街に向かって
船が動くことになれたのか、リドはカウンターに戻って食器を拭き始めた
アリアと僕は一緒に店の外に出て、船が作り出す波を眺めていた
「まさか、本当にこのレストランごと動くなんてね」
潮風になびく髪を抑えながら、僕に語りかけるようにアリアは言う
「驚いた?」
試しに聞いてみた僕にアリアは全力で頷いてくる
「だって、見たことないもの、こんな光景」
泳がずに海を渡るなんて・・・、と隣りで言っているアリアは嬉しそうだった
僕は背を伸ばしながら、海の方を眺める
「そっか・・・」
日本ではこれが当たり前なんだけれど
そのことを言ってもアリアには分からないんだろうな
僕は手の平の円球を握りしめた
しばらくして、街が見えてきた
「水の国3大都市のひとつ ヴァレンシアよ」
見えてきた街に対し、アリアは僕に教えてくれた
街に着く前にどうするか、一度話し合う必要があると思い、リドの居る店内へアリアと一緒に入る
今日一日レストランは休業で、リドが単独行動、僕とアリアが一緒に行動することとなった
部屋から、リュックを持ってくるリドを見て、遠足のようだと言ったら、
「アリアとハジメはデートのようだな」
さらっと言ってくるリドに僕は赤面した
アリアは幸いにもその場にはいなかったから、本当によかった
聞かれていたら、今日一日中気まずいだろうからな
ほっと胸をなでおろしていると、アリアが部屋から出てきた
あいも変わらず、ドアをバンっと開け放つ
「ねえ、マスター!!明日からレストラン営業するでしょ?そのために、今日は私の友達とかを訪ねて、明日来てもらうようにしたいんだけど・・・」
同じようにリュックをからってきたアリアはマスターにそっくりだった
はしゃぎようとかが特に
「おう、いいぞ」
腕がなるなと言い、カウンターに携帯用の飲み物と弁当を二人分おいてくれた
「今日は、外で食べるだろ、これ持ってけ」
そう言って、自分のリュックにも同じものを一つずつ入れていく
「ありがとう、マスター」
「ありがとう、リド」
リュックを開け、アリアと僕は同じように二人分を入れていく
どうやら、リュックは2つしかなかったようで、僕が担ぐ分がなかった
今日はそのリュックも調達しに行くらしい
まあ、アリアがいるから、迷うことはないだろ、と言っているマスターはドアに手をかけていた
僕たちも急いでリュックを持ってドアの外に出る
マスターが店の鍵を閉め、戸締りの最終確認をする
戸締りよーし、とマスターが言った後に、アリアと僕が復唱した
3人は次第に近づく街の方に目を向ける
「5年ぶりの街だな」
リドが、感慨にふけっているようだった
アリアはそのリドに向かって、よかったじゃないと背中をバンバン叩きながら言っていた
5年も街を離れ、お客が来ないのだったら、きっと僕だったら絶望するな
リドに心の中で賞賛を送りながら、僕は街の前まで来るときを待った。
リドは5年ぶりに街に行くということで、それはもう街へ行くのを3人の中の誰よりも楽しみにしています。さて、彼は街に着いたらどこに行くのでしょうか?
それは、私にも分からない予定です。




