18話
メリークリスマス
内容は全く関係ないですが
翌朝。
ロクスタが目を覚ますとレイジーの姿は部屋になく、彼女が宿の主人に確認すると、せっかくの手の込んだ朝食も食べずに出掛けたことが解った。
「あの子は…私の監視をしてるんじゃなかったのかしら?」
コンラートに申し訳ないので多めに食べ、朝から胸焼けを起こしたロクスタは呟いた。
部屋を確かめれば荷物はそのまま置いてある。
旅慣れているようで非常識な行動をとるレイジーが、何を持っているかが気になって、外から触って中身を予想してみる。
「丸い…丸くて硬い?果物かしら。こっちは服に…小さい石?…何なのこれ」
丈夫な布製の袋を上から軽く叩きながら、改めて同行者の正体が解らなくなったのだった。
レイジーは人々が目覚めて活動を始める前に、窓からふわりと抜け出して街を歩いていた。
まだ店も開いておらず、聞こえるのは朝の早い鳥の囀りのみ。目を閉じてそれに耳を澄ましていると、人々が活動を始める音が交ざって空気が大きく揺れた。
その一瞬を聞き届け、レイジーは口元に会心の笑みを浮かべて目を開いた。
「おはよう、お姉さん。一人で起きられたんだね」
「起きるわよ。朝っぱらからどこ行ってたの」
ロクスタは答えながら、帰りの遅い子供を叱る母親のような台詞だと心の中で思い、憮然とした。レイジーはその様子に気付くこともなくへらりと笑い、羽織っていた上着をベッドへ放り投げた。
「そろそろアイツが着くと思うよ」
「誰の事」
ロクスタが首を傾げれば、レイジーは鏡に映したように反対側に首を傾げた。
「あれだよ、騎士のボッシュ。あいつが来るよ」
当然のような顔で答えるレイジーに、なぜ、どうしてと問い掛ける労力を省き、ロクスタは素直に頷いた。
「じゃあ、そのうち街の男達もなにかしらの情報は持ってくるだろうし、仕事が早く済むといいわね」
そして午後になって、レイジーが言った通りに若い騎士は二人の泊まる宿へとやって来た。
短期間でやつれたような顔になった騎士は、コンラートに案内されて部屋に入るとすぐにため息をついた。
「一応聞くが、何か解ったか」
「なにも?」
「街の人に頼んで調べてもらってるわよ」
初めから期待していない雰囲気で問うボッシュにレイジーが即答したので、慌ててロクスタは補足した。
下手をすれば役立たずとして自分は投獄されるかもしれないのだ。気楽そうな顔を横目で睨み、騎士の反応を待つ。
ボッシュはやっぱりな、と呟きつつ、腰に提げた袋から小さく畳まれた紙を取り出した。
「詰め所へ寄って来た。最近この街に来た怪しい奴の情報とか、盗品を扱ってる奴とかで接触できそうなのを聞いた」
「やぁ、君は有能だね」
レイジーが全く心のこもってない賛辞を口にすると、ボッシュは一瞬嫌そうな顔をしてから、肩を竦めた。
「明日行くぞ。俺は二日寝てないんだ」
ボッシュはそう言い置いて二人の返事を待たずに部屋を出て行った。