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ペレストロイカ  作者: ゾン子
悪酔強酒編
2/12

「魔法使いの見分け方を知っているかい」

「エドガー、本を破ったのはあんたね!」


だん、と足を踏み鳴らし、悪童の前に立つ。わたしの手には破かれたページが開いてある本がある。犯人は間違いなく、この悪童エドガーだ。鼻の上のそばかすを手でこすりながら、エドガーは鼻をふんと鳴らした。



「ベニ、お前なんかにそんな本はもったいねえって。てか、それ理解して読んでんの?」


「あんたとは頭の出来が違うのよ。こんなのも読めないんじゃ、エドガー、将来どうしようもないわよ」



前世の出来事を思い出した年より、五年が過ぎた。十歳になり、もうあのころとは違って字もすらすらと読めるようになり、前よりも魔法使いのこともずっとよくわかってきた。この国には魔法使いを量産することをまず第一目的としているらしく、魔法教育は誰でも望めば受けれることになっている。勿論無条件になんて、そんな甘い話が転がっているわけが無い。学校に入学するにしても金が必要だし、わたしみたいな労働階級(ワーキング・クラス)じゃあ、そんな大金、払えるわけが無い。中級階級ミドル・ミドル・クラス上流階級(アッパー・クラス)富裕層アッパー・ミドル・クラスなんかの家に養子にしてもらうなりしないければ入学する手立てはないだろう。事実、労働階級出の魔法使いは、そういう階級の方々に才能を見初められてずんずん頭角を現している。


そして今日は、そんな上級階級の貴族様が、この孤児院に里子を探しにやってくる日だった。


院長からその話を聞いたとき、ぱっとその魔法使いのことが思い浮かんだ。探しに来たんだ! 魔法の素質がある子供を! 今はどこも魔法使い不足だから、どんな人材もほしいんだ。わたしたちはなるべくきれいな洋服を着せられた。失礼のないように、と素行のいい子供は貴族さまの案内役を頼まれた。わたしもその一人である。案内役というのは都合がいい。それはつまり、里子に選ばれる可能性が高いってことだから。わたしのほかにも案内役は二人いた。きれいな顔立ちの、活発な女の子のエミリー。彼女は自分が里子に選ばれるものだと当然そうな顔をしていた。いい気になるのは今のうちだ。なんといっても、里子には、魔法使いにはわたしが選ばれるんだから!

もう一人の子供? あんなの眼中にないね。もう一人の女の子はメアリーといって、エミリーみたいにきれいでもないし、髪の色もくすんだ赤毛。目は苔色をしていて、顔は器量がいいとはいえない。でも不細工でもない、微妙な容姿をしていた。お下げの髪を横にたらして、顔をうつむかせて決して前を向こうとしない。おとなしいというよりも、暗いという形容詞が似合う女の子。わたしたちはみんな十歳だったけど、メアリーはその雰囲気から、あと五歳は老けて見える。年相応に見えるのはエミリーだけだ。わたしは前世のころの容姿がぼんやりと残っていて、どちらかというと西洋人風の顔が多いこの世界で、一人東洋人顔で、どうしても幼く見える。ただ、目の色は不思議なことに、メアリーのような苔色をしていた。あそこまで暗い色ではないが。


きっとメアリーは、私たちの引き立て役に選ばれたのだろう。エミリーはわたしよりずっとかわいくて愛想もいいけど、あのこはバカだ。あんな子、絶対に選ばれるはずがない。メアリーはかわいくないけれど、少し頭がいいのだろう。でもわたしに比べたら全然だ。小さいころからよく頭を使うようにしたし、勉強を死ぬほどした。わたしの脳みそは前世のころよりもずっと柔らかくなっているに違いない。


魔法を使うには、感覚や慣れも必要だが、その原理を知ることが必要だと本に書いてあった。しかし、魔法の詳しい使い方や呪文なんかは、どの本にも書いてない。聞けば、魔法を使っていいのは魔法使いだけ。学校に入学しなければ、魔法を学ぶことすらできない。独学なんて無理な話なのだ。




*



午後になり、早めを昼食を摂った。食べ終わって、三十分ほどすると、上流階級の貴族がやってきた。予想通り、夫婦だった。夫人の方は若く、エミリーと同じ金髪をしていた。エミリーはそれを見て、ふふんと鼻を鳴らす。髪をきっかけに気に入ってもらえるかもしれないとでもおもったのだろう。そんなこと、ありえないっていうのに。シルクハットを被った男性は、それを取り、わたしたちを見るとにこりと微笑んだ。「やあ。わたしはここより遠く離れたところで、領主をしているんだ」男は夫人より十は歳が上だとおもう。白髪交じりの黒髪は、オールバックになっていて、その様に乱れはなかった。目じりに刻まれた深い皺は、穏和な印象を与える。姓をキャヴェンディッシュと名乗った夫婦は、院長とわたしたちに連れられ、孤児院の奥の奥まで連れられる。

キャヴェンディッシュさん。

口に出せば噛みそうだ。なんて面倒な姓をしているのだろう。もう少しマシな人がくればよかったのに。

そうはおもうが表情にはけっして出さず、にこにこと彼らの話に耳を傾ける。いわく、子供がなかなか生まれず、困っていると。そんなとき、里子を引き取るのはどうだと友人に言われ、この孤児院を訪ねたということ。引き取るのは男の子でも女の子でもかまわないということ。そして、彼らが選ぶのは、たった一人、ということ。

エミリーを見た。彼女は夫人と楽しそうに話をしている。エミリーは本当の笑顔を浮かべて、にこにこにこ。さすが美少女。その姿はとても愛らしい。しかし、夫人はどうだろう。ふとわたしは夫人の顔を見る。その目は笑っていなかった。やっぱり、口では子供が生まれないだの言っているが、この人たちは魔法使いを探しに来たのだ。そしておそらく、彼らも、魔法使い。

その考えにたどり着いたとき、心臓がばくばくと鳴るのを感じた。選別されている。そのことにようやく気づいた。男がふとわたしを見た。わたしの目を見た。彼の瞳の色は深い苔色。はっとしてメアリーを見る。わたしはこの人たちの前でかわいこぶることを忘れた。メアリーはいつものようにうつむいている。自分のつま先を見ているのだろう。その目はわたしと同じ、でもわたしよりも暗い苔色。


「魔法使いの見分け方を知っているかい。お嬢さん」キャヴェンディッシュさんはわたしを見て言った。優しい声音だった。おそらく、私以外の人には聞こえない音量で、わたしに言ったのだ。






「簡単さ。魔法使いと魔法使いが近くにいると―――互いの目は苔色に変化するんだ」



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