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ペレストロイカ  作者: ゾン子
悪酔強酒編
5/12

「あなたは魔法使いなのだから」

メアリーがキャヴェンディッシュさんに引き取られて一週間がたったその日、わたしは院長先生に呼ばれた。

先生の部屋のとびらの前まで来て、ノックする。


「先生、ベニです」


中から、「どうぞ」という声が聞こえたので「失礼します」といいながらとびらを開ける。前世の面接スキルが役に立つ日が来るとは思わなかった。

院長先生は、おそらくこの孤児院で高価な部類に入るであろう椅子に腰掛けていた。手には羊皮紙を持っている。……おそらく、あれはキャヴェンディッシュさんが院長先生に渡していたものだ。見覚えがある。

院長先生はふうとため息をついて言った。


「あなたは昔から、そうやってほかの子供よりおとなしくて、時折大人のような表情を見せていましたね。わたしはそれを心底不気味に思っていましたよ。……でも苔色の瞳のことを知って、わたしは考えを改めました。


あなたは魔法使いなのだから、仕方ないんだって」


先生はそう言ってわたしに羊皮紙を渡した。わたしは先生の言葉に首を傾げながら、とりあえずそれを受け取り、読む。細かい字がびっしりと書いてあった。



「ヴィッカー魔法学校……入学案内……」


ああ、なんていうことでしょう! わたしは歓喜に震えた。つまり、これって、そういうことなんでしょ!


「院長先生……これって」


「その魔法学校を紹介してくださったのはキャヴェンディッシュさんですよ。あなたの魔法の才をこんなところで枯らすのは惜しいとね」


「でも、そんな大金どこで……」



院長先生はその羊皮紙をもっとよく見ろと指差した。わたしは黙々とそれを読む。『我がヴィッカー魔法学校では、即戦力となる魔女魔法使いを育成することを目的としており―――――』即戦力? わが国は戦争でもしようというのかと思ったが、そうだ、今はどこも人材不足。つまりそういうことなのだろう。『――――特に特別クラスでは人材を多く募ることを目的としており、ある条件を満たす生徒であれば、その学費は国より免除されることになっている―――』「院長先生!」

わたしはその一文を読んで院長先生を見た。


「免除―――お金がなくても魔法使いになれるんですか!」


「ベニ、落ち着いて」



言うとおり、わたしは深呼吸をして、もう一度羊皮紙を読んだ。『特急クラスの定員は未定。募れるだけ募る予定である。奨学金の条件については裏面を参照』わたしはすぐさま羊皮紙を裏返した。『条件、事情により入学金及び授業料等を払うことができない者、十分な魔力を持つ者』どっくん、どっくん。心臓がうるさいくらい高鳴る。今のところ、この条件はクリアしてある。しかし次は? わたしは視線を横にして、次文を読んだ。『―――そして、本校課程を二年で修了することが条件である』

二年。それは難しいことだとベニは悟った。魔法学校は普通、四年で卒業なのだ。それを半分の二年だなんて。でも、しのごの言っている余裕はない。わたしは魔法使いになるんだって、決めたんだ。そして、幸せになるんだ。


「ベニ……」院長先生が眉間にしわを寄せて、わたしを見る。どうしてそんな顔するんですか、先生。わたしは幸せになれるっていうのに。


「それが最善の道だとは、わたしは思えません」




*


トバイアス孤児院の院長である、キャロライン・ブルックはアダム・キャヴェンディッシュからメアリー・ネイサンを里子として引き取ると、その口から聞いた。


「あの子を魔法使いにするんですか」


聞くつもりもなかった言葉が、なぜか口から出た。ブルックははっとして口をつぐみ、キャヴェンディッシュの機嫌を伺うように彼を見た。しかし、彼は穏やかな笑みをたたえたままブルックに言う。


「魔法使いとは、才能の塊なんですよ」キャヴェンディッシュは笑う。しかし、その目は笑っていない。ベニやメアリーの前であったときのような苔色ではない瞳の色。ちらりとそれを見るとその目は毒々しい赤色をしていた。「才能は生かさないと死んでしまう。つまりそれは、存在の死ですよ」ブルックは咄嗟に、キャヴェンディッシュから目をそらす。


「わたしは、メアリー・ネイサンという才能を、殺したくないだけです」


「では、ベニは?」


ブルックは震える声を隠すように言う。「ベニはどうなるんです」


あんなに魔法使いになりたがっていた少女は一体どうなるというのだろうか。彼女という才能こそ、存在すべきなのではないだろうか。ブルックは声に出さずに、それを飲み込んだ。



「あの子にも才能はあります。でも才能っていうのは優劣があるでしょう?」


「ベニが、ベニがメアリーに劣っていると? そんな。彼女たちは平等です。平等に、かわいいわたしの娘です」



キャヴェンディッシュは心の中でブリックを嘲笑した。自分は量がほしいんじゃない、質を必要としているのだ。量を望むのなら、こんなほこり臭い孤児院にはこない。この孤児院から、偶然高い魔力を感じたのだ。そして、その持ち主を見つけた。赤毛の少女、メアリー。その目は暗い苔色をしていた。元の色は知らないし、興味もないのだが。


「それはきれいごとでしょう。どんな人間にも、優劣や差異があるものです。だって、人間ですから」魔法使いは特にそれが顕著だ。いや、魔法使いからしてみれば、人間なんて特に差異もない、ただの生物なのだがと、キャヴェンディッシュは考えた。



「それに、ベニという少女。彼女はわたしのところへ来ても、どうしようもないでしょう。彼女は魔法学校へ通うべきです」


「? では、メアリーは……」魔法学校に入れないというのか、とブリックは問いかける。


「ええ。わたしがじきじきに魔法を教えます」



キャヴェンディッシュは赤い瞳をぎらんと光らせてブリックを見た。おびえた老女。ひ弱で、ちっぽけな存在……。どうしてこうもあのベニを気にかけるのか、その理由はよく知らないが。こんな老女、キャヴェンディッシュがちょっと魔法を使えば、すぐに死んでしまうであろう存在。そうしない理由は、メアリーを引き取るということを、あまり大事にしたくないからだ。



ベニという少女。キャヴェンディッシュは彼女のことを思い出す。あの中で一人、異様な雰囲気を醸し出していた。大人っぽいとも見えるし、子供っぽくも見えた。いや、あれは子供だ。意地のはった、いつまでも現実を見ようとしない……。

なんでベニを選ばなかったのか。キャヴェンディッシュは胸がむかむかする思いで彼女を思い出した。あの子は、自分に似すぎている。だから早く、早く大人になりなさい。



偉大な魔法使いになんか、なれやしないのだから。




五話時点の年齢メモ


ベニ→十歳

メアリー→十歳

キャヴェンディッシュ→二十八歳


キャヴェさんの白髪云々~とか目じりのしわ~っていう描写は、彼が魔法で老けているように見せただけ。

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