反響する教会の中で
僕が全力で二人にツッコんでいると、話に加わっていない他の二人の一人がタイニーに声をかけてきた
「タイニー坊はまだまだお坊ちゃん、だもんね?」
その一人、アリアが得意そうにファイさんの口調を真似しながら言うと、タイニーが
「そんなのファイさんじゃあないやい」と機嫌を悪くしながら吠えているのが僕の前の方で見えた
タイニー、いいようにからかわれてるな
僕がそう考えていると、リドが僕の顔を覗き込んできた
「ハジメもきつそうじゃないか?」
リドの言葉に僕は慌てて首を横にふる
その言葉のせいで皆の視線が僕に集まってきた為、とりあえず僕は笑顔でやり過ごすことにした
船から出発して、3時間、やっとのことで教会にたどり着いた
「着いた~」
疲れた様子のタイニーの声が教会の周りに響く
その口にアーシィは手をあてた
「しっ、静かに!」
小声でそう言うアーシィの言葉に僕たちは黙る
教会の中から聞こえてくる話し声に僕たちは耳を傾けたのだった
「おい、この教会にめぼしいものはないのか?」
男の声が響き渡る
「はい、ございませんよ坊ちゃん」
風の国の籠長、クロウさんよりも高めの声で返事する声は老人のような声だった
「二次通過の探し物中ですわね」
アーシィの言葉に僕たちは頷く
「挨拶しておかなくてわ」
アーシィは僕たちが止めるのも聴かず、教会のドアを豪快に開け放った
バンと響く音に中にいた二人はドアの方へ目を向ける
「誰だ!!」
男の声が反響しやすい教会の中を飛び回っていた
その声に反応するかのように、アーシィは太陽の光を背に男に対してお辞儀をしていた
そして、お辞儀をした後、面をあげて口を開けた
「ご機嫌麗しゅう、クレイ様」
アーシィの深みのある声が教会を震わせた
教会の中に響き渡るアーシィの声に二人は警戒態勢を解いたようだった
「なんだ、アーシィ嬢か」
男は警戒を解いたようにアーシィに近づいてきた
「どこに行っていたんだい?君がいない間に一次通過が終わってしまったんだぞ」
どこか心配そうな男の人の声にアーシィはまあ、と声をあげていた
「まさか、私のいない間にそんなことになっているなんて・・・」
思ってもみませんでしたわ、と口に手をあてながら談笑しているアーシィを僕たちはドア越しに見ていた
でもその僕たちがドア越しに見ていたと言うことが分かっていたのか、男の人は僕たちの方を見てきた
「ところで、そこにいる人たちは一体誰なんだい?」
男の人が指さす方にアーシィは視線を向け、僕たちを睨んでいた
あら、隠れることも儘なりませんの?
という皮肉が聞こえてくるような表情で、ドアのところで固まっている僕たちを見ていた
その後、男の人の方を見て、にっこり微笑んでいるようだった
「紹介しますわ、クレイ様。私が土の国から一日いなかった間、助けてくださった命の恩人たちですわ」
どうぞお入りになってというアーシィの声音は、さっきの表情とはかけ離れた優しさだった
アーシィの呼びかけに応えるように、僕たちはぞろぞろと教会の中に入っていった
「右から、デニー叔父様、リド様、アリアさん、タイニーさん」
横一列に並んだ僕たちをアーシィが紹介していってくれる
「そして、最後にハジメですわ」
左端にいた僕をアーシィが紹介し終わると、男の人は僕たちの名前を口ずさんでいた
その口ずさみが終わってから僕たちの方にお辞儀をしてきた
「初めまして、アーシィの命の恩人さん達。僕は、クレイ・G・ロゴスだ。アーシィと同じ土の加護者の一人さ。よろしく」
クレイさんは僕たちに順々に握手をしていった
その後、後ろに控えている老人も紹介してくれた
「彼は、僕の執事なんだ。名前はワグマ・O・デュロイさ」
挨拶してというクレイさんの声にワグマさんは進み出てくる
「ワグマと申します。坊ちゃんともども、よろしくお願い致します」
品の良いお辞儀はジェルさんと同じようだった
後でアーシィに聞いたところ、ジェルさんに支配人の仕事を教え込んだのはこのワグマさんだったと言うことが判明した
それぞれの紹介が終わり、クレイさんは本題に入ろうとしていた
「それでだ、アーシィ。君がいない間に一次通過が終わってしまったと言ったが」
それがなというクレイさんの話しにアーシィは口をはさんだ
「あの男が、一次通過を突破したのでしょう?」
アーシィが目を伏せながらいうと、クレイさんが頷いていた
「そうなんだ、あの男が通過してしまったんだ」
二人の悲壮感漂う声に、僕は疑問を投げかける
なぜかって?
そりゃまあ、二人が悲壮感を漂わせながら言っていることが気になるからね
僕は二人を見ながら、その場にいる全員が思っていることを口にした
「あの男って誰なんですか?」
僕の言葉に二人は一斉に振り向いた
「あの男は、ね」
クレイさんが言葉を切らしたと同時に、アーシィが繋ぐ
「一番土の加護者にしてはいけない人、いや輩の一人よ」
クレイさんとアーシィ、二人の感情を写したような低い声が教会の中で反響し合っていた。
新しい人が出ました。お坊ちゃんなクレイとそのお坊ちゃんをサポートする執事のワグマの二人組です。この二人はこれからどう動いて行ってくれるのか、書いている私自身も楽しみです。




