サイ
「土の国の3大都市のひとつ、ディアに向かいましょう」
アーシィの声に習い、皆がその方向へと馬を走らせる
馬上で聴く蹄と土が奏でる音を僕はとても軽やかに感じていた
「久しぶりの馬は良いわね!」
僕の後ろの方でとりつけた手綱を握っているアリアが嬉しそうに言う
「そうだな、水の国だと馬に乗る機会がほとんどないからな」
横で走っているリドが相槌を打ってくる
「へえ、そうなんだ!ぼくの国は結構乗ってるよ!」
「あら、土の国のものには及びませんわよ?」
タイニーの話にアーシィが加わると、タイニーの頬がみるみるうちに膨れていくのが見えた
「そんなことないよ!小学校の時にいっぱい乗るんだから!」
認めないよ!と言うと、アーシィに向かって首を思いっきり横にふっていた
負けず嫌いが出たなと思っているとアーシィが口を開いた
「あら、そんなに自信がおありなのね」
では、と言ってからアーシィは自分が乗っている馬をタイニーの傍につけた
その時のアーシィの馬の操り方が馬と踊っているように軽やかだったのが僕の印象に残っている
「タイニー、今目の前に見える山の麓まで、私と競争いたしませんこと?」
手綱を持ったまま、アーシィはタイニーの方へと微笑んだ
「ただの勝ち負けではつまらないですから、負けた方が勝った方の言うことを聞く、というのは如何です?」
アーシィの提案にタイニーはすぐ反応した
「もちろん!その勝負、受けるよ」
よし!と言って張り切っているタイニーは、先の方にある麓を見つめていた
だからタイニーは気づかなかったのかもしれない
彼女の口元が微かに悪魔の笑みを刻んだことを
「では、交渉成立ですわね」
アーシィの声が風に乗って聞こえてくる
「あそこの曲がり角を超えたところで」
アーシィが手綱を放し、指を指す
あそこがスタート地点
アーシィとタイニーを遠くの方から眺めている感覚で僕はアリアと走っていた
「始め!!」
角を超えたところでアーシィが掛け声を上げる
二人は一斉に馬を操り始めた
曲がりくねった道を二頭と二人が土ぼこりをたてて突き進んでいく
二人は僕たちの視界からもう少しで消えようとしていた
これでは二人の勝負の結果がわからなくなる
僕がそう考えていると、同じ考えを持っている人がいた
「うーん、これじゃどっちが勝つのか分からないわ」
僕の頭上で腕を組んでいるアリアの声が上から降ってきた
「まあ、どっちでもいいんじゃないか~?」
無責任な言葉を出しているのは勿論デニーさんだった
「俺らはマイペースで追いつくからさ」
二人はあの二人を追いかけたらどうだ?というリドの言葉に僕たちは頷いた
「じゃあハジメ、行くよ~!!」
アリアが馬にスピードを上げるように促した
馬はアリアの促しで速度をあげる
前の二人も凄いのだけれど、アリアはその上を行く凄さだったと思う
気づけば、競い合っているタイニーとアーシィのすぐ後ろまで来ていた
「どんな風になっているのかな?」
アリアの声を受けて、僕は二人を見る
どうやらアーシィが馬一頭分くらい早いようだった
「な、・・・なかなかやりますわね」
「そっちこそ!!」
二人とも息を切らしながら、馬に乗っている状態で話し合っていた
「これは、アーシィの勝ちかな?」
僕が声に出していると、アリアは首を横にふっていた
「まだ、分からないわよ」
アリアは夜色の瞳を輝かせながら、僕にウインクしてきた
山の麓まであと少し
二人を追っていた僕たちは夢中で二人の勝負を見ていた
タイニーが追い抜かした、と思ったらアーシィが抜き返していく、という白熱した戦いが目の前で繰り広げられていた
「うん!二人ともいい勝負ね」
アリアの嬉しそうな声に僕は完全に気を緩ませていた
その瞬間、突如大量のサイが僕たちの前に出てきた
「危ない!!」
僕が叫んだと同時に、アリアが咄嗟に手綱を引く
僕たちが乗っていた馬は前足を上げて立っていた
サイの群れに突撃する事は免れた
手綱を引いているアリアの腕の中で息をついていると、後ろ足で立っていた馬が足を急におろした
馬が地に足をつけるのと同時に僕は浮遊感に襲われる
僕はアリアの腕の中から投げ出されていた
テレビのお笑いとかでやっている、あの人間の体が宙を舞ってしまうシーソーと同じなのか?
僕は頭の中で冷静に考えていた
体は宙を舞い、僕たちの目の前を通過中だったサイの群れの上に落ちてしまった
「ハジメ!!」
僕が落ちたことに気づいたアリアが声を張り上げる
けれどその声は、空しくその場に響くだけだった
アリアが悲しそうな顔で僕に向かって叫んだのは分かった
でも、それだけだ
僕は自分の置かれた状況を把握しようと思い、サイの群れで考えていた
アリアと馬に乗っていた時にサイの群れがやってきた
それを見たアリアは手綱を引き、馬をとめた
サイとの衝突は免れたが、代わりに僕は乗っていた馬から飛び出してしまった
そして、サイの上に乗せられてしまった
「・・・参ったな」
僕はサイの群れの上で腕を組むしかなかった。
すみません、風邪でダウンしておりました。久しぶりの投稿です。できる限り更新していきたいと思います。




