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積み木の世界  作者: レンガ
~ 土の国 ~
159/189

凍てついた氷を解かすのは

 書類整理に追われていたマッドが心の底から喜んでいるのを見て、僕も素直に嬉しかった


 厨房にいたリドを巻き込んで喜んでいると、開いたドアから僕たちを覗く影が見えた


 いち早く気づいた僕は、皆に気づかれないように顔を青くする



 

 あの人は、今寝ているはず!?


 喜んでいる皆の中で、僕は焦った


 


 眠っていたはずの人が起きてしまった


 僕はそのことを喜んでいる皆に伝えようとしたが、一足遅かった




 影は音もなく近寄り、マッドの肩を叩いてた


 書類整理が終わったことに対して有頂天になっているマッドは、誰から叩かれたのか分からなかった



 「ああ、これでもう書類整理に追われなくていいんだな!!」


 と言いながら振り返った彼の顔が、常夏でのバカンスを楽しんでいる晴々とした顔から一変、極寒の地でなす術もなく凍りついていく顔になるのは、時間がかからなかった



 「ウィ、ウィズさ・・・」


 「・・・マッド」


 ぬらりと起き上がるような影の主の動作にマッドは後ずさる


 その光景を目にしたアーシィやアリア、リド、そして僕も心の中で盛大に後ずさっていた



 何か、くる


 きっとくる



 そう危機感を覚えた僕の考えは、あっていた




 「 書  類  整  理  !! 」




 ウィズさんの話の調子と剣幕の凄さに、食堂の雰囲気はマッドの表情と同じ、極寒の地へと様変わりした


 食堂に響いていた様々な音や人が話す声、視線、動き、あらゆるものが止まっているように感じる


 この中で動いているのは彼女ただ一人だけだった

 

 



 書類整理自体は終わっているので、そのことを素直にウィズさんに伝えればいいのだが、誰も伝えようとしない


 いや、誰も伝えられないのだ


 

 ウィズさんの剣幕に敵う人など、いるはずがないと僕が思った時だった




 「お~い、ウィズ。元気になったのか?」



 凍てついた食堂のドアを一人、押し開けて入ってきた人がいた


 間の抜けた声に、食堂に走っている緊張が少し和らぐ




 「ん~、なんでこんなに食堂静かなんだ?」


 パタンと音をたてて入ってきたのは、ウィズさんの旦那、デニーさんだった



 

 食堂にいたほぼ全員がこう思っただろう



 この凍てついた空気の中で言葉を発し、尚且つ動けるなんて・・・


 勇者だ!!



 デニーさんに対する眼差しがそれを物語っていた



 僕一人を除いて



 僕は、デニーさんの性格から考えて勇者ではないと考えた



 だって、デニーさんは空気が読めない人、雰囲気の読めない人だ


 船旅をしてそこのところはよく分かっていたつもりだ



 だからこそ、この凍てついた空気の中でも平気で動けるはずなんだと、僕は一人拳を握りしめていた



 その間にも、デニーさんはウィズさんに話しかける



 「まあ、いいか。ウィズ、仕事お疲れ」


 そう言って、デニーさんはウィズさんに一本のお酒を渡した


 「書類整理終わったんだろ?ほら、この酒、俺が出て行く前好きだって言ってたからな」


 買ってきたぞ、というデニーさんから酒瓶を受け取り、ウィズさんは目を白黒させていた



 酒瓶を貰ったことは嬉しいが、デニーさんの書類整理が終わったということの理解が追い付いていないようだった


 

 ありがとう、とぎごちなく言うウィズさんはデニーさんに首を傾げながら、そのことを質問としてぶつけてきた



 「でも、書類整理が終わったことは」


 どういうことなの?と聞いてくるウィズさんに、デニーさんはあれ?と首をひねりながら僕たちの方を見てきた



 「さっき、アーシィちゃんとアリアちゃんが二人で書類整理終わったって言って、食堂に向かっているのを見てそう思ったんだけど・・・」


 そうだよね?という表情で聞いてくるデニーさんに、アーシィは必死に頷いた



 それを見たデニーさんはウィズさんの方を振り向く


 「ほら。終わってるみたいだ」


 な?というデニーさんの言葉に、ウィズさんはただ頷くしかなかった




 確かに、ウィズさんは血眼状態で逃げいているマッドに書類整理をさせようとしていた


 それを僕が無理矢理、落とし穴にはめて気絶、寝かせることになった



 その時点では書類整理は終わっていなかったから、ウィズさんは僕たちがいるところを突き止めて、書類整理を促しに来たんだろう



 うんうん、と頷いていると、ウィズさんがアーシィに再確認してきた



 「本当に・・・、書類整理は終わったのですか?」


 まだ信じきれない、という目でアーシィを見るので彼女は終わったのだとウィズさんに告げる


 「アリアさんに手伝っていただいたので、ウィズさんが寝ている間にもう済みましたわ」


 アーシィのその言葉を皮切りに、ウィズさんの顔から憑き物が落ちたように僕は見えた



 「・・・そうですか。では、今日の仕事はもう終わりですね」


 にっこりと微笑んだウィズさんの笑顔に、止まっていた食堂の時間が動き出すのを感じた


 ウィズさんの機嫌がよくなったことをきっかけに、食堂は本来の活気を取り戻していった


 

 凍てついた食堂の中に入ってきた彼と凍らせた彼女を見て思う

 


 やっぱり、夫婦だ



 僕はデニーさんから貰ったお酒に喜んでいるウィズさんとその様子を見ているデニーさんを見て、僕はそう思った。


   

 太陽。 


 今回は、前回の?の一つのお話です。ウィズさんを氷、デニーさんを太陽だと思って読んでみるといいかもしれないですね。

 書類整理が終わっていないと思っている氷のウィズさんを、デニーさんは妻の好きなものを見つけてきて機嫌を取り、尚且つ彼女の間違いを正した(溶かした)・・・、というような感じで今回投稿してみました。


 私の夫婦のイメージでもあります。もちつもたれつ、一方が間違えそうになったら一方が止める、困っていたら助けてあげる、そう言うことができるのが、そう相手を思えるのが夫婦のあるべき姿なのではないかな、と思っています。


 今の時代は、夫婦の形は様々なので、これ以外の形もきっとあることでしょう。夫婦だと思うのならば、それでいいのだとも思います。


 長くなりました。それでは、失礼します。

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