだから、きっと彼女に違いない)
そうに違いないと勝手に思い込みながら、僕は振り返って、エメラルド色の髪が視界で揺れるのを待つ。
けれど、その僕の視界に入ってきたのは、予想した人物ではなく、予想に反したスカーレット色の髪を持つ人物だったことに、僕は少し驚いていた
そのスカーレット色の髪の持ち主は、僕に笑顔を振りまき、手を振って近づいてくる
「ハジメくん、おはよう!そんな所で何しているの~?」
純粋に何をしているの?というような目で見るその瞳は、茶色の瞳のポルカさんだった
僕は予想と違ったことを気にせず、同じように手を振りかえしていた
「おはようございます、ポルカさん」
僕は近づいてくる彼女にぺこりと頭をさげ、僕より高い位置にある目を見ようとした
が、僕は彼女を捉えることはできなかった
(あれ?ポルカさんはどこに……?)
目線を元に戻し、右に横にと目を動かそうとした時だった。
僕の身体に異変が起こる。そして、何かが僕の身体に触れた後、ぐっと持ち上げられるように力をすばやく籠められ、浮遊感に襲われる。その浮遊感に伴い、僕の今ある目線が下から上へと引っ張り上げられていくのを、僕は感じた
そして、ある一定の場所で止まると、僕はその持ち上げられた原因を見下ろしていた。原因は言わないでもきっとわかるだろう
「……ポルカさん?」
「何かな、ハジメくん?」
本来なら見上げるべきはずの相手は、僕の下で、そのしなやかな両手を使い、明らかに身長差のある僕を支え、悪びれる様子もなくにっこりと見上げている
僕はそんな彼女を見て、心の中でため息をつく
何のことはない、ただ、頭を下げた直後に、僕を彼女が腰から抱え上げただけのことだった
ため息とともに、心の中で本音が独りごとを言い始める
(だから、恥ずかしいから抱え上げないでって、いつも言っているんだけれどなー)
僕が未だに抱え上げられることになれていないことに顔を赤くしていると、彼女はさらに僕を高い位置に抱え上げてきた
「ふふふ!誰もいないところでは、「下ろして!」とか「やめて!」とか、騒ぎ立てないのね~、ハジメくんは」
笑いを含む言い方に、彼女が完全に僕をからかっているのだということが、はっきりした
僕が彼女の手から逃れようとするのは、人が周りにいる時だけ。そのことを考えると、今の状況はそれには当てはまらない。だから、抵抗することなく抱え上げられているのだが、
(まあ、恥ずかしいのは変わらないんだけれども、それを抜きにすれば普段と違う位置から見下ろせるので、嫌いじゃないかも)
抱え上げられるデメリットとメリットを天秤にかけ、メリットの方に勝利を傾けさせた僕は気づいた。彼女の手が震えだしたということに
(は?どうして震えて?)
