市場長 ポルカ
拳を作って固まっているアーシィの形相を見た女性はその場から消えてしまっていた
アーシィも殴って手が痛いのだろう、唇を噛みしめていた
殴られた本人は、転がったまま動かない
頬は当然のように赤く腫れ上がっており、あまりの衝撃に気絶していたようだ
「あらまあ、マッドの旦那大丈夫」
市場長がマッドの横にしゃがみ込み、腫れていない方の頬をつつく
「当然ですわ。そのように致しましたから」
何か?というアーシィの氷の笑顔に、市場長も口笛を吹いて逃れるしかなかった
「あら、あなたは市場長の・・・」
「あ、覚えててくれた?あたしはアーシィちゃんだってすぐ分かったんだけど、最近この市場に近寄ってくれなかったからさ」
少し不安だったんだよねという市場長の言葉に、覚えてますわよというアーシィが答える
「というより、覚えていないとまずいでしょう。私に土の力を教えてくださった人なのだから」
「そうだった」
ごめんごめんというと、市場長は僕たちの方を見てきた
「で、あの子たちは何者なの?すっごい気になるんだけど」
市場長は僕たちに手を振ってきた
とりあえず、振り替えしておけばいいのかな
僕たちは一緒になって手を振った
「しかも、二人揃って素直でかわいいし!」
「そうですか?タイニーはまだしも、ハジメは・・・」
見た目は可愛いですが、中身はというアーシィの言葉に僕はタイニーを引き連れて近づいた
「僕が何だって?」
「いいえ。こちらの話ですわ、ハジメ」
爽やかに笑うアーシィを僕がじっと見ていると、一緒についてきたタイニーが僕の隣から消えていた
「わあ!なんて可愛らしい子なの!?」
飼いたいくらいよ!と声をあげている市場長はタイニーを抱え上げていた
うん?
今、飼いたいって言わなかったか
僕はそれを確認したくて、市場長に話を持ちかける
「飼いたいって、タイニーが何かにでも見えました?」
「ええ。子犬みたいに可愛らしく見えるわ」
おお、仲間がいた
そう思ったのはきっと僕だけなんだろう
仲間には是が非でも自己紹介しなければ
僕は意気込んで自己紹介をすることにした
「へえ、ハジメね。トンネルの黒よりも透き通った黒の瞳なのね」
羨ましいわという市場長は、先ほどまで抱え上げていたタイニーを降ろし、今度は僕を抱え上げていた
「初めまして!市場長のポルカ・T・クオーツよ」
よろしくねというポルカさんの瞳は、不自然なほどの濃い茶色だった
僕はその瞳の色に違和感を覚えた
なんだろう・・・
凄く人工的な色と言うか
僕はそんなポルカさんの目を食い入る様に見つめていた
「ハジメ、くん?」
そのことに気づいたポルカさんが、少し顔を赤くしていることに僕は気づかなかった
瞳の色を見るのに夢中になっていると、下の方でアーシィの声がした
「はい、ハジメもそこまで。床に転がっているあのマッドのようになりたくて?」
拳を突き上げるアーシィに僕は抱え上げられた状態で首を盛大にふる
いいえ、滅相もございませんというように僕はポルカさんの手から急いで逃れた
「それで?マッドが女性に抱き着かれることになった経緯を説明していただけますわね?」
そのアーシィの言葉に、その場にいなかったタイニーとアーシィに別れた後のことを説明していった
「あら?では、マッドが悪いのではなく、ここにいた店主が女性のお金を返さなかったのが悪かったのですわね。てっきりマッドが女性をたぶらかしたのかと・・・」
そういうアーシィにポルカさんはマッドを弁護する
「いやそんな、マッドの旦那は好きな子以外たぶらかすことは無いと思うよ?」
市場長の弁護にそうですか?と言って頭を悩ませているアーシィは、自分がマッドにしでかしたことを思い返しているようだった
「どちらにしろ、マッドには悪いことを致しましたわね」
早とちりでしたわというアーシィは悪いことをしてしまったという表情をしていた
「マッド兄、生きてるよね?」
おそるおそるマッドを見るタイニーの顔には冷汗が伝っていた
タイニーから見てアーシィの殴り飛ばしが如何にひどかったのか、ということが分かる
そっと覗くタイニーの視線に気を失っていたマッドは目を微かに開けた
「マッド兄!!」
目開けて!というタイニーは肩を持って揺さぶり始める
ちょっと待ってタイニー
それは逆に止めを刺すことになるのでは・・・
そう僕が思っている矢先、床に頭をぶつけられたマッドが再び意識を手放そうとしていた
「マッド兄!?」
目開けてと言うタイニーの励ましにも関わらず、マッドはその場でまたも意識を失った
「これは、マッドの旦那もうダメだわ」
よいしょというと、ポルカさんは意識のないマッドを抱え上げていた
「とりあえずうちで様子見とくからさ、アーシィちゃんにハジメくん、タイニーちゃんはまわっておいで」
帰りにうちの店に寄ってね~という声の後、ポルカさんはマッドともに姿を消した
「うう、僕なんか悪いことした?」
うるんだ瞳のタイニーはポカンとしていた。
ポルカさん、新しい人です。前回も出てきていますが、名前を出したのはここだったので、今回のタイトルで名前を使いました。ポルカさんもこの後の物語に関わって行く予定です。




