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6話

「『世界の目』って、なんだそりゃ」


同行者の気のない問い掛けに、レイジーはうっすらと笑みを浮かべた。

この国に来てからはお宝の情報どころか、名前すら知られていない。


「どこにいてもどこからでも、この世界の見たいものを見ることができる目のことだよ」


無知な暫定的相棒のために親切に教えたつもりが。

ボッシュは渋い表情で肩をすくめ、ため息をついた。


「気持ち悪いな。そんなもんがあるんなら」


レイジーは意表をつかれて彼の顔を見つめた。この愛想のない騎士はよほど欲のない男に違いない。お宝のことを聞いたら、その反応は驚くか欲しがるかの二つだったのに。あるらしいという可能性だけで殺し合いに発展するほどに。


まじまじと見つめられて居心地が悪かったのか、若い騎士は眉をひそめて目線を外し、進行方向を顎で示した。


「ま、お前が何者かはどうでもいいか。先に進むぞ」


ボッシュは詮索を中止して本来の任務を優先させることにした。この性格も周囲から揶揄されることが多いが、細かいことに拘らず、仕事中は他のことに構わない、極度の面倒くさがりであった。



しばらくは黙って追跡に専念していた二人は、目的の小屋らしき影を見つけて立ち止まった。

小屋から見えないところまで後退し、ボッシュは二頭の馬を木に繋ぐ。その間レイジーは姿勢を低くしたまま小屋を伺っていた。


「この匂い…覚えがある」


近寄ってきたボッシュにそう囁くが、彼には土や木の香りしか判別できない。


「何のことだ」


低く問い掛けると、珍しく真剣に悩んでいるような表情で首を振った。記憶が曖昧なのがすっきりしないがここは仕事を優先させるべきだろう。

レイジーはボッシュの問い掛けには直接答えず、小屋を指差した。


「とりあえず、僕が迷った振りして正面から行こう。君は窓からでも入って調べる?」


恐ろしく適当な計画だが、敵が小屋にいるのならボッシュは服装で騎士だとばれてしまう。だが無関係な男を囮に使うのは気が引けるので返事をためらっていると、何を勘違いしたのかレイジーは妙に明るい笑顔でボッシュの肩を叩いた。


「心配しなくてもいきなり殺したりしないって」


微妙に的外れなことを言うのにため息をつき、彼ならば殺しても死なないような気がしていた。レイジーはそれからわざと音を立てながら小屋へ近付き、大きな音をたて扉を叩き始めた。

それから、中で人が動く音がするのを確認するといきなり扉を開く。


「ごめんくださーい」


自分でも今の挨拶はちょっとおかしかったかと思わないでもないが、無造作に踏み込みながら内部を観察する。入ってすぐに大きな木のテーブル、椅子が三脚、そこには唖然として腰を浮かした男が一人。中年男は旅装のままで、足元には雪が溶けた跡が染みをつくっている。

男に微笑みかけて、窓辺に目を向ける。窓の横には暖炉があり、そこには若い女性が一人しゃがんで鍋で何かを煮ているのか、湯を沸かそうとしているのか、不自然な格好でこちらを見ていた。冬用の分厚い生地のワンピース姿で、地味な顔にはあまり化粧もしていない。身なりに構わない女性は好みではないので、興味はひかれなかった。こちらの足元はテーブルとスカートでよく見えない。

小屋は二間に別れていて、戸が閉められている。そちらにもどうやら人がいるようだが、ボッシュがなんとかするだろう、と無視することにした。


「いやぁ、雪が積もると歩きづらいですよね」


レイジーは他人に自分の顔が与える影響を理解している。傷を覆っているため半分しか見えなくても、皮一枚で態度は大きく変わるものだ。それは腹立たしいことだが、生きていくためには積極的に利用する。

寝不足と空腹でひどい顔色になっている今、やるべき演技は『性別不明の可哀相な子供』の振り。


「雪に慣れてなくて。迷ってしまったんだけど、ちょうどこの小屋を見つけたんです」


ため息を吐いて俯き、よろけてみせると、戸惑うように顔を見合わせていた二人が慌てて立ち上がった。

男がレイジーを支え、椅子に座らせれば、女の方は木の深皿に鍋から何かを注いで運んできた。

どうやら薄いスープのようである。レイジーは本心から喜んで有り難くいただくことにした。


「お前さんはどこから来たんだい」


隣に座る中年男は、気遣うような探るような、複雑な眼差しでレイジーを見ている。レイジーは正直に答えながら、ふと表情を曇らせた。


「出てくる直前に、何か騒ぎがあったらしいです。物騒ですよね…」


それから顔を上げて二人に微笑みかけた。


「お二人はどちらから?旅のかたですよね、よかったらご一緒しませんか?」


男は無言で腰に下げた袋に手をやり、それをごまかすように急に握りこぶしを作ってテーブルへのせた。

女は不安そうにその様子を見てから、隣の部屋へと目を泳がせた。


「あ、もしかして他にもお連れ様がいらっしゃるんですか?」


「いや、我々はただの遣いできているんでな、勝手には…」


「旅は道連れというではありませんか。こっちは一人で不安だし、そちらは女性連れでしょう、人が多いほうが安心ですよ」


内心ではこの面倒な会話にも飽きてきていた。どうやら男は腰の袋に大事なものを隠しているようなので、無理矢理にでも改めれば片が付くではないか。

隣の部屋に意識をやるが、ボッシュがもう来ているのかわからない。そういえば特に打合せずに始めてしまっていた。やはり先にこの二人を調べておくか。 

そう思った時女が言った。


「ちょっと、この子怪しいわ。どこかで見たと思ったら、あの酒場にいたのよ」


「はぁ?だから、そこから来たって言ってたろ」


「あそこにはあの騎士たちも居たのよ!こんな偶然ってある?」


二人の言い争いをぼんやりと聞きながら、レイジーは外でのことを思い出していた。自分は外で何かが気になっていた。後回しにした何か。


「匂いだ。うん。匂ってるね」


不意にしゃべりだしたレイジーに、二人は息を呑む。

美しい顔に表情はなく、深い青色の目はひどく暗かった。冷たい視線はゆっくりと女に突き刺さる。


「お前だ、その匂い。酒場に居ただって?あとで戻って火を点けたな」

半端なところですみません

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