彼女の顔をしっかり見ようとした時、いきなり彼女は僕を床におろしていた。視界の揺れとともに訪れる足をつく感覚に、僕は首を傾げる
「ポルカさん?」
不思議そうな僕の目に、口と煙の立ち込める方を指さす手を震わせている彼女がそこにいた
彼女は僕に信じられないものを見ているというように話しかけてきた
「あ、あれ……。何?あの白いもくもくとした?」
「え、ポルカさんはもしかして、煙を見たことがないんですか?」
尚も震える彼女に、僕は見えない手で小槌を打っていた。
いや、実際には小槌を打っているわけではない。思いついたときの比喩表現とでも言っておこうか。僕はこの世界の常識に、煙というものが存在しないのかもしれないという考えに行きついたので、そのような質問を彼女に投げかけている。
が、その考えは盛大に間違っていたようで、彼女は僕の方を睨みながら両手を床に突き出し、抗議してきた
「違~う!火の国出身じゃなくても、さすがに煙ぐらいは分かるから!そうじゃなくて、どうしてあんな風に煙で、目の前にある建物らしきものが覆われているのかっていうこと!あたしはそれが信じられないの。今まで、煙に包まれた所なんて、見たことなかったからさ~?」
煙を見つめ、少しご機嫌斜めの彼女に僕は慌てて応えていた
「ああ、そうなんですか。僕はあんな風ではないけれど、教科書で煙に覆われている街を見、いや、読んだから分かるんですけど、あんな風に煙に包まれているのは、たぶん、その奥にある黒い建物、工場のせいだと思います」
「工場?」
何だそれは?というような感じの声音で訊ねてくるポルカさんに、僕は憶測の域であの工場と煙の関係について説明した
「火の国は開発の国で、リドが出てくる時すでに、火の力はあまり使われなくなっていたみたいなんです。で、ここからは僕の憶測で話しますが、開発に力を入れ始めた火の国は、さらに開発することを極めるために、国ぐるみで大規模な工場を立ち上げた。そして、その工場から出る煙が国中を覆っている。そういうことになるんじゃないかと僕は思います」
(って言っても、火の国に関してはリドに聞いた限りの知識しか知らないし、その後の憶測は、ほとんどの子どもが歴史で習う、九州の北の方で起こった七色の虹やら、手工業から機械工業に移り変わったという、技術革新の話やらの、昔日本で起こっていたことを交え、僕の考えを話しているだけなんだけれども)
心の中で何故か言い訳をする僕に、彼女は目を輝かせた
「へえ。あたしは小さいころにお母さんに抱えられて移動してきただけだから、あんまり覚えていないんだ~。だけど、火の国出身のハジメくんがそう言ってるんだから、そう言うことになるんだろうね」
感心したという風に首を振っている彼女に、僕は慌てて手を振っていた
「いやでも、火の国出身って言っても、ポルカさんと同じで、小さいころに親に連れられて水の国に来たので、あんまりどんなのだったかは覚えてないです。ポルカさんと同じで」
内心ひやひやしながら言った僕の言葉を鵜呑みにしたのか、彼女は目を見開いていた
「あれ?そうなの?じゃあ、ほとんどあたしと同じじゃない」
彼女は僕の話を聞きながら煙に覆われている工場の煙突を見ていた。もくもくと立ち込めるその煙は、今の僕の心を表しているようだった
(確かに、僕は土の国で、彼女が車もどきに乗ってきた時に、苦し紛れに火の国出身だと言った。たった今、小さいころに渡ったので覚えていないという風に言ったけれど、果たしてその嘘もどこまで通用するのか、僕には分からない。それに、火の国出身というデマ話は、本当の火の国出身者であるリドには、なんだかんだで伝えそびれているし……。)
積み重ねる自らの嘘に、罪悪感を抱く僕は全然気づかなかった。ポルカさん以外の二人が店内から移動してきて、僕に話しかけているということに
「ポルカ、ハジメおはよう!!」
「おはよう、アリアちゃんとリドさん」
その二人に気づいたポルカさんが挨拶をしているのをうわの空で聞いていると、その二人が近づいてきて、僕の顔を覗き込んできた
「ハージメ?おはよう!ねえ、おはようってば」
