抜け出す為に
「この積み木はあなたにしか操れない、そう思っている。違いませんか?」
リンネの言葉に僕は言葉を失うしかなかった
紛れもない事実だったからだ
「そして、表の世界でこの積み木はそこに住んでいる人たちの想像を超える働きをするものだった」
けれどと言って、口元に笑みを浮かばせたリンネの言葉に僕は顔を上げる
「この世界では全くの無力、ですよ」
テーブルに置かれた積み木をリンネは手に取り、テーブルを転がすようにして返してきた
僕はその積み木を片手でつかみ取った
「無力というのは、どういうことなのかな?」
ぼくが問いかけると、リンネは僕に視線を向けてきた
「この世界があなたの力を発揮できる表の世界ではないから、ですよ」
「表の世界?」
僕がリンネの言ったことに首を傾げていると、彼女は呆れたような表情を僕に見せてきた
「ふう、創には初めから説明しなければなりませんか・・・」
仕方ないと言うと彼女は指を鳴らした
どこからともなくティーポットが現れ、リンネの空になったティーカップに紅茶を注いでいく
「では、説明しましょうか」
リンネは指を鳴らし、僕が飲んでいるティーカップにも紅茶を注ぐようにしてくれた
「表と裏の世界について」
彼女の声が響くと同時に、注ぎ終わったティーポットが忽然と消えた
~ マッドの根城 洞窟前 ~
「で?その嫌われ者のオレの根城になんか用なんですか、アーシィ嬢」
先ほど現れたマッドはアーシィに当然の疑問を投げかけていた
まあ、それはそうよね
嫌いな人の根城に、まさかアーシィが近づいてくるとは思わないだろうから
「ええ、残念ながら用がございましてよ!」
普段とは異なるアーシィから、いかにマッドと関わるのが嫌か分かった
「ほほう、でオレに何の用ですかい?」
マッドはそのアーシィの様子に目もくれず、話を坦々と続けている
その様子にアーシィはさらに腹を立てているようだった
沸騰しちゃうんじゃないかしら
私は勝手にそう思っていた
「あなた、ここの洞窟にすんでいるサイとお友達でしたわよね?」
アーシィの質問にマッドは口笛を吹いて答える
「当然!ここに根城を構えているんだからな、サイたちと仲良くならないと無理だろ?」
至極当然の答えにアーシィは不敵な笑みを作っていた
「ふふふ、そうですか」
ユラリと体をくねらせ、アーシィはマッドに急接近した
「なら、あなたが犯人ですわ!!」
アーシィは目の前にいるマッドに指を思いっきり指して見せた
私たちは疑惑の目をマッドに向ける
この人がサイを操って、ハジメを連れ去ったんだわ
私は心の中で炎を燃やしていた
けれど、私たちの心とは裏腹に、アーシィに刺されている彼は目を点にしていた
「へ?」
何を言われたか分からないような顔をしていた
彼は何かまずいと感じ取ったのか
弁解の言葉を私たちの前に並べ立てていた
「いやいやいや!何のことだ!?オレはサイたちと仲良くはなったが、操ったことは一度もないぜ!!」
いや、本当だってという彼の言葉に私は心の中に燃やしていた炎をかき消していた
疑われて弁解しない人はいない
疑ったことが事実だったとしても
そうでなかったとしても
でも、この人の場合は明らかに
疑われることはしていないと思うんだ
私は自分の直観を信じることにした
私は良いのだけれど、他の人たち、特にアーシィはマッドに対して疑惑を拭い去ることができないと思う
それなら!!
私は皆がマッドに視線を送っている間に、ハジメのリュックに手を伸ばす
その為に私は動き出した
~ 白と黒の世界 ~
「今、あなたが私とここにいる世界、ここを裏の世界と言います。そして、さっきあなたが気を失うまでいた世界を表の世界と言います」
僕はリンネの説明に耳を静かに傾けていた
「裏の世界は表の世界にある四つの国とどこかでつながっています」
リンネの説明をまとめると、
土の国ではトンネルに
火の国では溶岩の中に
水の国では遥か海底に
風の国では空の切れ目に
それぞれが裏の世界と繫がっている入口ということだった
ということは、僕は土の国のトンネルの中に入ってしまったことになる
僕はその事実に冷汗をかいていた
アーシィにあれほど入るなと言われていたのに入ってしまっていた
帰ってこれたとき僕はどうなるんだろうか
僕はそんなことを呑気に考えていた
その考えを見透かされたのか、リンネは高らかに笑っていた
「表の世界に帰れるかどうか、私の説明後の質問に答えられるかどうかによって変わってきますよ」
まだ安心するなと釘を刺された僕は、落胆するしかなかった
早くここから抜け出したい
僕はそれしか考えていなかった
「では、続きを。表裏一体という言葉は知っていますか?」
リンネの問いかけに僕は答える
「相反する二つのものが本当は一つであり、二つの関係は密接で切り離せないもの、かな?」
僕の答えに満足したようにリンネは頷いていた
「表の世界と裏の世界も同じことが言えるのです」
これで意味は分かりましたね?というリンネの言葉に僕は頷いていた。
創は裏の世界から抜けだしたいばっかりです。訳の分からないところに行ったら普通はそうなりますよね。慌てることなく、常に余裕のある心をもって生きていきたいと思いました。




