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4話


二人がかりで大柄な騎士を担ぎ出し、雪の上へ倒れこんだ彼らに慌てて駆け寄ってきた者があり、咄嗟に身構えたが、それは自宅兼店舗が燃え上がりつつある店主であった。


「あぁ!お客さん無事だったかね!」


人のいい男は、彼らにすがる様にして喜んだ。店から火が出て客が死ねば、理由がどうあれ彼の責になる。それに、自分から見ればまだ子供の年代の二人が無事だったことは素直に嬉しかった。


ボッシュはそっと騎士を座らせると、二階から投げた荷物を回収するため建物を回り込んだ。

そこには死体も落ちているはずだったが、血で染まった雪と、そのまわりに散乱する荷物しかなかった。

辺りを見回し気配を探るが誰かが潜んでいるようには感じられず、一瞬追跡をすぐに始めないと間に合わないという危機感が頭をよぎったが、自分を呼ぶ声がして我に返った。

誰を探し何を取り戻すのかも彼には解らないのだ。事情を知っている見込みのある男の治療が最優先だ。


ボッシュが駆け戻ると、住人が集まってきており、消火作業も始められていた。怪我人はレイジーによって座った状態で支えられており、傷は多いが意識はしっかりしていた。



特に会話もなく淡々と手当てを終え、親切な住人の家へ招き入れられた三人は、暖炉の前でむっつりと座り込んでいた。



「君達に巻き込まれて荷物が全部燃えたよ」


「そうか」


「朝飯も食べてない」


「俺もだ」


ボッシュの気の抜けたような返答に、レイジーは彼の座っている椅子を蹴り付け立ち上がった。


「君達昨日からおかしいよね。騎士のくせに人に迷惑かけてどういうつもり?」


座った二人の騎士を見つめるレイジーの片目は、どこかぼんやりとしていて、優しげな口調と相まってひどく不気味に感じられ、ボッシュはほとんど無意識のうちに剣の柄を握り締めて立ち上がっていた。



「説明するから座れ、二人とも」



包帯だらけの騎士が両手を広げて若者達を制し、睨み合いながらも二人は椅子に座りなおした。


数年前まで続いていた隣国との戦。何度となく繰り返された小規模な戦闘のなかで、ある罪がうまれた。

戦闘中の略奪は厳禁。

王が定めた法を王弟が破って、ある砦から美しい宝石の填まった指輪を持ち帰ってしまったのだ。様々な言伝えのある指輪は、その国にとっては王家の宝。

戦闘は激化し、その中で王弟は戦死した。しかし指輪は遺体から見つからず、行方不明となった。



「その後は陛下が退位され王位を継いだ現王陛下のご尽力により協定が結ばれ、現在にいたるのだ」



「で〜それとこの騒ぎとなんの関係があるの」



長い話に飽きてきたレイジーが先を急かす。睡眠はとれたものの、空腹なままで走り回り、眠る前よりも疲れていた。荷物は焼けており、この先思いやられる。彼にとっては王族の問題など爪の先ほどにも気にならなかった。



「つまりだな、先王弟殿下は亡くなる前に指輪に手紙を添えてとある女性に贈っていたのだ。我々は内密にそれを受け取り、持ち帰るのが任務であった」


「それは国王陛下の命ですか」


それまで黙っていたボッシュが絞りだすような声を出した。裏にそんな事情があるとは思いもよらなかったのだ。

お偉いさんの尻拭い。しかもどう考えても悪いのは先王の弟である。いけすかないとはいえ、それでもう二人も死んでいる。


「襲ってきたのは指輪を取り返しに来たんですね」


ため息と共に呼吸を整えながらいうと、傷ついた騎士は微妙に表情を変えた。


「それがそうとも言えん。どちらかというと、指輪よりも手紙を探していたように思えるのだ」


レイジーとボッシュは思わず顔を見合わせた。

事態は想像以上に複雑に絡み合っているようだった。手紙の内容にもよるが、襲ってきたのが自国内の者という可能性もある。


「ものすごーく、面倒なんだね!それより指輪の宝石が気になるんだけど」


深刻な空気に流れを生み出すように、レイジーは勢い良く両手を広げた。先ほど迄とは打って変わり、その青い目は好奇心で輝いていた。


「あ、あぁ。なんでも持ち主に知識を与えるとか、富を約束するとか言われているな」


その答えに今度は考え込んで口を閉ざす。

黙ってしまったレイジーを横目に、騎士はボッシュに向き直った。


「ボッシュ、お前は奴らを捜し出し、追跡しろ。私はここの始末をつけなくてはならない。手紙と指輪さえ戻ればあとはどうなってもよい」


ボッシュは内心では舌打ちし、つばを吐きたい気分になったが顔には表さなかった。それにしても、もしかすると戦争の種ともなり得る事態を自分のような若輩の騎士にまかせるとは。

この先輩騎士は任務の失敗で自棄になっているのだろうか。

心の声が聞こえるはずもなく、今度はレイジーに向き直った。


「女のような顔の片目の剣士が盗賊団を皆殺しにしたと報告を耳にした覚えがある。君のことだな、レイジー。その腕を見込んで頼みがある。今回ボッシュに同行して彼の任務を補佐してほしい。」


レイジーが何か言おうとするのを、片手をあげて制する。


「もちろん、燃えてしまった荷物は弁償するし、改めて報酬も払う」


切羽詰まってギラギラと目だけが光っているような怪我人の様子に、レイジーは反論しようとした口を閉ざした。一緒に行く相手が若干気に食わないが、弁償してもらえて報酬もでるとくれば、断る理由はもうなかった。

それに、その宝石が自分の探しているものなら横から攫ってしまえばいい。



「では、お引き受けしましょう」



そういって笑うレイジーに不安を覚えながら、異議を唱える権利のないボッシュはため息を吐いた。

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