こだまする叫び
アリアの足取りはもちろん、書類を抱えたアーシィの足取りも同じように軽かった
二人の足取りは琥珀色に満ちている廊下に音で伝わっていく
そんな二人に僕はついていく
書類を預けるって、きっとあの人に預けるんだろうな
僕は何とも言えない表情で二人の後をついていく
どうしてそんな表情になっているのかって?
それはきっとその預けられる人も書類整理に追われていて、今頃きつそうにしているはずだと思ったからだ
僕の予想も知らず、二人は鼻歌交じりで廊下を歩いていく
「もうすぐつくね!アーシィ」
「そうですわね」
笑顔で語り合う二人に僕も自然と笑みがこぼれる
そんな僕たちの前に犠牲となる運命の人が現れた
「お!アーシィ嬢、こんなところにいたな。それにアリアもハジメも」
手を振りながら少し先の曲がり角から出てきたのは、アーシィと同じく隈のあるマッドだった
「マッド、ちょうど良いところに来ましたわね」
「ちょうど良いところに?」
彼が首を傾げているのにも構わず、アーシィは彼に書類を押し付けた
「私、用を思い出しましたの。二人と一緒にその用を片づけて参りますわ」
それまで仕事お願いしますわという微笑みをアーシィはマッドに送りつける
そのマッドは書類を手渡されて、は?と言っていた
「用って?いやいや、仕事があるだろ、アーシィ嬢」
「すぐ済みますから、頼みますわよ」
アーシィのお願いにマッドは冗談じゃないというように慌てていた
それはそうなのだ
二人がかりでも終わらない書類整理があるから二人の目の下には隈があるのだ
その隈は書類整理の凄さを雄弁に物語っていた
それをアーシィはマッドに押し付けようとしているのだ
慌てているマッドにアーシィは尚も言い聞かせるように言う
「あら?何の為の二人の加護者なのか、ご存知ですわね?」
アーシィの言葉にマッドはたじろいでいた
僕が籠長の部屋で言った二人加護者がいるメリット、それをアーシィは指摘しているのだろう
二人いるから一人が仕事できなくてもしてもらえるというメリット
マッドにとってそれは最早デメリットにしかならなかった
そこを突かれてしまったらもう助けようがない
僕はマッドに出そうとした助け船が沈没していくのを感じた
「いやいやアーシィ嬢!?そんな殺生な」
涙目のマッドはアーシィにすがっていた
行かないでという目の彼を彼女は関係なく見下していた
「問答無用、ですわ」
アーシィは後ろにいたアリアに目配せすると、マッドの前から姿を消した
先に消えたアーシィを追って、アリアも姿を消す
その時に僕の手がアリアによって引かれていく
僕はその手に大人しく従うしかなかった
引っ張られている最中、見えたマッドは悲痛な叫びをあげていた
「アーシィ嬢ー!!」
彼の叫び声がこだました廊下にはその叫びを聞く人はいなかった
あーあ、マッド大丈夫かな
僕は心底そう思っていた
今頃ウィズさんにアーシィが出て行ったことを報告して、加護者専用の椅子に縛り付けられて書類整理をしているはずだ
ご愁傷様だ
僕がそんなマッドに手を合わせていると、いつのまにか土の織り籠の門を出ていた
「あれ?もう土の織り籠から出てきたの?」
引っ張っているアリアに話しかけると、走る足をとめずに僕に今後のことを教えてくれた
土の織り籠の近くにアーシィが緊急の時だけ使うトンネルがあるらしく、そのトンネルを使えば、トンネルを使うのが苦手なアーシィもうまくできるようなのだ
とりあえず、そのトンネルまで行ってから僕とアリアはアーシィのはめているブレスレットを持って、彼女に掴まり(はぐれないため)トンネル内を移動
船の近くに出るトンネルに数分でつき、その後船に向かうという感じだった
その話は僕が引っ張られている間、マッドのことを不憫に思っている間に行われたものだった
そんな話いつしたっけ?
僕がそう思っていると、あっという間にお目当てのトンネルまで着いてしまっていた
「さ、着きましたわよ」
アーシィの声で止まったアリアの手から僕は解放され、自分の足でその場に立った
どうして引っ張られていたのかは謎だが、僕が走るよりも遥かに早く着いたのでまあよしとしよう
僕はアーシィの目の前にあるトンネルを覗き込む
「やっぱり、真っ黒だね」
僕が言うと、アーシィはええと頷いていた
「真っ黒でなければ私も使いますのに・・・」
「えっ?」
「いいえ!なんでもありませんわ!!」
気にしないで、と言われたので僕は渋々口を閉じる
もしかして、アーシィは真っ黒いものが嫌いなのか?
僕がアーシィの嫌いなものを考えていると、アリアが手を掴んでいた
「二人とも、ボーっと突っ立ってないで早く行こうよ!!」
宿り木が待ってるよ?というアリアはもう待ちきれないよ!という様子だった
僕も数日といえど久しぶりだな
そう思っていると、アーシィからブレスレットを手渡された
「準備はいいですわね?行きますわよ、二人とも」
掴まってというアーシィの声の後、僕たちはトンネルの中に飛び込んだ。
アーシィの仕事の押し付けにマッドは悲痛な叫びを上げました。その後、マッドは創が想像した通り、机で書類整理に勤しんでいました。泣く泣く、ですが・・・
本当は助けてあげないといけないのですが、マッドごめんなさい。助けてあげられません。本当にごめんなさい、という感じです。
今日は遅くなりました。でも何とか投稿で来て良かったです。
それではおやすみなさい。




