「おめでとう」
「おめでとう、メアリー。キャヴェンディッシュさんはあなたを引き取りたいとおっしゃっていたわ」
*
オメデトウメアリー、オメデトウメアリー、オメデトウメアリー。
頭の中でその同じ言葉がぐわんぐわん響き渡った。メアリー、オメデトウ、シアワセニネ。
彼女は手に入れるのだ、わたしが手にしたいと、渇望したものを。温かいスープを、暖かい家族を、約束された将来を、夢を、希望を、名声を! 彼女が魔法使いになる。そしてわたしはなんになる? 労働階級の、一生働いて暮らす、みじめな女の子。齢十歳にして自分の運命を決められた。いや、違う。
この世界に生まれ、この孤児院に棄てられたときから。
棄民になったときから。
わたしはとっくのとおに、みじめな女だったではないか。
目の前で音を立てて崩れていくもの。それはわたしの夢であった。魔法使いになる夢……お金持ちになって安心した生活を送る夢……ふかふかのベッドに、清潔な家。前世のような幸せな暮らし……。
「あ、そっか」
わたし、前世に戻りたいのね。
ふと目を閉じて思う。わたしはなんで死んでしまったの。こんな世界、きたくてきたわけじゃない。願わくは、普通の、生活水準の整った世界に、先進国に生まれたかった。そのなかの、普通の、幸せな家庭に……。
だって、もしそうだったら、わたしはこんなところで、こんなにみじめに泣かずに済んだのに。
メアリーがこの孤児院から旅立つ日がやってきた。彼女はキャヴェンディッシュさんが贈ったらしいきれいなドレスを着て、孤児院のとびらの前でキャヴェンディッシュさんの迎えを待っている。わたしたちはその横で、彼女を見送るのだ。一度街に行って、整えてもらったのだろうか。彼女のくすんだ赤毛は、きれいな赤に変わっていて、太陽の光に照らされキラキラと光っていた。しかし、暗い苔色の瞳は相変わらずで、わたしは咄嗟に彼女から目を離した。苔色の瞳は、魔法使いの証……。そうだ、それなら本当は、わたしたちは苔色の瞳ではないのだろう。では一体、何色だというのだろうか。どうせ、自分は前世と変わらず黒い目をしているのだろうけど。
メアリーがキャヴェンディッシュさんの馬車に連れられ去っていくのを見送った。ああ、本当なら、わたしがそうであったはずなのに。メアリーはせっかく幸せを掴んだというのに、いつもと同じ、無表情だった。何を考えているのかわからないその顔を、わたしは心底不気味に思う。子供なんだから、年相応にしていればいいのに。
特別、ほかに気になったことといえば、キャヴェンディッシュさんがなにか、院長先生に羊皮紙を渡していたことだろうか。まあ、それもたぶん、お金についての書類か何かなんだろうけど。
それを受け取ったあとの院長先生は苦い顔していた。




