男ふたり
トンネルから3人同時に飛び出し、琥珀色に輝く織り籠へと走っていく
その3人の中で息をきらしながら走る僕に二人は手をのばしてくれた
少し恥ずかしかったけれど、僕は正直嬉しいと思った
君は一人じゃないんだよって、そう言われた気がしたから
だから僕はその手を掴んだ
二人の思いに応えられるようにしっかりと
僕が積み木の世界に来て良かったと思える瞬間の一つだった
織り籠に僕たちが入ったとき、奥の方からただ事ではない話し声が響いてきた
「もう!もう無理ですウィズさん。オレの頭がパンクします!!」
勘弁してください!!と声を張り上げ、誰もいない廊下を突き抜けてくるのが一人
その一人を追う存在も同じように声を張り上げていた
「大丈夫です!!パンクしてもまだアーシィがいますから、パンクするまでして下さい」
それからなら休んでいいですから!という声を廊下に響かせる声の主たちは僕らのいる方向へと向かっていた
大方、書類整理に追われていたマッドが我慢できなくなり逃げ出したというところだろう
その目の前の状況に、横にいるアーシィが頭を抱えていた
「・・・」
「アーシィもああなっちゃうの?」
「そうかもしれませんわね・・・」
悩んでいるアーシィにアリアが首を傾げながら呑気に話しかけていた
その間にも二人は僕たちの方へと突進してきていた
呑気に話をしている場合ではなかった
とりあえずマッドの命を救わなければ
僕は突進してくる二人の前に立った
「ハジメ!?」
マッドが僕たちの存在に気がついた瞬間、僕は手の平に積み木を出した
「伏せて!」
僕の言葉に反応したマッドが頭を伏せる
その後を容赦のない形相で追ってくるウィズさんが僕の視界に入った
マッドには昨日の恩もあるし、アーシィにもマッドのような目にあってほしくない
今日一日だけでも休ませてあげるにはウィズさんを止める、それしか僕には思いつかなかった
仕方ない
僕は積み木でソウゾウした
廊下の真ん中にポッカリとあく落とし穴を
走るのをやめられなかったウィズさんは見事に落とし穴にはまった
「きゃー!?」
さっきの形相から想像できないような可愛らしい声に僕の罪悪感は膨れ上がる
ごめんなさい、ウィズさん
僕は穴の中に入って見えないウィズさんに向かって手を合わせていた
一部始終を見ていたマッドとアーシィがおそるおそる穴の近くに寄る
「ウィズさんは?」
「どうなりましたの?」
二人とも僕の落とし穴を見たことがないので、ゆっくりと近づく
得体のしれないものには細心の注意を
二人の行動がそれを表していた
「僕がつくった落とし穴にはまった、それだけだよ」
平然と言う僕と穴の中で目を回しているウィズさんを見た二人は固まっていた
「恐ろしいですわね」
「だな」
ひそひそと僕の力について話している二人を見て、僕は苦笑いで返していた
「とりあえず、今日の間はウィズさん落とし穴にはまったままだから、休んでくるなら今のうちだよ」
僕が積み木をポケットに入れ振り返ると、アーシィが首を横に振っていた
「いいえ、さすがにウィズさんをそのままにはしておけませんわ。今は気を失っているみたいですし、部屋に運んで寝かせてから私は仕事を片づけてに参りますわ。ウィズさんもきっときちんと休めていないでしょうし、今のうちに休憩をとっていただきますわ」
落とし穴の解除、もちろんできますわよね?と聞かれたので、僕は廊下につくっていた落とし穴をきれいさっぱりなくしていた
落とし穴があったところの廊下の上で目を閉じたウィズさんが横たわっていた
疲れがたまっていたのかもしれない
寝息をたてているウィズさんにアーシィは駆け寄り、僕たちを見てきた
「誰かウィズさんを」
「運ぶの?なら手伝うよ!!」
泳いで上機嫌なアリアがひょいっとウィズさんを抱えていた
「籠長室まで運ぶんだよね?」
「ええ、そうですわ」
私がベッドまで案内しますわというアーシィはアリアを連れ、この場を去っていった
残されたのは男がふたり
書類に追われ心身ともにボロボロになっているマッドはアーシィ達が行った先を見つめていた
「なあ、アリアは相当な力持ち?」
「うん、そうだよ」
僕が背にあるリュックを手に立ち上がると、マッドも同じように立ち上がっていた
「そうか・・・」
何か思うところがあるのか、マッドは床を見つめて考えていた
さて、これからどうしようかな
僕がそう考えている時だった
食堂からいい匂いがしてきた
アリアが泳ぎ終わるのを待っていたら昼を過ぎていたので、お腹もすいていた
マッドも同じだったみたいだ
「なあ、腹ごしらえしに行こうぜ?」
「うん、行こう」
ボロボロのマッドを支えながら僕は食堂に向かった
歩を進めるにつれていい匂いが増してくる
今日もきっと食堂の人が一生懸命作ってくれているんだろうな
そう思いながら歩いていくと、食堂から匂いとともに活気のある声が聞こえてきた
うん?この声は
僕はマッドと一緒に食堂の前に立つ
そして、ドアを片手でゆっくりと押し開いた。
食堂にいるのはもちろん、あの人です。コック帽が似合わない人。




