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ペレストロイカ  作者: ゾン子
海市蜃楼編
11/12

「これまたきれいなんだ……」



 誰よりも自分のことを愛してくれた女の子は、とてもきれいな服を着た男の人に連れて行かれてしまいました。ぼくは彼女を助けようとしたけれど、男の人に近づくと、ぼくの目がぎんぎらと苔色に強く光り、痛みのせいで涙がぼろぼろとこぼれてくるのです。

 黒いしなやかな、まるで烏のような濡れ羽色をした髪を、風にたなびかせ、男の人はぼくをちらりと見やりました。しかし、すぐ興味をなくしたように、女の子の手をにぎり、そして見つめるのです、彼女の赤い、きれいな瞳を。



「あそこにいるがきんちょと同じ赤目……。しかしお前の赤は、赤は赤でも深緋(こきひ)色だな。

 ああ、深緋色ってわかる? ずっと東にある国にある色の呼び名なんだが、これまたきれいなんだ……」


 恍惚とした瞳で彼女を見る彼の瞳。苔色に光る、魔法使いの瞳。



 彼こそが、ぼくのあこがれていた『偉大なる魔法使い』その人だと気づいたのは、ずっとずっとあとになってのことだった。




**


 やったー! ようやく杖卒業したよー!


 魔法学校に入学して三ヶ月がたった。特別クラスでは、エイプリルやカラムのほかに、ちらちらと数名、杖を使わずとも魔法を使えるようになった生徒が増えた。そいつらに負けてられない、とわたしもムダに対抗心を燃やして、とにかく魔法を使いまくったのが功をなしたのか、ようやく杖を卒業することができた。


「カークランド、いい判断だった。魔法に慣れていない子供は杖を使わないと魔法を具現化できないということはつまり、魔法に慣れてしまえば杖は必要ないということだ。

 きみの訓練の着眼点はすばらしい。だが、一々板書をするのに魔法を使うのは、いかがなものかね」


 と、鬼教官からこのようなお褒めの言葉を頂戴したのだが、半分説教になってないか、これ。しかし、板書は魔法でやってるが、寮に戻って勉強するときはちゃんと自分自身の手でやっている。書くという行為は一番ポピュラーな暗記方法だし、何より、『魔法の才』で言えば、わたしはこの学園で、否、魔法使いの中では平凡なわけだから、とにかくそれを補うには知識のところで差をつけなければいけない。魔法使いが一番死亡率の高い危険な職種だと知って、わたしは決心した。軍隊でちゃっちゃかすごい功績あげて、一年で抜けてやろうと。大体魔法軍の給料とか、あんまよくなさそうだし。年収が日本円で換算して四百万とか、平均値じゃない。最低でも六百万は欲しいわ。王宮つきの魔法使いなんて、年収は一千万は軽く超えるし、やっぱ目指すところはそこだよね。この国、所得税は累進課税じゃないし、やっぱり上の層へいけばいくほど、税なんてあってないようなもの、みたいな風潮があるのだ。いつの時代も、重税に苦しめられるのは下の階級である。


 さて、話を戻そう。杖を卒業したということは、これからは指一本動かす必要もなく、ただ頭の中の想像力を広げて、自分の思ったとおりに魔法を使えるということなる。魔法を使うのに、呪文なんて必要ない。頭の中に思い浮かべればいいのだ、自分がどんな魔法を使いたいのか。まあ、それにも一々原理を知る必要があるのだが。その原理をすっ飛ばして自分の魂に眠る魔力を縦横無尽に扱えるのが、『偉大なる魔法使い』だそうだ。いいなあ、うらやましい。わたしなんて、一々コーヒーカップを魔法で持ち上げるのに、そのとき使う筋肉や、その動き、使う力なんかを想像……計算しなくちゃできないんだから。やっぱり想像の範囲を超える魔法は無理みたいだ。しかし、想像が精密でなければいけないというわけではないらしい。やっぱりわたしたちはまだ子供で未熟だから、そうでもしないとできないというだけで、ようは慣れの問題だそうだ。



「子供ってやだね。早く大人になりたい」


「なにませたこといってんのよ、ベニ」



 先日行われた試験の、結果が発表された。やはりというかなんというか、ここは生徒の競争心をあおるためか、点数の一位から最下位まですべて発表される。ちゃんと学年順になっており、一年生と二年生は特別クラス通常クラス混合である。

 あの入学式にも使われた講堂にどでっかく貼ってある試験順位の紙をぼんやりとみあげた。ベニ・カークランドの名前は、開けてびっくり玉手箱。なんと一番上に書いてあった。二百点満点の一教科だけで、点数は百九十八点。はい、おめでとうござますね、わたし。

 まあ、テスト勉強は死に物狂いでがんばったし、この結果は当たり前だと受けとめた。そもそも、魔法の座学が種類としては暗記物に分類されるため、おぼえるところをおぼえてしまえば高得点は普通に取れるのだ。まあ、これも前世で暗記ばっか勉強してた産物かね。

 コルデリアはわたしの点数と順位を見て、あんぐりと口をあけた。


「座学の成績、一番とは言ったけれど、まさか学年一番とは思わなかったわ……。ベニって、ほんとうに頭がいいのね」


「コルデリアだって悪くない成績じゃん」ちらりと見やると、彼女の名前は上から十五番目にあった。ちなみにカラムは五位、エイプリルは完璧実技型なのか、順位はずっと下のほうだった。どれくらい下なのかというと、一年生は全部で百二名いて、彼女はしたから数えて二十番目といったところだ。……カラムはいつも座学では寝ているはずなのに、末恐ろしい奴だな。


 まあ。なんというか。

 結局わたしの成績っていうのは、努力の結晶なわけなのだ。努力に努力を重ねて、それでようやく勝ち取れた一位なのだ。もちろん魔法の実技だってがんばってる。いつかエイプリルを抜かそうと、放課後の走りこみは誰よりも一番長く走る。早く魔法になれるため、たくさん魔法を使う。練習だって欠かさない。三ヶ月で杖を手放した成績、あれも努力の結晶だ。最短の半分は大きい。


 でも、でもでも、座学のように一番にはなれない。魔法とは才能の塊だ、才能そのものだ。ふと、入学式のときに聞いたそのフレーズが反芻される。そう、才能の差によって、わたしはキャヴェンディッシュさんに選ばれなかった。メアリーは、わたしよりも才能があったのだ。悔しいことだが、認めなければいけない。魔法とは、努力なんかで覆られないことを。結局その人の価値を決めるのは、悲しきかな、その人の才能だということを。

 





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