14話
「アンタ馬鹿じゃないの?馬鹿なんでしょっ!少しは考えて喋ったらどう?!」
騎士団詰め所の入り口前で激高する若い女性。
襟首を掴まれ揺さ振られている人物は群を抜いて美しいが、少年と青年の中間のような年若い男性。
奇妙な挨拶を聞いて出てきた騎士達は、仲裁すべきか否か迷って遠巻きにしていた。
「どうもこんにちは――お姉さん、いつまでやってんの。放せよ」
騎士達の生暖かい視線に満面の笑みを返し、レイジーは些か乱暴にロクスタの手を服から引き剥がした。
ロクスタは手首の痛みで我に返り、俯く。
後ろ暗いところの大有りなくせに、つい興奮してしまった。
騎士と元仲間との両方に追われる身分であるのに、調子を狂わされっぱなしであった。自分で自分の首を絞めている。
レイジーの、小馬鹿にしたような冷ややかな眼差しを殺意を込めて跳ね返し、鼻息も荒く自制した。
「結局、君達はなんなんだね?」
穏やかに、だが確実に呆れを含んだ口調で騎士の一人が声を掛けてきた。
中に招き入れられお茶を出してもらいながら、ロクスタは縮こまった。
騎士達にとって自分は敵である。
正体がばれたらすぐにでも投獄されるだろう。
毒使いと知られなければ、罪に問われるのは先日の一件のみ。放火の罪はどれくらいだろう?
「実は、僕達はある騎士さんに個人的に雇われてまして。この街でもう一人の若い騎士と待ち合わせしてるんですよ」
如才無く答えるレイジーを俯き加減で伺うロクスタ。
「個人的に…?ふん、誰を待っているのかね」
若干疑っているように、腕を組んで立ったまま見下ろす壮年の騎士。日焼けした顔には皺と傷が刻まれ、短く整えられた金茶の髪には所々白いものが混じっている。
レイジーはその騎士のやや険しくも見える無表情を見ながら、愛想のいい顔を崩さない。
「ボッシュという、僕と同い年くらいの騎士です。ご存じでしょうか?」
「ボッシュ…あぁ」
彼を知っているのか、騎士は目を丸くして、組んでいた腕を解いた。その手で頭を掻き、やや安心した様な顔になる。
「奴が相手ならば個人的な用件では無さそうだな」
「知り合いなんですか?」
名前を出したものの、すんなり信じられるとは思っていなかった二人は驚いて顔を見合わせた。年齢からいっても彼は新人だろう。
「奴の父親を知っているだけだ。――で、ここで待つのか?」
「いえ、お邪魔でしょう。宿に戻りますから…えと」
不意に眉をひそめて、レイジーはロクスタに視線を移した。宿の名前を覚えていない。
救いを求めるような視線にロクスタは口元を歪めた。
「何だったかしら、お宿の名前」
「お姉さん…」
心底困った様な顔は年相応で、もっと見てみたいと思わされる。
でも後が怖いわね。
「コンラートの宿ですわ」
ロクスタの答えに、レイジーは小さく「そのまんまかよ」と呟いた。