11話
お待たせしたのに短くてごめんなさい!
二人が着いた街には騎士団の出張所も、役場もなかった。
僅かな商店と、猟師達が住む小さな集落だった。
レイジーは一軒ずつ覗きながら馬を引いて歩き、細々としたものを仕入れた。ロクスタは面白くなさそうな顔で、その少し前方を歩いている。
「あ、宿屋あったわよ」
つまらなそうな顔で振り返り、建物の壁から下がる木製の看板を指差した。
描かれているのはベッドのみ。国内共通の表示で、素泊まりの宿を表している。飲食可能な宿の場合は、合わせてフォークとグラスが描かれることになる。
「すいません。ちょっと伝言を残したいんだけど」
レイジーが入り口から声をかけると、腰の曲がった老人が奥から出てきた。
胡散臭そうに二人を見やり口元を歪めてため息をついた。
「泊まりもせずに伝言じゃと?虫のいい話もあったもんじゃな」
「じゃあ手紙書くから後から来る騎士に渡してもらえるかな」
老人の嫌味を歯牙にもかけず、荷物の中から小さな紙と筆記用具を取り出した。
睨み付ける老人の横を擦り抜ける様にして中に入り、カウンターで何やら書き付ける。そして折り畳んだ紙を老人の胸に押しつけて無理矢理受け取らせた。
「ボッシュっていう騎士が来るから渡してよ」
今や老人は怒りで顔を赤らめ、小刻みに震えていた。彼が怒鳴り付けようかと口を開いた時、横から小さな酒瓶が差し出される。
「お爺さん、口の聞き方を知らない子でごめんなさいね。これ、お礼ですわ」
老人は、とっさに受け取ってしまったためにもう文句を言うこともできず、苦々しい表情で二人を追い出した。
「あれさっき買ったばっかりなんだけど?」
「戻って買えばいいでしょうが!たいした値段でもないんだから。なんだってわざわざ怒らせるような言い方をするのよ」
「怒ってた?」
ロクスタの苦言に、レイジーは首を傾げた。きょとんとした顔はあどけない子供の様で、彼女は絶句する。
てっきりわざと怒らせているのだと思っていた。道中の自分との会話を思い出してみても、あまりまともではない神経の持ち主だとは感じていたが。
彼を野放しにすると、自分も確実に危険に巻き込まれる。
ロクスタは自分をじっと見ている美しい顔を見ながらそんなことを考えていた。
「まぁいいか。酒買いに行こう」
レイジーは考えるのを放棄して、繋いでいた馬を回収する。
酒を飲むことはないが、旅の道中色々と役立つことが多いのでいつも持つようにしていた。
新たな酒の活用法として、怒りっぽい老人を宥めるのにも使えるのだな、と胸のうちで呟いた。
酒を買い、保存食も仕入れて再び馬にまたがる二人。
ロクスタは自分の身の安全の為に、少年を躾けて少しでも懐柔しようと思いながら。
レイジーは次の街で自分の旅が終わればいいと思いながら。
己のことしか頭にない、奇妙な二人連れは表面上だけは仲良く旅を続けるのだった。