返事をせず、自分の嘘について考えていた僕に、隣にいたリドは彼女の肩に手を置いていた
「昨日の水騒動で疲れているんじゃないか?」
リドの助け船にさえも全く気付かずにいる僕を前に、アリアは顎に手をあてていた
「うーん。そうかもしれないけどマスター、さっきから全然ハジメ動いていないよね?」
「まあ、確かに。おーい、ハジメ?何ボケッとしているんだ?もうすぐ火の国のはずだろう?」
相変わらず元気なアリアとマイペースなリドに心配にやっと気づいた僕は、二人を見て、今考えていたことを自身の中に押し込めていた。そしてそれを押し込めながら、僕は瞼を閉じていた
この二人は、僕が嘘をついているとか、騙しているとか、そういうことを考える頭は持ち合わせていないのだろうか、と。
だとしたら、下手したらたちの悪い奴に引っかかってしまうかもしれない。そんなことにならにように、僕がしっかりしなければと、そう思った僕は二人にいつも通りに話しかけていた
「あ、ごめん二人とも。もうすぐ火の国かと思ってたら、ボーっとしちゃったよ。火の国は、もうすぐで着くと思う。船の進路が、この煙の先だって言っているからね」
頭を掻いて嘘ではない言葉を探して話すと、二人は煙の方に目を向けた
「そうか、もうすぐなのか、火の国は……。」
感慨深そうなリドに、アリアは彼の脇腹を小突いていた
「懐かしの故郷、だもんねマスター!楽しみ?」
いたずらを覚えたばかりの子どもというような感じで、しきりに彼の脇腹を小突くアリアに、リドはふと笑みを浮かべていた
「ああ。楽しみだ」
日に焼けた顔に浮かんだ笑顔は、その場にあるはずの煙が見えなくなるくらい、僕には眩しく感じた。彼は普段、表情をあまり表に出さずに、黙々と料理を作り、その黙々としているぶんだけを周りが食べて笑顔になっているというイメージしかなかったので、この笑顔はすごく貴重、いわゆるレアだった
「マ、マスターが!!」
その貴重さを同じように感じとったのか、笑顔を直に向けられたアリアは、両頬に両手を当てていた。その貴重さが渦巻く甲板の上で、彼の笑顔がかなり貴重であるということに気づいていない人物がひとり、そこにいた
「マ、マスターが!!って、どうしたのアリアちゃん。ハジメくんも、さっきよりポケッとした顔になってるよ?一体どうしたの二人とも?」
リドよりも、火の国にいる父親目当てである彼女にとって、彼の笑顔の貴重さはさほど重要ではなかった。
まあ、このままずっと煙立つ甲板で、その貴重な笑顔を拝み続けるわけにもいかないと思った僕は、煙を吸って息苦しい息を整える意味も含めて咳払いをした
「とりあえず、火の国ですることについて、朝食兼ねて話し合おう。このままこここにいたら、リドのおいしいごはんを食べる前に火の国につくよ?それでもいいんなら、このままここにいてもいいんだけど……。」
僕の意地の悪い提案に、ポルカさんは首を横に振り乱していた
「いやいや、食べられないと困るから!あたし、昨日の夜ごはんがあんまりにも美味しかったんで、楽しみにし過ぎて寝られなかったんだ~。だから朝ごはん、もうすっごく楽しみで~」
昨日の夜ごはんだけじゃあ満足できません、というお腹を撫でる彼女の様子に、マスターのありがたい笑顔を拝んでいたアリアははっと気づいたように、彼女の方を向き、そのしなやかな手を取っていた
「でしょでしょ!マスターの夜ごはんは水の国一!世界一!海一なんだから!」
「え、じゃあ今から食べる朝ごはんは?」
「もちろん、マスターの朝ごはんも水の国一!世界一!海一!」
リドのご飯に、キラキラとするアリアは同じ言葉を繰り返そうとしているようだった。これでは、僕が貴重な笑顔から話を逸らそうとした意味がない、そう思った僕は目の前にいるアリアの背中にまわっていた
「てことは、夜ご飯も……。」
呆れてはいるものの、昨日の夜ごはんのおいしさ、そしてアリアの熱の入った褒め方に彼女も溺れそうになっていた
(とりあえず、二人を離そう)
そう思った僕はエメラルド色の髪のある背中に手を置いていた
「そう!マスターの夜ごはんも、み「はいはい、リドのご飯べた褒めタイムはそこまでね。続きは、中でしようねー」」
