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13話


重い荷物を部屋に放り込んで、身軽になった二人は再び外へ出た。

今度は騎士団の詰め所を目指して、案内してもらいながら街を観察するつもりだった。



「しかし騎士団とは穏やかじゃありませんな。お二人はもしかして――?」


「ああいう方々にはお近付きになりたくないんだけどねぇ。今だけ雇われてるんだ」



探りを入れるような男に、素直に答えるレイジー。



男はオットーと名乗り、宿の主人コンラートの妻の弟だという。


「この街は色々なものを買えると聞いたんだけど」


ロクスタが問えば、顎を掻きながら、勿体付けて答える。


「まぁ、ここでは値段と方法を間違わなければ、見えないものでも手に入ると評判ですぜ。お嬢さんは何をお探しで?」


一瞬、探るようにレイジーを見てから、彼女は微笑んで答えた。


「指輪を探しているの。家に泥棒に入られてね。安く手に入ればいいなぁと思って」


「それは災難ですな。ここには高級品からお手ごろなものまで、宝飾品店もあるし……市もたてば競買もある。安全な所も危険な所もな」


しれっとした顔で言うと、オットーは二人に笑い掛ける。ロクスタはその視線に見透かされたような気になり、何となく通りの怪しい店を見る振りなどをした。


「盗品を取り戻すにはどうしたらいいかな。ここで売られるか知らないけど」


レイジーは世間話をするような気軽さで問い、オットーを見る。


「おやまぁ。滅多なことを言うもんじゃありません」


わざとらしく首を窄め、左右を伺う振りをするオットーを冷たく見つめ、レイジーは言葉を重ねる。


「盗品や珍品、『みえないもの』も手に入ると言ったのはお前だ」


突然冷たい口調になったレイジーを、オットーは戸惑ったように見返し、ロクスタは内心でため息をつく。何が切っ掛けで気分が変わるのかが、まだまだ読めない。


「気にしないでオットーさん。巻き込むつもりはないから」


レイジーは興味を無くしたように、狭く汚い路地や何を売っているのか表からでは判断のつかない店などに視線を移した。


彼は会話の主導権を奪われるのが嫌いだった。

年を取ったものは、ただその生きてきた年月の経験から、思う通りに話を運ぼうとする。モノの道理だとか道徳だとかを押しつけ、あまつさえ、説教をしてくる者もいる。


要するに、レイジーはまだまだ子供だったのだ。それも我儘な。


「あなたねぇ、同じこと繰り返さないでくれる?頼み事する相手を怒らせてどうするのよ」


ロクスタが押し殺した声で言ってくるので、肩をすくめてやり過ごす。

オットーが駄目なら代わりの案内人を探せばいいだけだ。この街なら金を出せば幾らでも見つけられるだろう。



「まぁまぁ、こちらが失礼でしたな。詳しくは知らないもんでねぇ…時間をもらえたら調べておくが」



この場の誰よりも、オットーは人間ができていた。



それからは何となく誰も喋らず、無言のまま騎士団詰め所に到着した。


玄関に扉は無く、緊急時にすぐ出入り出来るようになっている。

表から覗くと、入ってすぐは広く空間がとられ、来客や騎士が数人動き回っていた。



「待っていましょうか?」



あくまで下手に出るオットーが問えば、レイジーは首を横に振る。


「もう宿までの道は覚えたから、いいよ。それよりさっきの…市の事を頼むよ」


オットーは道を覚えたという言葉に驚きはしたものの態度にはまるで出さず、二人に一礼してから歩き去った。


ロクスタはその後ろ姿を名残惜しそうに見つめていたが、辺りに響くレイジーの言葉に飛び上がった。


「たのもーぅ!」


それは一般的に、道場破りや修行中の剣士が乱暴な訪問をする時にする挨拶だった。




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