表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ペレストロイカ  作者: ゾン子
海市蜃楼編
9/12

「物乞いなら、ほかのところでやってほしいわ」


 何かに追われるかのように、入学式はその後怒涛の勢いで終わった。その後、特別クラスにて、わたしはコルデリアと合流し(入学式での並び順は背丈順だった。無論、わたしは一番前である……)、そのまま彼女の隣に座った。あのあと、寮で話していて、別に悪い子ではないと思ったし、これから長くても二年間一緒の部屋で寝泊りするのだから、大親友とまではいかなくとも、一緒につるんでいられる仲にはなろうと思ったのだ。


 ざわざわと、多種多様な子供が一室に集められた教室は、やはり異様だった。わたしより幼い子はいないが、同じくらいの年の子は何人かいた。気になったのは、最年長がどう見積もっても、十五歳や十六歳までしかいないということだ。あの後聞いてみたら、カラムはどうやら十四歳だったらしい。コルデリアは十三歳、ボイドは十五歳ってコルデリアに聞いたし。きょろきょろと教室を見渡していたら、ボイドと目が合った。うわ、サイアク。

 ボイドはにやりと笑って、わざと聞こえるように、「あーらー! この教室に、薄汚い労働階級(貧乏人)がいるわ!」


 クスクスと嘲笑するのは、ボイドの隣に座る女生徒。


「やぁねぇ。物乞いなら、ほかのところでやってほしいわ。貧乏臭いのがうつるじゃない」



 言い返すのもバカらしい言葉に、わたしは思わず笑ってしまいそうになった。てめえらもその貧乏人と同じ、特別クラスにいるんだから、同じくらい貧乏ってことだろ、バーカ。

 コルデリアは顔を真っ赤にして、嘲笑に耐えていた。その姿に、少し同情して、あと、この程度でなんでこんなに怒るのだろうと不思議に思った。こんなの、ハエが騒いでるだけじゃない。コルデリアを宥めようとしたとき、いきなりがたんっ、とものすごい音がした。なんだなんだとギャラリーがざわめく。わたしもその音の発信源を見てみたら、なんと、あのカラムが、ボイドの机を蹴っ飛ばした音だった。



「な、なによ。あんた、クリントンね! 没落貴族が、なんのようよ」


「ああん? 没落貴族なんて、この特別クラスじゃ珍しくねえだろよ、気取りや! エー、没落したお家の、おぼっちゃま、おじょうちゃま方? お手を上げてくださります?」まるで蛙がつぶれたような声を出して、カラムは周りの生徒に呼びかける。それが、ボイドの声を真似したものだと気づくのに時間はいらなかった。

 その、『没落したお家の、おぼっちゃま、おじょうちゃま方』は、最初は顔を顰めていたが、カラムの下手な物まねのネタに気づいたのか、クスクスと笑いながら、するすると手を上げていった。数は、ひい、ふう、みい……なんと、十人だ! このクラスは全部で二十人いるから、その半分ということになる。中流階級のボイドは、勿論貴族なんてものじゃないし、確か労働階級の子は、五人か四人いるらしいし、そうなると、ボイドと同類である中流階級の子供は、このクラスの四分の一しかいないということになる。数にして、五人ほど。



「で? 特別クラスに入りでもしなくちゃ、お高い入学金を払えないおうちなのに、同じ立場の『没落貴族』や『労働階級』のミンナにえばりちらす、『中流階級』サン? 何臭いのがうつるって言ってたのカナー?」


「な、な、な」



 ボイドが顔を真っ赤にして、周りを見渡す。ボイドの隣で、一緒に悪口を言っていた女子生徒はふい、とそっぽを向く。ウワー、友情って軽いね。そのお陰で、ボイドの顔はさらに真っ赤になった。たとえるなら、そう、茹蛸。

 しかし、カラムくんよ。仕返しはありがたいが、こういうの、イジメっていうんだぜ? 下手したら、進路選択にヒビはいるんだぜ? 


 さすがにカラムをとめようかと思ったとき、不意に教室の扉が開いた。中に入ってきたのは、ジュダス・ボールドウィンさんだった。ああ、そういえば、特別クラスの教師をしているって言ってたっけ。


「わたしがこのクラスの担任になった、ジュダス・ボールドウィンだ。これから一年間、よろしく」



 突然の来訪者に、静まり返った教室が、はっとした。そして慌ててその場に立ち上がり、一礼をした。その様子に、ふんふんと満足そうに頷いたボールドウィン先生は、教卓のほうへ移動する。そして、黒板に、カツカツ、と音をたてて文字を書いていった。



「『杖の申し込み』? なんで杖が必要なのかしら」コルデリアがその文を読み上げる。本当だ、なぜ杖が?



「えー、君たちは、まだ子供なわけだから、魔法をちゃんと形にして出すのは難しいのです。なので、杖を持ち、そこに魔法を出すようにしていくことで、序々に魔法に慣れていくのです。

 最短でも、半年ぐらいやっていれば、もう杖は不要になるでしょう。なので、安物の、ただの棒切れで大丈夫です。なんなら、その辺の木の棒でも大丈夫です。学校側でも、杖の貸し出しをしているので、お古でよければこの後、寮の窓口等で申し込みをしてください」


 杖か。すぐに不要になるのなら、学校のを借りよう。しかし、杖を持つってなると、ますますハリーポッターみたいになってきたなぁ。ハリーポッターのほうが、親切設計だが。

 ボールドウィン先生は、言うことだけ言うと、すぐに別の話題に切り出した。「これから、明日以降の時間割を配ります。選択授業などはありません。皆同じ授業を同じ分だけ受けます。ちなみに、これは最初の二ヶ月分の時間割です」



配られた時間割を見て、愕然とした。午前中、体力づくりのトレーニング。午後は一時間座学をやり、あと二時間がようやく魔法の実技授業だった。しかも、小さく欄外に、『毎日寮へ帰ったら、走りこみをすること。最低でも五キロを二セット』うわぁ。持久走とか聞いてない。


「センセイ、どうして魔法学校なのに、体力づくりなのですか」


 一人の生徒が、そう質問した。



「魔法という概念は、イコールで君たち、魔法使いの体を作り上げている。つまり、肉体を強化することは、そのまま魔力を強化することにも繋がる。

 というのが、王宮が出した『建前』だ」



 ボールドウィンはかつかつ、と教卓を人差し指でたたく。教室中はシンと静まりかえり、みんながセンセイの話をじっと聞いていた。



「本当のことを言うと、今のまま君たちが魔法を使えば、体のほうが耐えられなくなるのだ。だからこその体力づくりである。今のきみたちでは、コーヒーカップを浮かすだけで、気絶してしまうだろう。

 魔力の差に、個人差はほぼない。ではなぜ、あの偉大なる魔法使い、オズマンド・バーンが強大な魔法を使えるのか。彼の体は、生まれたときからすでに、魔法を自在に操れるほどの体ができていた、否、彼自身の魔法が、彼自身をそういう体に作り変えたのだ」



 魔法とは、才能そのもの。

 才能とは、魔法を自在に操れる、肉体。


 すなわち、魂の許容量を言うのだ。




 あまりに壮大な話に、なんだかあまり実感がわかなかった。コルデリアといえば、せっかくオズマンド・バーンが話題に出たのに、ただ眉を顰めて、何かを考えるように下を向いていただけだった。




 話が終わると、ボールドウィン先生は、「今日はこれでおしまい。起立!」とよく通る声で言った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