僕はリドのご飯について、まだ話し足りないという彼女の背を押し、誰もいない店内への扉まで押し進み、その扉を彼女ごと押し開けた
店外にいた二人も後から入ってきたので、自然な流れでリドの朝食を食べることとなった
―― 美味しすぎる朝食後 ――
朝食が用意される前、そして、彼女たちの気のすむまで語った後の朝食後に、やっと本題の火の国に関してのことが話せるようになっていた。さきほどまで、キャッチボールならぬ、言葉の打ち合い(本気)をしていた彼女たちは、まだ熱冷めやらぬという状態だった
(僕だったら間違いなく、疲れ果てる)
グダグダと話が進みそうだった彼女たちと男二人の会話は、申し訳ないが僕が要約させてもらうことにする
まず、火の国ですることとして、
・ポルカさんのお父さんの行方さがし
・リドの故郷に里帰り
・火の国の加護者から、逆移動の書状をもらう
の三つが挙げられた
次にそれをする順番をきめようということになったが、これは上に書いてある通りの順番で行うことになった。なぜかというと、
「タイニーちゃんがたぶん、ハジメくんと旅をしたがっているだろうから」
という理由で。
リドの故郷帰りの方が先なのではと思っていた僕は呆気に取られたが、リド本人も別に構わないと言ったことと、タイニーとの約束を守るためにも一刻も早くそのことを終わらせることが先決ということになったからだった
(けれど、タイニーの迎えには、やはりこの船で迎えに行く必要があるのだろうな)
そんな風に僕が頭を悩ませていると、リドがその迎えについての解決策を提示してくれた
それは、リドが使っていたという火の国から土の国へと移動するときに使った機械を作ったという親友のもとへ行き、ポルカとタイニーのいる所を入れ替えるという話だった
その話が出た時、僕も含め、女性陣二人は驚いていた
「マスター、そんなことできたらすごく便利だと思うけど、そんなことってできるの?」
アリアの疑問は僕を含めた三人の?をうまく汲み取っていた。その三人の気持ちに彼は、何も言わずに頷いていた
「俺が火の国を出る時、移動するための機械を渡してくれた親友が言っていたんだ。もう少しで、人と人を入れ替えることのできるの装置をつくることができると。そしてそれは、俺が火の国から出る五年前の話だった。だから、できているはず。あいつは俺に嘘はつかない」
親友のつくる入れ替える装置のことを語るリドは、いつもと違って必死に見えた
。親友がその装置をつくって、リドの帰りを待っていることを彼は確信しているのだ
(よっぽど、その親友を大事にしているんだな)
そう思った僕は、リドに頷いていた
「分かった。リドの親友に会えたら、その時に入れ替えの件をお願いすることにしよう」
「賛成!」
「あたしも。その入れ替え装置の仕組み、知りたいしな。土の国に持って帰ったら売れるかな~?」
賛成するという意見の中で、アリアとは違った意味で目を輝かせている彼女に、僕は苦笑いをしていた
(おーい、ポルカさん?商人魂が丸見えです。お気づきですかー?)
その時、ものすごくツッコみたい気分だったが、やめておいた。火の国が目の前に地づきつつあったからだ。先を急ぎたかった僕はそのツッコみ心をスルーし、話合いを終わらせた。
そして、火の国に持っていくものの準備にそれぞれ取りかかることになったのだ
―― 準備後 ――
自分の荷物をいつもの黒いリュックに詰め、部屋から出てきてみると、窓が白い煙で覆われているのが見えた
(もう着くな)
そう思った僕が窓に近づいて様子を見ようと歩きだした時に、僕と同じようにリュックをさげた面々がドアを開けてきた
「ハジメ、そろそろ着くか?」
リドの質問に僕は目を閉じて、頷いていた
「もう着く。ただ、この煙はあまり吸わない方がいいと思うんだ。さっき、吸い込んだんだけど、結構きつかったから……。ああ、マスクがあればなー」
ないものねだりをしている僕に、目の前の三人は首を傾げていたが、それもそのはずだった
(この世界に、「マスク」は存在しないんだ。だから、僕は憂鬱になっていたんだけれども)
