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21話

お久しぶりです。


入り組んだ道を、ボッシュは不機嫌さを隠しもせずに歩いて行く。

平服姿の若者が歩けば、多様な客引きや、あるいは誰彼構わず難癖を付ける輩に囲まれる街だが。


滲み出る苛立ちと腰の長剣を警戒して、誰も近寄っていかなかった。



ボッシュは自分から情報を集めなくてはならなくなったが、邪魔が入らなかったのでとても効率よく調べることが出来た。

名家から盗まれた希少な剣が手に入る場所を探しているという触れ込みで、騎士詰め所で聞いた店を皮きりに、噂を辿って精力的に歩き回ったのだ。


「そう…似たようなことを聞いて回ってる奴が、いたよ」


何軒目かで、そんな台詞が耳に入ってくる。

一瞬宿の主人の顔が思い浮かんだが、表面上は不貞腐れたような顔のままで、声の主を観察した。

何を売っているのやら検討もつかない店の主人は、何枚もの布を巻き付けるようにして目の辺りだけを覗かせている。


「競う相手が増えると困るんだがな」


「あぁ…そいつは大丈夫だろう…剣とは言ってなかった」


益々怪しい。

オットーとかいう男はどこまで探しに行ったのか?


無事なのか?


「街の外れにある、赤茶色の倉庫。三つのうちの真ん中、会場はそこだな」


ボッシュの沈黙をどう受け取ったのか、くぐもった声がそう告げて、あとはいくら話し掛けても答えは返ってこなかった。

開催場所の情報を得たが、日時が分からなければ意味が無い。

その事は百も承知だが、行方不明の中年男を探しに行かねばならない。


店を出て思案していると、斜向かいの家の窓から誰かが覗いているのに気が付いた。


近寄って窓を叩くと、少年が素直に腕をのばして窓を開けた。

自分の半分くらいか、と判断するが、どう接していいかわからない。

子供相手に取り繕うのもおかしな気がして、結局いつも通りに話し掛けてみた。


「ここからはあの店がよく見えるんだな」


「うん。いつも見てるよ」


「どんな奴が来るんだ?」


「うぅん、おじさん」



この子供から見れば大抵の男はおじさんと呼ばれるだろう。

どうやって話を聞き出そうか、と思案していると、子供が目を瞬いた。


「あんなおじさん。あ、行っちゃった」


ボッシュはすぐに子供の視線を追い、何者かの後ろ姿を目の端に捉えた。口の端だけで笑い、子供には菓子が買える程度の小銭を渡してすぐに身を翻す。


後ろ姿を追って狭い路地に飛び込み、走る男の追跡を開始した。

土地勘がないのが災いして何度か見失いそうになるものの、足が早いのですぐに付かず離れずの距離までおいつけた。


「どこまで行くんだ…」


相手の正体が判らないままこのまま追っていいのか、それとも一度捕らえて話を聞くべきか。

彼が悩む間に、謎の男はみすぼらしい建物の前で立ち止まっていた。


男は辺りを見回したが物陰に潜むボッシュには気づかず、傾きかけた扉を叩いて中に入ってしまった。

そっと近付いて耳をすますと、中からは数人の男の会話する声が聞こえてくる。内容までは聞き取れず、身を低くしたまま建物に沿って歩き、窓の下で立ち止まった。

そこは空気を入れ換えるための、取り付けた木の板をつっかい棒で内側に開いて止めてあるだけの簡単なものだった。

外は見えないし、塞いでいないので中の声は筒抜けになる。


「……だろう。身元は」

「どっちかってーと、世間知らずの坊っちゃんってとこですかね」

「こちらさんとは関係ないのか」


「だから、言ってるでしょう!客に頼まれて探してただけで、あんたらがどうこうって訳じゃ……」


かすれた声で三人目の男が口を挟んだ途端、鈍い音がして部屋で何かが倒れ、床が大きく軋む。

男が呻いて苦しむ声を聞きながら、ボッシュは奥歯を噛み締めた。

