表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

お墓参り

 連載小説だけど、区切りってだけで、実際は超短編です。

 夏の終わりの、ちょっとシリアスな雰囲気を感じていただければ幸いです。


   ***



 この季節になると、彼はいやでも思い出す。

 セミがあたりで鳴き騒ぎ、入道雲が空に浮かび。木々が熱風にさらされ、太陽が墓石を照らすこの季節が来るたびに。

 お盆から少し外れ、そろそろ八月も終わろうという時期に、私服を着た男が、手に花を持って墓標の前に立っていた。


「今年も来たぞ、――。まったく忌々しいほどクソ暑いな、ほんとに」


 年に一度しか口にしない名前を漏らし、花を墓前においた。花立てには、まだ真新しい花が刺さっているのだが、それも毎年のことだった。

 膝を折り、バッグから線香を取り出すと、それに火を付けて、灰山の上に寝かせる。ある程度黙祷してから、墓の掃除をし始める。

 磨くたびに、男の脳裏に浮かぶのは、あの時のことだった。


 花束に彩られるのは、抱く後悔の念。

 空に炊きあげられるのは、無力の悔しさ。

 磨かれる墓石は、罪滅ぼし。


 手が震え、膝が折れる。


「すまんかった……俺がっ、俺がぁっ、いながらっ! 守って、やれなくてっ……!」


 置かれた花の上に、ぽたぽたと涙が落ちる。

 思い出のつまったこの地を離れ、死ぬほど働いて、眠って、朝が来て。忙しければ、考える暇はなく、気が楽だった。

 しかしそのしわ寄せは、毎年この季節になるとやって来るのだ。どうしようもない悲しみの渦が、彼をこの場所に立たせ、涙を流させる。


「ごめんっ、俺、やっぱり忘れられない……おまえの手をっ、握ってやれなかった俺をっ、許してくれ、許してくれ、許してくれっ……!」


 ざああっと、大きな風が吹いた。花びらが風に流され、舞い散る。



――「もうっ、いつまでそーしてるつもり?」――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