16話
お久しぶりです
道端にごろごろと転がる男達は、服が破れたり血を流したりしているが、一人として死んだものはいなかった。
それをロクスタは意外に思い、道を塞ぐ邪魔な身体を蹴り転がすレイジーを少しだけ、小指の爪の先程見直した。
「ちょっと知りたいことがあるんだけど。盗人市がたつのは決まってるのか?僕達をいつ売る気だった?」
「俺は、知らねぇっ!」
踵でぐりぐりと手の甲を踏み躙られた男が、悲鳴混じりに答える。
「誰か知ってる人…?」
転がる男達は、何とか這い進んでレイジーから離れ、壁際まで逃げていく。
誰も答える様子がないのを見て、彼はわざとらしくため息をつき、頭を振った。
「これじゃあ生かしておいた意味がないじゃない。どうしようかなぁ、どうやったら役に立つかなぁ」
レイジーはぼんやりした顔で宙を見つめて考えていたが、ロクスタと目が合うと何か思い付いたように手を打った。
「みじん切りにして畑の肥料にしようか!」
「どこからそんな恐ろしい事思い付くのよ!?」
「えぇ〜じゃあ磨り潰して魚の餌…」
思い付いて即ロクスタに却下され、レイジーは二番目の案を出す。しかし彼女はもう相手にせず、涙目で震え始めた男達を見回して、厳かに言い渡した。
「いいこと、アナタ達。命が惜しかったら、盗人の市とイーチェクという男について調べなさい。解ったらコンラートの宿に報告に来るのよ。…さっきの事だけど、多分この子は本気でやるわよ」
男達はロクスタの真剣な表情を見て、レイジーのふわりと優しげな笑顔をちらりと見て、唾を飲み込んだ。彼らには連れの女性の『多分』という言葉と、それを否定しないレイジーの微笑みとで、差し迫った脅威として感じられたのだった。
「わ、解った、やる。やるよ…」
初めに声を掛けてきた男が鼻血を拭いながら答え、周りの男達も何度も頷いた。
ロクスタは鷹揚に頷き、レイジーの腕をとって袋小路から抜け出した。
「お姉さん口が巧いねぇ。アイツ等言いなりにして」
的外れの賛辞を口にするレイジーに適当な相槌を打ちながら、何も言わずに宿までの道程を進んだ。
宿に戻ると掃除中のコンラートに出迎えられ、後日自分達を客が訪ねて来ることを伝える。
「客?どんな」
「一人は若い騎士で…残りは…柄の良くなさそうな男性ですわ。あ、泊まらないから安心して下さい」
愛想笑いが引きつるのを感じながら、ロクスタは店主に告げた。
彼は疑問に思ったようだが言葉には表さず、今日の夕食の有無について確認すると、掃除に戻った。
「もう寝る。こんな時は寝るに限る」
自分に言い聞かせて部屋に入ると、既に一方のベッドで毛布を被って丸くなっているレイジーがいる。
ロクスタはその固まりを恨みを籠めた目で見てから、自分も丸くなった。
せめて夢だけは幸せでありますようにと。
ほとんど、進んでないですね〜