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7話

えぐい表現があります。

苦手な方は回避してくださいませ。


レイジーは独り言を言うように、ただ確認をするかのように呟く。


「どこかで嗅いだと思ったんだよ。お前は泊まらず帰ったのに、朝部屋で匂いが残ってたんだ。さっきも死体の辺りから匂いがした」


不快そうに鼻を擦り、今度は表情もゆがんだ。


「嫌な匂いだ。薬草の、毒の匂いだ」


「このっ」


中年男が立ち上がり、持っていた小振りの剣を振りかざすのを後ろへ跳んでかわし、レイジーは一瞬で自分も剣を抜いてそれを男の開いた口へ突っ込んだ。


男は大口を開けたまま、驚愕の表情で固まった。唇や切れた口内から血が流れ出し、涎と一緒になって溢れだす。


「動かないでね〜死にたくなければっと、お前も!」


レイジーが男を制している隙に逃げようと女が走りだしたのを目の端でとらえると、彼は姿勢を崩さずに片足で椅子を蹴り上げ空中で掴み直し、それを無造作に女へ叩きつけた。


避けられずにまともに食らった女が倒れて動けなくなったのを確認すると、一つ頷いて、中年男へ向き直った。


「さて、おじさんには間抜けな騎士から奪ったものを見せてもらおうか」


「間抜けは余計だ」


片手を出して男の前に突き出した時、隣室の戸が開いて縛った男を引きずりながらボッシュが出てきた。

彼が出てくる前に指輪を確認しようという目論みははずれたが、それよりも縛られた男が気になった。


汚れてはいるものの上質な衣服、喉元がたるんだ肉付きのよい体。


「あーそいつも昨日の」


ボッシュはその呟きに首を傾げたが、倒れてうめいている女がいることに困惑した。


「…状況を説明しろ」


「その変な匂いの女が宿に放火した。こっちの男が多分外の男を始末した。で、腰の袋に大事なものを入れてあるみたいだよ」


やけに匂いに拘るな、と思いながら男に近付き、言われた通り腰の袋を手に取った。柔らかい革に蝋をひいて防水処理を施してある。

ボッシュは内心冷や汗をかきながら、中身を取り出した。


上質な紙が巻かれ、美しい色彩の組紐が巻き付けられている。表面には何も書かれていないが、紙の合わせ目には王弟の紋章印が押されていた。

略奪品を女に贈る手紙に公式の印を使う神経に絶句したが、とにかくこれが持ち帰るべき手紙だろう。


しかし、袋にはこの手紙しか入っていなかった。


「指輪はどこだ?!」


目的を達したと判断して、中年男を放り出してテーブルの上へ腰掛け、呑気に剣の手入れをしているレイジーが驚いて顔をあげた。


「はぁ?知らないよ、入ってんじゃないの?そっちのは持ってなかったの?」


隣室の窓から忍び込んで、そこで休息していた男にいささか荒っぽい手段で尋問したが、何も持っていなかった。

眉をひそめて、倒れている女をざっと改めるが隠している様子はない。


二人の目は、涙目で傷だらけの口を手で押さえている男へ向けられた。

ボッシュの目は明らかに苛々として細められており、レイジーの片目はどこか面白がっているような様子だが、先程自分や仲間の女を痛め付けたのはこの優しげに見えた少年である。そもそもこの年代の子供は若さに任せて無茶をするし、敵対者には容赦する余裕を持たないものである。


男はうめいて後退しようとしたが、すぐに壁にぶつかり、腰が抜けたようにずるずると座り込んだ。


「指輪。どこへやったんだよ」


ボッシュは不機嫌さを隠しもせずに問い掛ける。愚かな死人の尻拭いが迅速に終わると思ったのに、とんだ誤算である。

自分よりも遥か年上の男が見苦しく涙を流すのも不快だった。


「おじさん、舌切ったわけじゃないんだから早く喋りなよ。仕事終わらせてやらなきゃ気の毒でしょ。それとも言ってくれるまで舌以外のどこかを切り落としてみようか」


追い詰められた男だけでなく、ボッシュまで不穏なものを感じて思わずレイジーを見た。冗談か本気か判断のつかない表情であるが、恐怖心を煽るには充分だった。


「も、もう、ここに、は無い。仲間が、売りに」


痛みを堪えつつそれだけを絞りだすように言うと、男はついに失神した。


レイジーは男女平等に扱います。

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