独壇場
「おっちゃん!!これで何かつくってくれる?」
人懐こそうな少年が持ってきた野菜の袋をリドは受け取る
「おう、絹さやな。ちょっと待ってな」
そう言った後、リドは袋とともに厨房に消えてしまっていた
僕がドアを開けた時にはっきり聞こえたのがそれだった
ドアを完全に閉めて二人で中に入ると、昨日までカウンターで注文を取っていたおっちゃんが座っていた
リドがこの食堂で料理をしているのが気になったので、その人に聞いてみることにした
「こんにちは。今日はお仕事お休みですか?」
僕が来たことに気づいたおっちゃんは僕を振り返った
そして、僕の方を見ながら話し始めた
「いや、本当は休みじゃなかったんだけどね、そこのカウンターから見える厨房にいる人がね、一日食堂を貸してほしいって言ってきたんだよ。なんでも、料理していないからしたくてたまらないみたいだよ?」
おっちゃんの話を聞いて僕は一人納得していた
あれだ、アリアの言うリドの癖
厨房は一人で使いたいって言う、あの癖だ
僕がおっちゃんの話に頷いていると、リドが人懐っこそうな少年が持ってきた絹さやを使った料理をカウンターに並べていた
「できたぞ。絹さやと卵の塩コショウ炒め、絹さやとエビ、ウズラの八宝菜ならぬ三宝菜、そして、絹さやと豚バラの茹で、カボス添え」
次々とカウンターに置かれていく料理達に絹さやを持ってきた少年が目を輝かせていた
「もうこんなに作っちゃったの!?まだ、5分も経ってないのに、おっちゃん凄いや!!」
「そうか?」
キョトンとした顔で少年に言うリドは、清々しいオーラを出していた
やっぱ料理いいな
というリドの心の声が聞こえてくるようだった
・・・料理したかったんだね、リド
僕があははと笑っていると、目の前にいるおっちゃんがリドの料理の手際をみてから僕の服を掴んできた
「最初は一人で料理なんて無謀だろ、と思ってたんだけど、あんな感じで料理されちゃうからね。恐ろしい人だよ、全く。注文も料理の間に取っちゃうから、カウンターで注文を聞く俺も今日はお役御免だなと思って、休みにしたんだ」
だから、ここでのんびりとご飯を食べているわけなんだと言われたのを聞いて、後ろにいたマッドが僕の肩を叩いていた
「なあ、リドさんはそんなに料理の腕凄いのか?」
「うん。メニューにあるものはもちろん、お客さんからのリクエストでも応えてしまうし、その人が食べやすいもの、おいしいと思えるものを無駄なく、素早く一人で出せてしまう人だよ」
料理に関しては天才だよね、という僕の言葉にマッドはポカンとしていた
「のんびり屋の大人に見えたんだが・・・」
「料理のとき以外は基本的にのんびりだよ」
二人で盛り上がっていると、おっちゃんが食堂にいる人のことを教えてくれた
「今ここにいる人は皆、食堂でいつも料理をしていた人達だ。あの人の腕を目で盗み取ろうと必死なのさ」
そう言われてから食堂を見渡してみると、カウンターの方をじっとのぞき込む人が大半だったこと
昨日、僕がパンを焼くのを頼んだ専門の人もかじりつくようにリドを見ていた
ちなみに見られている本人は、そのような視線を向けられていることに気づいていなかった
僕は今日改めてリドの料理の腕の凄さを再認識した
リドの料理の腕を見て僕と違って放心状態のマッドを引きづりながら、僕はリドのいるカウンターに向かう
「おう、ハジメ。今朝どこ行ってたんだ?」
僕が来たことに気づいたリドがフライパンを振りながら聞いてきたので僕は今朝のことをリドに話した
「なるほど、船の様子見な。船は大丈夫だったか?」
「うん」
リドがフライパンの中身を皿に移しながら話しているのを見て、僕は自分の好きなものを注文しようとした
けれど、その注文を言う前にリドに当てられてしまった
「クルミパンだろ?もう少しでできるから待ってくれないか?」
リドはそう言葉を残してからオーブンを見に行った
さすが、リドだ
僕の大好物がよく分かっている
僕が心の中で両手をあげて喜んでいると、マッドがメニューにあるものを注文していた
「あいよ」
いつの間にか戻ってきていたリドがマッドの注文を聞くと、すぐに作り始めた
「できたぞ」
「早っ!?一分も経ってないんすけど」
マッドが驚いていることに、リドは
「メニューに書いてあるものは注文があると予測できるからな。だから早いの」
ほれ、と出された料理にマッドは手をのばす
「信じられない・・・」
「まあ、食べてみたら?」
マッドにリドがそう言いながら僕のクルミパン(もちろん、焼き立て)を皿に3つ、紙袋に2つで渡してくれた
「風の国でもこんな感じで頼んでたろ?」
余ったら持って行けと言われたので僕はそれを喜んで受け取った
僕たちはリドにお礼を言ってからあいていたカウンターの席の近くに座る
「「いただきます」」
僕たちが手を合わせて食べるのをリドは肘をついて見守る
一口食べた後、僕たちの食べる速度が早くなったのを見てリドは笑っていた。
コック帽が似合わないし、普段の様子からは想像できないけれど、料理の腕は完璧な料理人、リドのお話でした。自分が楽しんでできるものを仕事にできたらきっとそれは幸せなことだろうなと思いました。
今回のタイトル、独壇場は、独擅場を誤って読んだことでできた読み方だそうです。昔は独擅場の方が正しかったのですが、今となっては独壇場の方が使われているそうです。
皆さんはご存知でしたか?私もこの話のタイトルに使うまで知りませんでした。




