お墓参り
連載小説だけど、区切りってだけで、実際は超短編です。
夏の終わりの、ちょっとシリアスな雰囲気を感じていただければ幸いです。
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この季節になると、彼はいやでも思い出す。
セミがあたりで鳴き騒ぎ、入道雲が空に浮かび。木々が熱風にさらされ、太陽が墓石を照らすこの季節が来るたびに。
お盆から少し外れ、そろそろ八月も終わろうという時期に、私服を着た男が、手に花を持って墓標の前に立っていた。
「今年も来たぞ、――。まったく忌々しいほどクソ暑いな、ほんとに」
年に一度しか口にしない名前を漏らし、花を墓前においた。花立てには、まだ真新しい花が刺さっているのだが、それも毎年のことだった。
膝を折り、バッグから線香を取り出すと、それに火を付けて、灰山の上に寝かせる。ある程度黙祷してから、墓の掃除をし始める。
磨くたびに、男の脳裏に浮かぶのは、あの時のことだった。
花束に彩られるのは、抱く後悔の念。
空に炊きあげられるのは、無力の悔しさ。
磨かれる墓石は、罪滅ぼし。
手が震え、膝が折れる。
「すまんかった……俺がっ、俺がぁっ、いながらっ! 守って、やれなくてっ……!」
置かれた花の上に、ぽたぽたと涙が落ちる。
思い出のつまったこの地を離れ、死ぬほど働いて、眠って、朝が来て。忙しければ、考える暇はなく、気が楽だった。
しかしそのしわ寄せは、毎年この季節になるとやって来るのだ。どうしようもない悲しみの渦が、彼をこの場所に立たせ、涙を流させる。
「ごめんっ、俺、やっぱり忘れられない……おまえの手をっ、握ってやれなかった俺をっ、許してくれ、許してくれ、許してくれっ……!」
ざああっと、大きな風が吹いた。花びらが風に流され、舞い散る。
――「もうっ、いつまでそーしてるつもり?」――