中に居るのが宿屋の家族ではなかったとしても、助けなくてはならないようだった。






「ねぇ!ねぇねぇねぇちょっと聞いてる?」


「聞こえてるよ」


さっさと進むレイジーの後ろ姿に自棄っぱちのロクスタが声をかけると、振り向きもせずに彼は答えた。


「あの、ね、さっき言ってた事気になったんだけど。あなた古語を使ってなかった?」


歩行に合わせて揺れる艶やかな黒髪を見ながら、彼女はめげずに言葉を続けた。

先程は自分を囮に使うという点に気をとられていたのだが、落ち着いて彼の言葉を整理してみると、最近は耳にしない言葉があったのだ。

ここでようやくレイジーが振り返り、不思議そうな顔をした。


「ん?……あ~」


「この国の事、『深遠なる森』の国って言った!私は薬師として古い文献を読むから知ってるけど…あなたホント何者なの?」


「俺にはさっぱりで」


不審そうなロクスタ達を見返して、レイジーは珍しく口ごもる。


先程の思い付きのせいでロクスタの機嫌が悪いのも、自分の事を説明するのも面倒だった。せっかく綺麗にしてもらったんだから、つまらない事は放っておいて道行く男達の称賛の眼差しにでも気付けばいいのに、などと思う。

そんな事をぼんやり考えていると、彼女は頭を振って追求を諦めたようだった。


「お二人共、余所から来たんスよね。この国はヴァルディークってんですよ」


気を遣った男の台詞にもレイジーは生返事で、何となく妙な空気のまま、店まで着いてしまったのだった。






ボッシュはしばらく悩んだが、結局、中で囚われている人物を助け出すことに決めた。宿屋の義弟でなくても手がかりの一端にはなるかもしれないし、仲間割れならばまとめて拘束すればよいかと考えたのだった。


広くもない建物なので、話し声でだいたいの位置は掴めている。

深呼吸すると剣を抜き、鍵など無い扉を、まるで自宅に入るように開けるとゆっくり足を踏み入れた。


「ん?お前は?」


入ってすぐの壁際にもたれて立っていた男は、腕組みをしたまま不思議そうに若者を見つめる。

自分達の仲間にこんな若いのはいただろうか?

奥の仲間に聞こうとして身動きした途端、腹部に強烈な痛みを感じ、身を丸めたところで更に後頭部にも打撃をうけ、顔から崩れ落ちた。


ボッシュはそのまま部屋の中央に据えられた机に飛び乗り、事態を把握できずに椅子から腰を浮かせて呆然としている男の顎を正面から蹴りつけた。

くぐもった悲鳴をあげた男は、仰け反った挙げ句後頭部を壁に打ち付け、そのままずるずるとへたりこむ。部屋が狭い故の不幸な出来事で、無駄な労力を使わずに済んだボッシュは口の端を歪めて皮肉っぽい笑いを浮かべた。


「……どこのもんだ?手前は、シマを荒らしにでもきたか」


突然入ってきて無言で乱暴を働くこの若い男は、何の目的なのか。

一人残った男は逃げるにも武器をとるにも機会を逸した。せめて立場を守るために虚勢をはってみたが、若者は反応が薄かった。


ちらりと一瞥をくれたが何も言わず、先日縄張りでこそこそ嗅ぎ回っていた男の側へ行き、やっと口を開いた。

「オットーさんか?」


縛られて床に転がされている中年男は、痣だらけの顔で頷き、顔をしかめた。

ボッシュはため息をついて縄を斬ると、立ち上がるのに手を貸した。


「やっぱり、嗅ぎ回ってたのは俺達の稼ぎを横取りしようって――」

「騎士だ」

「「え?」」

「探索中。で、この人を保護する。お前らは後から人を寄越すから」


淡々と説明するボッシュに助けられたオットーまでもが不審の目を向けたのは、本人にとってはとても不本意だった。

「迷子なのに…」よりこっちを先に終わらせたいので頑張ります。

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