その僕の姿を見たアリアは、突如、リュックを床に置き、何やらあさり始めた。そして彼女は、布を引っ張り出していた
「じゃーん!」
白い布が四枚い、僕たちの前に出されていた
「この布は風の力で編まれた布だから、汚い空気や嫌な臭いを風の力で遮断できる優れもの!私たちが来ている服もそうなんだけれど、今回、ハジメが煙を吸わない方がいいって言うから、これで口と鼻を覆おう!」
高らかに言った後、彼女は僕たちに白い布を一枚ずつ配った
しかし、受け取った僕は思ったのだ
これを口に覆っていたりなんてしたら、変な人と思われてしまうのではないのか、と。
けれども彼女はそんな僕の心配を気にせず、口をその布で覆い、店外に続くドアを開けようとしていた
「さあ、マスターの待っていた火の国はもうすぐそこよ!さっさと出て、この船が最後の国に上陸するのを待とうよ!」
ウインクした彼女が開けた瞬間、外へと続くドアは開けられていた。その彼女に続けというように、やる気を出しているリドとポルカさんが、すでに白い布で口を覆って出ていた
(とりあえず、出るか)
白い布で口を覆った僕は、黒いリュックとともに店外に踏み出していた
―― 店外 ――
覆われた口と鼻で僕たちは問題なく息をしていたが、その代わりの問題として出てきたのは、白い煙の中に直接さらされる目だった
辺り一面、白い煙しかなく、僕たちは船が大陸にあたった振動によって、火の国に宿り木がついたのだということを知った
(こんな視界で旅なんてできるのだろうか)
先のことを心配しながらも僕は、ポケットの積み木を出していつものように橋を架けた
幸い、積み木によってソウゾウされた橋は、煙の中でも見ることができ、僕たちは無事に火の国へと上陸することができた
「いっちばーん!」
いつもの調子で言うアリアの声に、僕の心の煙が晴れるのを感じた
こんなに視界が煙で遮られていたら、よっぽどの煙に目のなれた人でない限り、不安になるのが当たり前のはずなのに、彼女はいつも通り、明るく元気だった
(心強い限りだ)
リュックの紐をしっかりと握った僕は、見えない陸を歩く。最後尾の僕は、積み木の橋から火の国の大陸へと移る時、どこに誰がいるのかもわからなかった
見渡せども変わらぬ白く黒ずんだ景色に僕は眉をひそめた
けれど、一歩、二歩、そして、三歩と、慎重に歩を進めていくうちに、僕たちの視界を遮っていたはずの煙は、きれいさっぱりなくなった
煙一つなく、澄み切った空気の中で、穏やかに流れる風を感じながら僕は見る
荒れ果てた大地を
その荒れ果てた大地の先にある、黒いダイヤの数々を
そして、さらにその先、その黒いダイヤの山々の奥に聳え立つ、白くて黒い煙を吐き続ける工場の煙突を
僕はそれをただ茫然と見るだけだった
そんな僕の肩をポンと叩く人物が、ひとりいた
「驚いたか?」
覆っていたはずの白い布を外し、隣りに立っていたのはリドだった
彼は、僕の様子を確認してから、目の前に広がる荒れ地に目を走らせる。その目と同じように、彼は普段開かない口を動かしていた
「ここには、水の国や風の国、土の国では当たり前のように見ることができた、「自然」を見ることができない。あるのは、荒れた土地とそこから掘り出された石炭や鉄鋼の山、そしてそれを使って暮らしに便利なものを開発するという名目を持つ、工場を中心とした市、国がひとつだけのちっぽけな所だ」
ウーロン茶色の瞳は、普段の彼からは考えられないほどに潤っていたのが、僕には見えた
「でも、俺にとってはかけがえのない、親友のいる故郷だ」
心の底から、故郷に帰りたかった、そして、親友に会いたかったのだという感情を前面に出している彼の瞳から、一筋流れていたのは、きっと気のせいではなかった。
いやー、今日も結構かかってしまいました。もう少し早く投稿したいなと思っているのですがいつもこのぐらいになってしまいます。どうしてでしょうか……。あ、手際が悪いんですかねやっぱり……。
手際が悪くても、めげずに頑張ります。
活動報告更新しました。よかったら見てください!
では、きょうはこれで。よい夢を見てくださいね。




