馬と助け船
「では、そろそろ参りましょう。トンネルを使わないのであればかなり時間がかかりますから」
そう言ってアーシィは教会の扉を開けた
その後を僕たちもぞろぞろとついて出て行く
「ハジメとタイニーは体力的に無理がありそうですし、何より歩くのでは時間がかかり過ぎてしまいますわね」
馬を呼びますわと言って僕たちを残し、アーシィは前の方へと走り去っていった
今、聞き捨てならない言葉が出たようだけど、それは置いておくことにしようか
馬を呼んでくるとアーシィは言ったが、ここでは馬を借りれそうなところなんてどこにもなかった
僕がその疑問に頭を悩ませていると、デニーさんが僕に話しかけてきた
「ハジメ、どうしたんだ?」
アーシィがいなくなってすぐに、荷物の中に入れていた酒瓶を取り出して飲んでいた
デニーさんは普段お酒ばかりを飲んでいるけれども、土の国の出身である彼ならば僕の疑問が分かるかもしれない
僕はその疑問を思い切ってぶつけてみることにした
「さっき、馬を呼ぶってアーシィが言ってたんですけど、ここには馬が借りれそうなところなんてどこにもありませんよ?」
どこから連れてくるんですか?という僕の疑問にデニーさんは答えてくれた
「そうか。水の国でも風の国でも、馬は借りるんだったな~」
そうかそうかと言いながらデニーさんは僕を見てくる
いや、日本でも基本的に借りるものだよなと僕が考えていると、デニーさんが咳払いをしてきた
「土の国の馬は基本的に借りるものじゃあないんだな。その証拠にほれ」
口を拭うデニーさんが指す方向を見る為に僕は前を向く
さっきアーシィが走り去った方だ
後姿の見えるアーシィを静かに眺めていると、アーシィが指笛を吹いたように見えた
吹いた姿を確認した後、遅れて音も聞こえてきた
ピュイー
その音が僕らのところまで響き渡った後、どこからか別の音が聞こえてきた
地響きだろうか
アーシィに向かって、六頭の馬が砂埃を上げながら走ってきていた
駆け寄ってきた馬たちを順番にアーシィが撫でる
ふふふ、あなたたちはとてもいい子ですわ、というような感じで
「見たろう?」
デニーさんの言葉に僕は視線を戻す
「ここでは、ああいう風に指笛で呼べば来てくれるのさ~」
分かったか~?というデニーさんの言葉に僕は頷いた
僕は前の方から馬を連れてくるアーシィを見つめた
でも待てよ、僕、馬乗れないんだけどな
僕はそのことをどうアーシィに伝えようか考えていた
この世界の小学校では馬術を習うのが当たり前らしいが、日本の小学校では馬術に力を入れていない限り、ない
だから乗れないとなると、どうアーシィに説明すればよいのだろうか
僕は自分の中から少しずつわく冷汗を止めることはできなかった
冷汗をかいている僕の心情を知らずに、アーシィは馬六頭を引き連れてくる
「アーシィ、凄いわね!!」
アーシィが連れてきた馬の鬣を撫でながら、アリアは興奮していた
アリアは動物も好きらしい、その撫でくりようはとてつもなく
撫でられている馬が機嫌を損ねないのだろうかと思うほどのものだった
「わ~い!!久しぶりの馬さんだ」
タイニーにいたっては、すでに騎乗していた
「はしゃぎ過ぎるなよ」
リドがはしゃいでいる二人に声をかけつつ、乗ろうとしていた
「さすがアーシィちゃん、良い馬呼んだね~」
そう言って、デニーさんはなぜか荷物の中に入っていた人参を馬に与えていた
「当然のことですわ、デニー叔父様」
デニーの褒め言葉に、アーシィは嬉しそうにしていた
でも、僕に目線を向けるとアーシィは怪訝そうな顔で僕を見てきた
「ハジメ、そろそろ乗ってくださいな。出発しませんと」
そういうアーシィの声に僕はうんと力なく頷いていた
ど、どうしようか・・・
僕はかつてないほどの冷汗をかいていた
いっそ記憶喪失と言ってしまおうか
僕が口を開こうとした瞬間、馬を撫でていたアリアが僕の方へとやってきた
「ハジメ、一緒に乗ろうよ!!」
嬉しそうな声で言うアリアを僕は振り返る
それは明らかに僕に対しての助け船を出すための言葉だった
「なぜ、ハジメと一緒に乗るんですの?」
腕を組みながら言うアーシィに、アリアは満面の笑みで答えていた
「一緒に乗りたい気分だから、かな?」
えへへというアリアの声を受けて、アーシィはふーんと言うような顔で僕を見てきた
あなたたち二人の間には一体何があるのですの?と言うような表情で
「ハジメ、乗ろう!!」
アリアが僕の腕を引っ張った
その後、アリアは僕を馬にのせ、その後ろに座った
そして、僕の方に顔を近づけながら小声で言ってきた
「大丈夫だよ、ハジメ」
やはり、アリアは僕をかばってくれているようだった
記憶喪失ということを言いたくない、という僕の気持ちを汲んでくれたアリアの思いやりが嬉しかった
「ありがとう、アリア」
後ろから支えてくれているアリアの方を振り返り、僕はお礼を言った
「まあ、良いですわ」
皆さん、出発しますわよというと、アーシィはひらりと馬に飛び乗った。
馬、乗れたらいいですよね。全く乗れませんけど。ただ、乗るようになるまでがきつそうだなとは思います。
いつか牧場に行こうかなと思いました。
また、お知らせです。
明日から、また投稿できそうにありません。木曜からは以前どおりに投稿できそうなので、それまでお待ちください。本当に申し訳ないです。




