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少年の届けもの

作者: そら

この小説は二部構成となっています。


どちらから読んでも、支障はない・・・・はずです。


個人的には「探しもの」→「届けもの」の順をオススメします。


何度も繰り返した。

色々と試してみた。

だけど、結果は変わらず、会う度に少女は全てを忘れていた。


******


机に数冊の本が積まれていた。

少年はその上にある、古びた本を手にし、くしゃりと顔を歪める。

刷られた絵や文字はほとんどかすれてしまい、読むどころか昔の姿を想像するのだって難しい。

少年はその上を優しく指で撫でていく。

この本に籠められている一つの賭けと約束。

端から見ればとても小さいものだけど、そこに籠められた思いはとてつもなく大きい。

きつく目を閉じ、そして、小さく呟いた。


「今から行くね――――鈴」



******



通い慣れた道のりを突き進み、目的地である部屋の前であるバルコニーに着く。

建てつけの悪い扉を押し、中に入ろうとするが、中から何やら派手な物音が聞こえ、思わずその足を止めた。

数拍固まった後、少年はゆっくりと扉を押し、中へと足を踏み入れる。

そして、中で震える少女を見、首を傾げる。


(あれ、いつもと少し違う・・・・? )


少女がいる位置に本の置き方、その他諸々、少年の記憶の中にある情報と違っていた。

唯一、驚き、恐怖で固まった少女の表情は同じだが。

気にはなるが、見ているこちらが可哀想だと思うほど震えている少女を放っておくことはできず、いつもとは少し違う言葉を口にした。


「――――大丈夫?」

「男の、子?」


そう呟く少女は気が抜けたのか、それともまだ混乱しているのか、呆然と自分を見つめる。

傍に落ちていた本を拾い、少女の目線に合わせるために少女の目の前に腰を下ろした。


「ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ」

「大丈夫。・・・・少し驚いただけだから」

「そっか」


少年は小さく笑い、拾った本を少女に差し出す。


「僕の名前は満。君は?」


少女は差し出された本と満を交互に見つめ、そして、少しの躊躇いを見せつつも、しっかりとした声で名を呟いた。



******



あれは、幾夜もあった内の一つ。

一人で耐え切れなくなって、思わず呟いてしまった言葉を鈴は拾ってしまった。

そこからは、堰を切ったように今まで一度も鈴に話さなかった、いや、話せなかった話を全て曝け出してた。

話していく内に頭は段々と冷静になっていき、顔を青ざめながら一度も言葉を発さなかった鈴をおそるおそる見やると、鈴はただ涙を静かに流していた。


『ごめんなさい。あなたのことをどうしても思い出せないの』


仕方ない、と言おうとした満の言葉を制し、鈴は本の山の中から一冊の本を取り出し、それを満へと渡した。


『この本を満に貸すね。一度だけでいいから、ここを訪れて返しにきてくれないかな。』

『鈴、急にどうし、』

『私ね、この部屋にある本だけは片時も忘れたことないの』

『それじゃあ、もしかしたら・・・・!』


目を輝かせ身を乗りだす満の前に鈴は人差し指を差し出し『それでね、』と続けた。


『もし次会った時に、思い出せなかったら、もう会わないで』


満は頭を殴られたような衝撃を受けた気がした。

息を呑み、目を見開く少年を鈴は柔らかい微笑みで見つめた。



******



「本をね、探してたの」


その言葉に心臓が跳ね上がった。

もしかしたら、という期待が胸を横切り、緩みそうになる頬を叱咤し奥歯をかみ締め、ぐっと堪える。

少し震えがちな声で憂鬱そうな面持ちの少女に聞き返した。


「本を?」

「うん」

「どんな本?」

「それがね、分からないの」


ぽつりぽつりと鈴が話を進めていくにつれ、鞄を持っていた手に思わず力が入っていく。

そして全てを聞き終えた時、全身の力が一気に抜けた。


「そっかあ・・・・」


本、とは紛れも無く鈴から渡されたあの本のことだろう。

その本を少しでも気にかけているということは、ほんの少しだけでも鈴の中にあの出来事が残っているということだ。

満の様子を不思議そうに見る鈴をくしゃりと笑いながら見ていた満は、ある部分に目を留め、思わず、「あ」と小さな呟きをもらした。


「どうかしたの?」


そう聞く鈴に慌て、咄嗟に考え付いた言葉を口にした。


「僕、そろそろ帰らなきゃ」

「え、もう?」

「朝起きて僕がいなかったら家族が心配するしね」


咄嗟についた嘘だったが、鈴はあっさりとそれを信じ、そして肩を落とした。

その消沈ぶりに苦笑をもらしつつ、最後に、今日来た一番の目的に取り掛かる。

鞄を開き、数冊の本を取り出して鈴の前へと置く。

拒否されるかもしれないと一抹の不安を覚えていたが、鈴は拒否するどころか目を輝かせながら受け取ってくれ、安堵する。


今日一番の目的も果たされ、帰ろうとバルコニーの手すりに足をかけ、木に飛び乗ろうとしたその時。


「満!」


そう呼び止められ、突然のことに驚いて鈴と先程までいた場所を反射的に振り向いた。

だが、そこには自分が貸したばかりの本が積み重なっているだけで誰もいなかった。


(時間切れ、かな)


ほんの少し歪めた顔に寂しさを乗せ、その場を見つめていると、耳に聞こえてきた新たな声に頬を緩ませた。



******



満はほんの少し高い建物から先程までいた屋敷を見つめる。

庭はもう何年も手入れされていないと思われるほどに草木が伸びきり、その中心に建つ屋敷の窓という窓は割れ、至るところが崩れ落ちていた。

住宅街にあるその屋敷は、百年以上前から建つと聞く。その見た目の不気味さから、周辺に住む住民の苦情が上がり何度も取り壊し工事が行われようとしたが、いずれも失敗に終わっている。

満はその屋敷に向けて、ゆっくりと唇を動かし、くるりと身を翻した。




おやすみ、鈴。

またね。





.

初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。

そらといいます。


前書きで書いた通り、この小説は二部構成となっています。

もう一つの「少女の探しもの」もよかったら読んでください。


「届けもの」の背景のつもりで書いてみました。

うーん、なんだかまとまりがない気がしてならん。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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