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第7話:葛藤の狭間

『港が殺された日』、放課後。

 綾瀬は、三好が失踪したという情報に、驚きを隠せずにいた。何か知ってしまったのか、それとも何かに巻き込まれているのか。綾瀬にはそれが分かりかねていた。

 一体、三好に何があったというのか。港も来ず、蒲郡も早々に何も告げず帰宅する始末。

 綾瀬は、様々な事象が立て続けに起こったので、思考を纏めるべく、生徒会室に向かった。


 生徒会室は、いつもと同じように何も言うことなく迎えてくれる。窓の傍にあるサボテンがこちらを見て『何悩んでんだ?』と話しかけるように見えた。部屋の中央にポツンと置かれている、生徒会一同が集まって取った集合写真が、夕日に照らされ色褪せたようになっている。

 この空間だけが、時間から切り離されている、そんな静かな夕方。

 そんな静謐な世界に、紛れ込んできた住人一人。

 その名は、古村京助。

「いや~参った参った!どうなるかと思ったわー」

「今日は生徒会無いけど、どうしたの?」

 古村は、自慢のアフロを弄りながら答える。

「用事は特にないけど、三好が逃げ出したって話聞いてさ、ドファンキーだなと思って」

 綾瀬は下がりきったメガネを人差し指で突き上げ、

「理由になってない」

 綾瀬が、古村を怪訝な目で見ている。

「そんな……みんなが心配になったじゃ、だめ?」

「……ごめん、今結構混乱してるからさ」

 私が冷静さを欠いてどうする。こいつの方が落ち着いているように見えるじゃないか。同じ生徒会委員を疑ってどうする。

 アフロ頭を凝視し、冷静さを取り戻す。

「それで、何か分かったの?事件のこと」

「ああ……、警察の話を盗み聞きしてきたんだけどさ、どうもあの日に残ってた奴が絞り込めてきたってさ」

 思わず唾を飲みこむ。

「奴って、誰?」

 古村は手を震わせ、額からは汗をにじませながら、言い放つ。

「沢野あやめ、だそうだ」

 一瞬、世界が死んだように黒く染まった。

「……それ、本当?」

「嘘じゃない。間違いなく、そう聞こえた」

 全く考慮に入れていなかった、沢野がここに来て犯人説が浮上した。

 警察にその情報が入っているということは、沢野の当日の行動を誰かが目撃しているということだ。

「証言者は?」

「ごめん、そこまでは聞けなかった」

 古村はアフロに詰まった紙くずを必死で引き抜こうとするが、思った以上に深く入り込んでおり、うめき声を挙げながら取り出す。

「・・・・・・いつ入れられたの?」

「感触無いからな。分からん」

 早速取り出したくしゃくしゃになった紙を押し広げる。

 そこには、


 『おまえ は つみ から にげられない 』


 と書かれていた。

「何これ?」

 綾瀬の背に氷柱が突き刺さるような衝撃が走る。いたずらとも取れる。しかし、わざわざ古村のアフロに雑に手紙を押し込んでいる訳だ。これは故意的にされたことだと判断していいだろう。

 では、何のためにこれは仕掛けられたというのだ?あの文章の『おまえ』は誰を指しているのだろうか。古村に突っ込まれていた手紙なのだから、古村のことを指していて当然だろう。

 なら、『つみ』は何だ?文脈から察するに『罪』とするのが妥当だろう。となると、古村の『罪』とは一体何だ?

「なんだよこれ・・・・・・気味の悪いイタズラだな」

 古村はその紙を再びクシャクシャに丸め、その辺りのゴミ箱に投げ入れた。

「古村は、何か心当りないの?こういうことする人」

「いや、まあ、やりそうな奴なら、いくらでもいるわな」

 古村は見た目からも分かるとおり、幅広い人と分け隔て無く接しており、そこそこ顔が売れている校内有名人だ。イタズラを仕掛けるとしたら、該当者が無数に存在している。絞り込むのは至難の業だ。

「そうだよね。なら、一体何が目的だったんだろう?」

「からかいたかっただけじゃない?」

「そうかな」

 物騒なことが起きている学園だ、少しのことに敏感になっているに違いない。今は取りあえず、そう思うことにした。



 しばらく生徒会室で古村とだらだら雑談した後、綾瀬は帰宅の途についた。古村は駅前でこの後ヒップホップダンスを披露するらしい。そんなにダンスが上手かったか?

 もはや、何を信じていいか分からない。今まで生徒会として活動してきたメンバーが次々と学校に来なくなった。港も、三好も。蒲郡くんは大丈夫なのか?

 ふと、携帯電話を手に取る。アドレス帳を開き、蒲郡くんを探す。電話をかけて、無事を確かめるべきなのか。でも、私にはそんな勇気は無い。今まで蒲郡くんと面と向かって、二人きりで話したことなんて無いのだ。只でさえ、人と話すのはそんなに好きではないのに、蒲郡くんとなると、他の人と話している時よりも、何故かいつもより心臓の鼓動が高鳴る。

今だって手が戦慄いているのだ。この手で一つ、ボタンを押すことさえ、ためらってしまうのだ。これは知ることに対する恐怖なのか。繋がることに対する恐怖なのか。それとも・・・・・・

 震える手を押さえ付け、電話をかける。

回線を繋ぐ音が、鼓膜を周期的に揺らす。



・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

出ない。しばらく待ったが、蒲郡くんは出ることは無かった。

やはり、私ではダメだということなのだろうか。


いつも私はみんなの為に尽くしてきた。生徒会でのスケジュールの組み立てや作業管理などを一手に引き受けてきた。今まで私は一度もミスを犯して他人に迷惑を掛けることは無かった。

しかしその代わり、私は孤独だった。

誰がこの作業を手伝うことは無く、私も助力を願わなかった。私が始めた作業なのだから、一貫して私が責任を持ちたいという強い意志があった。誰かの意思を介在させてしまっては、折角の思い描いていた像が壊れてしまうからだ。私は私なりのこだわりを持って仕事をしていた。

なぜ孤独にこだわるのか、と言われても仕方ない。だがそれには私なりの理由がある。

それは、昨年のことがキッカケだった。


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