影が差す
姿を消したポルカさんの行き先を確認できないまま、僕はタイニーと一緒にマッドを支えて連れ帰ることにした
「よいしょ!!」
タイニーの掛け声とともに眠っているマッドを両方から支えた
基本的にはこんな状態になって寝ていたら起きてしまうはずなんだけれども、彼の場合違うのか、静かに寝息をたてるだけだった
そんなマッドを二人で支えながら、もと来た道を行く
織り籠に帰ろう
僕はそう決心して歩き出した
その頃
~ アーシィが食堂に行くまでの間 ~
「状況は?」
どうなっておりますの?と慌てている様子の兵士に私は尋ねた
「食堂で何かあったと言われておりましたが?」
先ほどの血眼状態から少し落ち着いたのか、兵士は胸に手をあてて口を開ける
「はい。我々では収拾できない事態になりまして・・・。どこから説明すれば良いのか、自分には分かりかねます」
喋りながらも混乱気味状態の兵士に私は落ち着くように言う
「まあ、いいでしょう。行ってみれば分かるでしょうから」
行きますわよと声をかけた私は、兵士と一緒に食堂まで走り抜けた
食堂のドアの前に立ち、中の様子を耳で確認する
普段の食堂の雰囲気とは異なったものを感じた私は、食堂のドアの前で少し上がった息を整える
兵士にも私と同じようにするよう促した
落ち着いたところで、私は目の前にあるドアを片手でそっと開ける
中の様子を伺う為に
加護者としての初の大仕事のはず
マッドはいない
私がしっかりしなければ!!
そう思った私は少しだけ開けていたドアを勢いよく開け放った
開け放った後の食堂の光景に、私は自分の目を疑った
兵士の言う事態はなかった
けれど、
何かが弾ける音と彼女のひときわ明るい声が辺りに響く
パンッ パパンッ パンッ
「アーシィとマッド、土の加護者就任おめでとう!!」
食堂全体に鳴り響く弾ける音はクラッカーで、ひときわ明るい声は土の加護者になった私自身へのお祝いの言葉だった
「おめでとうな~」
「おめでとう」
ウィズさんがクラッカーを鳴らす音と同時に、デニー叔父様とリド様の両方からお祝いの言葉をかけられる
漸く私はこの食堂で何が起こっていたのか理解できたと思う
兵士が血眼になって織り籠の前まで呼びに来たのは真っ赤な嘘で、本当は私とマッドを食堂に連れて来て、加護者になったお祝いをするためだった
事態も何も、始めから無かったのですわ
そのことに気づいた私は兵士の方を振り返る
そこには少し申し訳なさそうに立っている兵士の姿があった
「申し訳ありません、アーシィ様。騙すつもりはなかったのですが」
ウィズ様から口止めをされましてと言う彼に、私は首を横にふった
「悪気があったわけではないのでしょう?なら、仕方ありませんわ」
私は兵士にありがとうという意味を込め笑顔を送る
「はい!!」
兵士は嬉しそうに私の顔を見て返事すると、食堂の外へと去っていってしまった
嘘などは基本的に嫌いですが、こんな嘘ならいつでも構いませんわね
私は尚もクラッカーを鳴らし続けている皆のところへと行く
私しかここに来ていないということに、そこにいる皆は不思議そうにしていた
「アーシィ、マッドはどうしました?」
「マッドは今、ハジメとタイニーと一緒にいるはずですわ」
たぶんという私にアリアさんは、クラッカーを手に話しかけてきた
「ハジメとタイニーも?二人ともどこにいたのか心配だったのよね・・・」
マッドといることが分かって安心したよという彼女の言葉を機に、織り籠に戻ってくるまでの説明を簡単にした
「後でハジメからお土産がありますから」
楽しみにしておいてくださいなというとアリアさんは嬉しそうにしていた
「何かな~?市場ならブルーベリーがいいな!!」
期待しておこうという彼女の言葉に、その場にいる人が反応していた
「俺にお土産は・・・」
リド様がお土産を期待しているのですが、ハジメはお土産を買っていなかったから無いと思う
そう考えていると、デニー叔父様が私の横にきて目を輝かせていた
「お土産~?」
アーシィちゃんはないの?というデニー叔父様にありませんわとすぐ返していた
「一応、仕事の一環で行った市場の見回りですから、お土産を期待してはいけませんわよ叔父様」
その言葉を聞いて、デニー叔父様は少しがっかりしていた
お土産は必要でしたわね・・・
少し悲しそうな叔父様を見て私はつくづくそう思った
その悲しそうな叔父様を励ますのはもちろん妻だった
「お土産が無かったからって悲しまないの。もう情けないんだから」
しっかりしなさい!とでもいうように、ウィズさんはデニー叔父様に言い聞かせていた
そんなウィズさんは私にマッドのことを再度確認してきた
「三人はもうじき帰ってくるのですね?」
「そうですわ」
私はウィズさんに向かって頷いていた
食堂のテーブルの上にある料理とお祝いの飾りつけを眺めていると、開け放たれたドアの向こうから何かが動くのが見えた
噂をすれば、というものですわね
ドアよりも少し奥に見える三人を私は見据えた。
マッドはどこでも寝られるタイプの人間です。日本ではきっと立ちながら電車に揺られて寝ることができるでしょう。この世界には電車がないので、実際に見ることができないのが残念です。




