願いと思い
読み終わった手紙をめくり、ウィズさんは続きを読んでいく
『なんせハジメは、私たちでは考えつかなかった世界の逆移動をしようと試みている少年で、青年です。
そんな彼が実際に加護者候補に会い、加護者にしても良い、そう思える人を選んでもらえれば土の国はきっと安泰です。
そう考えたのも、彼にその素質があると思ったからです。
加護者に会う必要がある彼はきっと良い人を選んでくれるはず。
そう願って、この手紙を終わらせていただきます。
追伸
ウィズさん、加護者を勝手にやめてしまい、大変申し訳ありませんでした。
籠長のお仕事頑張ってください。
私も影ながら応援しております。
ジェル・F・クラウディ 』
ジェルからの手紙を読み終わり、封筒の中にしまうウィズさんは、懐かしいような目で手紙の封をなぞっていた
まさか、こんな内容だったとは夢にも思わなかった
僕は手紙の内容を思い出す
僕が三人、いや、二人の候補者から選ぶということだったよな?
うーんと僕が唸っていると、マッドが僕の方に声をかけてきた
「驚いたな。まさか、ハジメが加護者を選ぶなんてな。まあ、クレイは候補者としては無理だろう?」
マッドの言葉にウィズさんはもちろんと言って頷いていた
「ええ。さすがにあの状況では候補者として選ばせることができません。選ぶのであれば、アーシィかマッド、二人のどちらかになると思います」
マッドが自分の名前が出た途端、そろそろと手を挙げていく
「オレ、加護者になりたくないんだけど・・・」
「それはハジメが判断することですわ」
アーシィの最もな発言に、挙げていた手をそろそろと彼は下ろしていった
そんなマッドの表情を見て、僕は選ぶ必要はないのではと思った
アーシィは加護者になりたい
マッドは加護者になりたくない
もう決まっているじゃないか
僕がそう心の中で言っていると、ウィズさんが僕に咳払いをしてきた
「ジェルは前加護者ですが、次の加護者が決まるまでは今も加護者です。ですから、ジェルが書いた通りに、あなたはこの場で二人のどちらかを選ばなければなりませんよ?」
分かっていますね?というウィズさんの確認で、僕が改めて選ばなくてはならないのだということを認識させられた
けれども、同時に僕はアーシィの考えていることが分からなくなってしまっていた
アーシィ、君は加護者になりたかったんじゃないのか?
僕を同行者としてここに連れて行こうとしたのはそういうことだろう?
だから君が加護者になるべきなのに、なんで今更マッドと自分どちらか選べと言うのか?
アーシィの先ほどの発言で悩んでいると、彼女が僕に向かって囁いてきた
「ジェル兄様の願いは私の願いでもありますわ。ハジメが選んでくださいな。私かマッド、どちらがこの国の加護者として相応しいのか・・・」
例えマッドを選んだとしても私は恨みませんわと言った後、彼女の顔を僕は見上げる
二人がさあ、選んでハジメというように僕に視線を送ってくる
どちらかを加護者として選ばなければならない・・・
そう考えて二人を見ていると、
「ハジメ。選んだ方を手で指し示してくれますか?」
とウィズさんに言われたので、僕は静かに頷く
そして、僕は手で指し示して見せた
指し示したのを見て、僕以外の人が驚いていた
何故かというと、僕が二人を両手で指し示していたからだった
指し示された二人は目の前で目を白黒させていた
「な?」
「どういうことですの?」
マッドとアーシィが困惑しているのが分かった後、さらに、その横で困惑している人がいるのが分かった
「ハジメ・・・、私は選んだ方を指し示してほしいと言ったのですが?」
ウィズさんは僕の行動を理解できないという感じで頭を抱えていた
特に困惑している三人に向かって、二人を指し示した理由を説明することにした
「どうして二人を選んだかというと、二人とも加護者として相応しいと思ったからなんです」
僕が説明を始めると、目の前の三人は静かに話を聞いてくれていた
「アーシィは僕がトンネルに落ちるまでの間、僕たちに危険が及ばないよう、先に教会の中に入っていって様子を見たり、動物たちを指笛で呼んで、僕たちが道中疲れないようにしてくれたりしました」
アーシィは満更でもなさそうな顔で僕を見てきた
「マッドはマッドで、見ず知らずの僕を三日間探し続けてくれたり、クレイたちのことを事細かに教えてくれたりしました」
マッドは照れくさそうに、僕の前でそっぽ向いていた
「二人とも良いところをたくさん持っています。僕が前から二人と関わっていたのなら、もっと良いところを見つけられたかもしれません」
僕がそう言って二人に微笑むと、二人とも僕に向かって微笑み返してくれた
「そんな二人から加護者を選ぶ。そう考えると、僕はかなり難しいと思いました。二人とも加護者として相応しいからです」
けれど、と言う僕の話の続きで、皆の度肝を抜くことになった
「僕はどちらかを選ぶ必要はない、そう思いました。」
創は二人のどちらかを選ぶ必要はないと言い切っています。次回、創なりのジェルの手紙の解釈がありますが、それが創がどちらかを選ぶ必要はないという思いに繫がります。
今日はこれで失礼します。




