悪くない
僕は手の平にある積み木を握りしめる
自分自身が危険にまきれることなんて、日本では当たり前のように避けていた
僕が無事であるならば、それでいい
他人のことなんて気にしてどうする
この世界に来るまでは、本当にそう思っていたんだ
でも僕は
この世界に落ちてきて人の温かさを知った今の僕は
そう思うことができなくなってしまった
自分に対しても、他人に対しても、甘くなったのだろうか
そんな自分は嫌いだ
日本にいたときの自分はそう言ったと思う
けれど、そんな自分を好きだと言ってくれる人たちがこの世界には居る
日本でもいたのかもしれない。ただ、僕がその存在に気付かなかっただけで
けれど僕は見つけてしまった
甘い自分でも、甘くない自分でも
ありのままを受け入れてくれる人たちがこの世界には居るということを
ただそれだけのことなのに、自分以外のことで頑張ることができる
そんな自分がいるなんて考えてもみなかった
僕は一つ心の中の自分に問いかける
甘い自分も、甘くない自分も受け入れてくれるこの世界とその世界に住む人たち
その考えに影響されている今の自分をどう思うのか?
僕は唇を噛みしめて、手の平にある積み木をアリアの方に突き出す
・・・悪くない
そんな自分も悪くないかもしれない
心の中でそう答えながら、アリアとトンネルの間に積み木の壁をソウゾウしていた
「あっ!?」
急にトンネルの引力から解放されたアリアは僕の前によろめいてくる
そのアリアを片手で受けとめながら、僕は壁の向こう側にあるトンネルをどうしようかと考えた
もう二度と、この部屋にトンネルができないようにそれ自体を無くしてしまおう
僕はトンネルの前にできた壁にもう一度手を突き出し、ソウゾウした
すると、トンネルに覆いかぶさるように壁が変形していくのが見えた
鉄板のような硬さの壁から何もかもを包み込む布へと積み木は変化したのだった
僕は夢中で積み木の布でトンネルを包み込むイメージをする
そして、それが布で何重にも覆われた頃、トンネルの姿は跡形もなく消えていた
このことは、まるで一瞬の手品を見ているようだったと後から言われることになる
よろめいてきたアリアをしっかりと支え、僕は立たせる
その後、僕はアリアの方に手をかざしていた人物に鋭い視線を投げかけた
標的にされた人物は息を呑んで僕を見ていた
表情は青ざめている
今さっき僕がトンネルにしたことが未だに呑み込めていない、という感じだった
僕はその人の目を射ながら近づく
そしてクレイの目の前に仁王立ちになって立ち、僕は小声で囁く
「トンネルと同じようになりたいのかな?」
と
さすがに僕の言っている意味が分かったらしい
クレイは体の震えを止められなくなっていた
その震えが止まらなくなっている彼を気遣う人がそこにいた
ワグマさんだ
「坊ちゃん、・・・参りましょう」
ワグマさんの声に応じ、彼は僕の前から逃げ去るようにドアの前で待っているウィズさんの方に向かって行った
ドアから出て行った3人を見送った後、僕たちは籠長室でしばらく待たされることになった
その間、僕はマッドとアーシィ、デニーさんから質問攻めにされていた
「なんだ!?今の何なんだ!?」
教えてくれ!と言って、僕の肩を問答無用で揺さぶるマッドになんとか答え、
「そうですわ!!まさか、あなたは土の力をお持ちなのかしら・・・」
深刻そうな表情で僕の前で唸っているアーシィを宥め、
「俺の目がどうかなったのか~?それともハジメがどうかなったのか~?」
と自身に対しての質問と僕に対しての質問を永遠と繰り返しているデニーさんに突っ込みをいれつつ、
僕たちはウィズさんが戻ってくるまで待っていた
その僕たちのやり取りを蚊帳の外のように聞いているリドとアリア、タイニーも話し出す
「アリア姉、よかったねハジメ兄に助けてもらって」
しかも二回もだよ!というタイニーの言葉に彼女はそうだねと答えていた
「ハジメがいなかったら、あの黒い穴の中に入って彷徨うことになっていたと思うと!」
冗談じゃないわね・・・というアリアの言葉にリドも頷いていた
「トンネルの中にはアリアの好きなブルーベリーパイもブルーベリージュースもないからな」
そのリドの言葉に、アリアはリドの服の襟を掴んでいた
「マスター、食べ物のことは言わないでよ!ああもう!マスターの手料理が無性に食べた~い!!」
食べた~い、食べた~いと念仏のように唱えながらリドに迫るアリアの表情は恐ろしいものだったらしい
僕が他の三人から揉みくちゃにされていた時に言っていたと、後からタイニーに聞いたことは彼女には内緒のことだ
そうこうしているうちに、先ほど出て行ったドアからウィズさんが戻ってきた
「お待たせしました」
彼女の声が部屋に響いた途端、雰囲気が変わったのを皆も感じたのだろう
自然と僕たちは並んでいた
ウィズさんが部屋の真ん中にある椅子に座り、僕たちを見回す
「用件はもう一つありましたね」
彼女の言葉に僕たちは頷いていた。
今日は時間が作れたので、早めに投稿です。待ってくれている人がいるかもしれない、そう考えると頑張ることができますね。
とりあえず、一つ目の用件である、クレイの処遇は終わりました。次からは、もう一つの要件に入ります。




