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入道雲は消えて、秋に入った


   ***



 夏も終わり、男は社会の波に戻っていった。

 大絶賛猛暑期間は過ぎ、夜になるとそこそこ冷える時期になった。

「……はやく夏にならんかなぁ」

 男はつぶやくと、コーヒーの缶を横に置き、空を見上げる。

 茜色と藍色が混ざり合った空が見える。ゆったりと流れる雲が、わずかだった太陽の残り火をかすめ取っていった。

 目を閉じ、深呼吸をする。


――「そろそろ来るんじゃない?」――


 ふと、声がした。

 夏のある日から、突然聞こえるようになった声。誰の声かわからないけど、どこか懐かしさを感じる声色だった。

 男はすっと立ち上がると、


「今日はずいぶんと早く終わったんだな」


 と、声を上げた。


「……ばれてた?」


 背後にある植え込みの影から、ひとりの女性が出てくる。

 桜色の上着に、タイトスカートを履いた女性が、ヒールを鳴らして近づく。

 実家から戻ってきてすぐに出来た、男の恋人だった。


「きみって、するどいねっ」

「ほんとなんなんだろうね」

「もしかして、気配を感じ取ることができる、すごい武道家の子供とか?」

 くっと腰をおろし、覗きこむように男を見上げてくる。女性の冗談に対し、

「まっ。そんなところだ。もしかしたら」


 と、適当に返答を返した。


「なんかてきとーだなぁ」


 目を細めてくすくす笑うと、踊るように体勢を戻し、男の手を引く。


「そんじゃっ、今日は朝まで飲もうコースぅ!」

「ちょっ、俺、明日すげぇ早いんですけど」

「きにしないきにしないっ」


 ささやかな反論を聞き流し、腰まで届く黒い髪をなびかせて、男をひっぱりまわしたのだった。


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