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魔法のクッキー2

作者: WAIai
掲載日:2026/10/22

春の桜満開になる時、桜沢理は窓口から外を眺めていた。

太陽は優しい黄金の布を紡ぐようで、理は目を細める。

ふんわりと桜が舞ってきて、店ーボロニアに、心地の良い香りを届けてくれる。

理は猫のように頬を撫でると、オーブンへ向かう。

中は赤く、クッキーが焼けているのがよく見える。

「愛情をかければ、食べ物にも通じるはず」

我が子のように微笑むと、理は窓口が叩かれたのに気づく。

「はい?」

理は足早に歩いていくと、店の小さな窓口を開ける。

すると誰もいないと思ったのだが、急に手が伸びてくる。

「…うん? これは、これは」

理は相手に気づくと、怖がらせないように言う。

「いらっしゃいませ。可愛い坊や」

歳は10くらいだろうか。

緊張しているようだったが、足を踏ん張ってこらえている。

理は興味をもち、聞いてみる。

「うちのクッキーの噂は知っている?」

「…知っている。両想いになるか、相手が何を思っているのか分かるんでしょう?」

「そう、その通り。もう初恋の時なのかな?」

からかうつもりはなく、好意的に言うと、少年は手を差し出してくる。

「何? それ?」

「ーお金。これだけで買える分にして」

「なるほど」

理が手を差し出すと、少年は手を離し、お金が渡される。

理は確かめてみると、料金が少し足りなかったが、にこりと分かって受け入れる。

「ありがとうございます。じゃあ、今、お渡し…。…あれ? 今、オーブンが鳴った。ちょっと待ってね」

理はそう言うと、オーブンの中身を確認する。

形は唇で、甘い香りが鼻をくすぐる。

ークッキーの妖精がいるみたい。

楽しそうにオーブンを開けると、プレーンではなく、チョコチップが入っていた。

ーあの子には、こっちのほうがいいな。

理は鉄板を調理台に置くと、少年の元へ戻る。

「今、焼き上がったから食べる?」

「え!! いいの!? 1人につき1袋だって聞いたんだけど…」

「いいんだよ。子どもは遠慮しない」

理はチョコチップクッキーを持ってくると、少年に渡す。

少年はまず匂いを嗅ぐと、

「うわ。良い香りがする」

と嬉しそうに笑った。

子どもは素直が1番いいと、理も嬉しくなってくると、少年はぱくりと口に入れる。

「…美味しい!! チョコの食感の良さと、クッキー自体の甘味が重なって、次も食べたくなる」

「そう。ありがとうね。でもねー」

ふふと理が笑うと、少年の喉に唇ができる。

「僕の名前は金本哲と言います」

「え…。え?」

少年ー金本哲は困ったようにうろたえる。

理はしっと人差し指を立てると、哲の喉に注目する。

「僕、お母さんが嫌い!! いつも怒ってばかりだもの!!」

「え、え、え、まずいよ」

哲が理に泣きついてきたので、大丈夫と笑顔を向ける。

「心の声が出てくるのは、3分だけだから。少ない時間でしょう?」

「そうなの…? うーん」

哲が喉に触れると、唇が動き出す。

「本当はお母さんに甘えたいのに…!! 僕の初恋の相手はお母さんだもの」

「わー、わー!! ぼ、僕、どうすればいいの?」

喉を理が指差すと、哲は唇がなくなったことに気づき、はっとする。

「どう? びっくりした?」

「びっくりしたところじゃないよ、お兄ちゃん!! 僕の秘密が暴かれちゃったじゃん!!」

「だから魔法のクッキーなんだってば。ちゃんと知っているか、聞いたよね?」

「…うん。今の内緒ね」

哲が口にチャックする真似をするので、理は「はいはい」と答える。

「子どもの時は隠し事なんかしないほうがいいよ。親にうんと甘えたほうがいい」

「…でもお母さん、妹ばかり可愛がって、僕には厳しいんだ」

「そうなのかい? …多分、君ー哲くんがしっかりしているから、安心しているのかもしれないよ?」

「そうなのかな…。このクッキー、早く試してみたいんだけど」

「お母さんに使うの?」

「いけない?」

「いや、いいよ。ただし秘密にしておいたほうがいいこともある。お母さんにクッキーを食べさせるのは、哲くんの責任になるから。何か起こっても、私は対処できない」

はっきり答えると、哲が顔を真剣なものにする。

「お兄ちゃんのせいなんかにしないよ。僕、卑怯な真似だけはしたくないもの!!」

「そう。偉いね。ーはい、クッキー」

ラッピングされたものを渡すと、哲がしっかりうなずいてくる。

ああ、この子は大人のふりをしていると、ふと心配になったが、理は何も言わないことにした。

「恥ずかしいことや、いつも我慢していることを言いたかったら、食べてみて。分かった?」

「分かった。ありがとうね、お兄ちゃん」

哲はバイバイと手を振ってきたので、理はにこやかに振り返す。

ー…大人対子どもか。どうなるか予想がつかないけれど、いい方向に運んでくれるといいな。

哲の姿が見えなくなったので、窓口を閉めると、理は大きなあくびをする。

ー今日も穏やかな一日になりそうだ。…ただし、なまけるわけにはいかない。

魔法のクッキーを作る以上、理にも責任はある。

しかし大概が上手くいくので、店が続けられているのだった。

「私もクッキーを一口」

ぱくりと食べると、喉に唇ができる。

「桜沢理、22歳。ボロニアという店の店長。クッキーの作り方は自分しか知らない」

「その通り。…ちょっと黙れ」

喉の口をしめると、歯が指に当たった。

噛みつかれないように押さえていると、自然に消えていく。

ー余計なことは言わないこと。詮索すると、人間は嫌がるものだから。

理は手を洗うと、クッキーのラッピングを始める。

すると窓口が叩かれた。

「ーはい。今、行きます!!」

エプロンで手を拭くと、理は歩き出したのだった。



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