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積み木の世界  作者: レンガ
~ 土の国 ~
178/189

すべては口コミから

 両手にクルミパンを一つずつ、口をもむもむと動かしていると、目の前にいたアーシィに笑われる


 「く!ま、まさか、ハジメの好物がクルミパンだったとは・・・」


 あははははは!とお腹を押さえながら目の前で笑うアーシィに、僕が少し睨んでいると、


 「アーシィ嬢?笑いすぎじゃね?」


 「あら?そうですか?笑うことはいいことですよ。ね、デニー?」


 「う~ん?まあ、そうだな」


 マッドの指摘にウィズさんとデニーさんが答えていく


 そんな面々を見て、アーシィは笑い涙というのだろうか、それを自分の指で拭っていた


 「し、失礼いたしましたわ。断じて、クルミパンを食べるハジメがクルミを頬張るリスに見えたわけでは・・・」


 ふ、ふふ、と零しながら止まらない笑いを押さえようとしているアーシィをマッドが宥める


 「まあまあ、アーシィ嬢。そろそろオレ達がここへ来た本題に入ろうぜ」


 な?というマッドの言葉に僕は口の中にあったクルミパンを呑み込む



 オレ達ここへ来た本題って一体何だろう?


 僕は両手に掴んでいたクルミパンを目の前にあったパン皿に置いた


 

 「マッドがここへ来た理由、他にもあるの?」


 僕が食べ終わったのを見たマッドは僕に頷いた


 「ああ、そうさ。というのも、アーシィ嬢はもともと渡す約束をしていたそうなんだが」


 これがそうさ、と言って僕の目の前に差し出したものを受け取る


 クルクルと巻かれたそれは、水の国でも、風の国でも見たことのある書状だった


 

 「これは!!」


 僕が急いで、その書状に巻きつけてある紐を引っ張ると、中の文字が全て琥珀色に輝いていた


 中にはこう書かれてあった


 『土の国の加護者、アーシィ・G・ニルギリとマッド・G・アルタは、船上レストラン 宿り木の逆移動を許可する』


 広げられた書状には琥珀色の文字が書かれ、最後に土の国を示す結晶のような印が押されていた


 僕が声をあげたのを見て、食べ物に夢中だったアリアやタイニー、リドが近づいてきた


 「お、これで3国目だな」


 「土の国の書状!!」


 「ハジメ兄、おめでとう!」


 3人の歓声の後に、アーシィの咳払いした音が聴こえてきた


 「ハジメ、お渡しするのが遅くなってしまい申し訳ありませんでしたわ。まあ、でも、あなたの誕生日だったようですし、逆に良かったと思っておきますわね」


 クルミパンを頬張る姿も見ることができましたし、というアーシィはさっきの僕を思い出すように笑い始めた


 そしてそれを宥めるマッド、って明らかにマッドがアーシィの召使い化してないか?



 僕が皆にばれないように首を傾げていると、目の前にクルミパンを突き出された


 「はい、ハジメくん!書状とか関係なしに、今日の主役なんだから思いっ切り楽しんじゃいなさい」


 ホカホカ焼き立てのクルミパンを突き出されてしまっては、受け取らないわけにはいかないじゃないか


 僕は目の前でにこにこと受け取ったことを嬉しそうにしているポルカさんがいた


 「まあ、でも。ポルカの言うとおりよね!ハジメ、今日は夕方までの間だけど、めいっぱい楽しんじゃって!!」



 そう言ったアリアの言葉を皮切りに、僕の謎の誕生日パーティは夕方近く、お店が開店する一時間前までに及んだ


 その後、慌しく皆で片づけて、開店にこぎつけたのは言うまでもないことだ


 









 夕方、空を飛んでいた太陽が海へと着水し、レストランの浮かぶ水辺をオレンジ色に染め上げている頃、レストラン宿り木は店のドアを開け放った


 きっと、誰もいないだろう


 僕はそう思っていた



 なにせ、この船の止まっているところの近くには街という街がない


 永遠と続く大地と木々の生い茂る森林、のどかな丘、夕日に照らされる遠くにある教会、そして同じように照らされている海しかないのだ


 

 しかもだ、僕たちにはお客に来てもらうような宣伝時間は全くもってなかった


 開いて意味があるのだろうか、ドアを開けるまで思っていた



 そう予想していた僕を裏切るように、開けた途端に目に入ったお客さんの列に、僕は心が飛び上がるようだった


 「は!?」


 僕はドアを一旦閉め、目を擦った


 深呼吸をして、もう一度開く



 紛れもない、本当のお客の列だった


 僕がその光景に目を瞬かせていると、アリアが話しかけてきた


 「な~に、ハジメ?もしかして、私がお客さんを呼んでないとか、そんなこと思ったわけじゃないよね?」




 あーうん、図星だ


 僕は取り繕おうとしたが、声までは制御できなかったわけで 


 「そ、そそそんなことこれっぽっちも僕は」


 「思ってたのね」



 「・・・はい」


 観念した僕が項垂れていると、彼女が僕の肩を叩いてきた



 「抜かりないわよ!すべてはお客さんに来てもらうために!!」



 拳を高く掲げ、アリアは今までしてきたことの全てを話した


 これまで関わってきた人すべてに、レストラン宿り木のことを宣伝するよう頼んでいたのだそうだ


 「全ては口コミから!!チラシ配りと違って目立たないけれど、確実なのよ!!」


 

 少し歯を見せてウインクするアリアを見て心底思う



 ああ、やっぱりアリアはちゃっかり屋さんだな、と。



    

 アリアは考えているようで考えていない、ように見えて実は計算高い、という回でした。


 ちなみに、彼女は創と別れた4、5日あまりの間も宿り木について口コミを行っております(今回の話に盛り込みたかったのですが、2000字以内には収まりませんでしたので、ここで話しておきます)。


 一週間に一回の投稿で物足りない気がしますが、しばらくはこれでお願いします。


 花粉症の方は、ティッシュの携帯を忘れないようにしてくださいね。


 では、今週はこれで失礼します。

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