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8話

座ったまま失神した男を足の先で倒し、レイジーは無言で眺めた。大それたことをする割りには小心者だったと。動きも洗練されていない、野盗のような無造作なものだった。それも、下っぱの。


今度は倒れている女に目をやる。服や髪にまで毒の薬草の匂いが染み付いていることを考えると、到底まともな暮らしの女とは思えない。男を囮に逃げようとしたのは、潔い悪党っぷりで少し興味をひかれた。

酒場では、縛られて転がっている男と対立していた。心で結ばれた同志ではなくただ利害が一致して集まっただけの集団であろうか?


首を傾げて考えるレイジーは、目の無事な側の横顔を見れば憂いを帯びた美少女のように見えた。


しかし、短い付き合いながらこの人物の内面が複雑で冷酷で危険極まりないと思っているボッシュは、考え込むレイジーの姿に不安を覚えた。何を企んでいるのか、暴れ足りないのか。


レイジーが聞けば苦笑するか不貞腐れるかのどちらかだが、決して否定はできないようなことを思い浮かべる。



男の自白が真実ならば、指輪を持っているという仲間を追い掛けなくてはならない。

だが、取り戻した手紙はどうすればよいのか。


万が一自分に何かあって、悪意ある人物の手に手紙が渡れば事態は確実に悪化する。内容は不明だが、公式の文書の体裁なので悪用しようと思えばどうとでもなる。


そんなものを持って、旅を続けるのは得策ではない。


「また、ため息…」



笑いを堪えるような小さな声でレイジーが指摘するのを睨んで、ボッシュは口を開いた。


「お前に頼みがある。俺は手紙を先に安全なところへ届けたい。こいつらも引っ立てて詳しく尋問する必要がある。だからこのまま指輪の行方を追ってくれ。後から行くから」


レイジーはからかうような表情を消して、ぼんやりと聞いていた。

騎士と別れて指輪を捜せるのは実に好都合である。運がよければお宝をいただいて姿をくらますことができるだろう。


ただ、もう一つ気になることが出来てしまった。


「それは別に構わないけどね。一つ条件がある」


片眉をあげて促す騎士に、出来るだけ愛想のいい表情を作ってみせる。


「この女を連れて行く。仲間を捜すのに役立ってもらいたい」


当然のことながらボッシュは即答できない。

犯人の一人の処遇を、たかが一騎士である自分が決めていいはずがない。


悩む彼を尻目にレイジーはテーブルから降りて伸びをしている。大あくびまでするのを見て、いささか気が抜けるような心持ちで、女とレイジーを交互に見比べた。


手紙と指輪が戻れば何をやってもいい、という趣旨の命令を受けたような気がする。


そもそも任務を失敗したのは自分ではないし、レイジーを雇ったのも自分ではない。では、これは責任を問われない手段の一つに数えられるだろう。


自分を騙しているような気がしないではないが、現状を受け入れることにした。


「わかった、その女は連れて行け。どこか町に入ったら役所か宿屋にでも俺宛ての伝言を置いとけ。それから…悪党でも女だ、ひどいことはするなよ」



レイジーはそれを聞いて内心不思議に思った。どの辺までがひどいことの範疇に入るのだろうかと。

尋ねてみようかとは思ったが、すでにボッシュは捕虜を連行するための準備に取り掛かっていたためやめておくことにした。


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