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クールで冷徹な『氷の令嬢』、なぜか俺の心の声(ダダ漏れ)だけは聞こえるらしい。  作者: わわわ


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第1話:氷の令嬢は心の声が聞こえる

「……う、るさい」


 授業中、隣の席から小さな呟きが聞こえた。

 俺、春ト(しゅんと)は驚いて隣を見る。


 そこにいたのは、我が校が誇る高嶺の花、冬月ふゆつきさんだ。

 艶やかな漆黒の長髪、宝石のようなアイスブルーの瞳。

 その美貌と、人を寄せ付けない冷徹なオーラから、ついたあだ名は『氷の令嬢』。


 そんな彼女が、今、俺の方を見て頬を染めながら睨んでいた。

 ……え? 俺、何かした?

 一言も喋っていないはずなんだけど。


(うわ、睨んでても美人だなー。まつ毛なっが。芸術品かよ。……てか、怒ってる顔も可愛すぎない?)


 俺が心の中で現実逃避気味にそう思った、その時だった。


「……っ!?」


 冬月さんの肩がビクリと跳ねた。

 そして、なぜか顔を真っ赤にして、教科書で顔を隠してしまった。

 耳まで赤い。


(えっ、どうしたんだ? 急に顔隠して……体調悪いのか? それとも俺の視線が気持ち悪かった?)


「……ちがう」


(え?)


 聞こえるか聞こえないかくらいの小声。

 でも、確かに彼女は答えた。

 俺の『心の声』に。


「……気持ち悪くない。……ただ、褒めすぎ」


「はい!?」


 俺は思わず裏返った声を出して立ち上がってしまった。

 教室中の視線が突き刺さる。

 先生の「おい春ト、どうした?」という声も遠くに聞こえる。


 俺は愕然としながら、隣の冬月さんを見下ろした。

 彼女は教科書で顔を隠したまま、少しだけ指の隙間からこちらを見ていた。

 その瞳は、怒っているというより、恥ずかしさで潤んでいるように見えた。


 まさか。

 いや、ありえない。

 漫画じゃあるまいし。


(俺の心の声、聞こえてる……ってコト!?)


「……だから、うるさいって言ってるの」


 冬月さんは小さくそう呟くと、机に顔を伏せてしまった。

 白い首筋までもが、ほんのりと桜色に染まっていた。


 ◇


 ……いや、待て待て。落ち着け俺。

 冷静に考えろ。心の声が聞こえる? そんな漫画みたいな話があるわけない。

 

(きっと偶然だ。タイミングが良すぎただけだ。あるいは、俺が無意識に口に出しちゃってたとか……)


 そうに決まっている。最近ラブコメの読みすぎで脳がバグっているんだ。

 あの『氷の令嬢』が、俺みたいなやつの心の声にいちいち反応するわけがない。


 俺はそう自分に言い聞かせ、必死に現実逃避を決め込んだ。

 彼女のあの赤い耳が、何を意味していたのかも深く考えずに。


 これが、俺と『氷の令嬢』との、奇妙な関係の始まりだった。


 ◇


(……聞こえる)

(でも、誰でもじゃない)


 冬月は帰り道で、胸の内を整理していた。

 教室中の雑音の中でも、拾えるのは春トの心の声だけだった。

 しかも、席が近いときほど鮮明で、彼の感情が強く揺れた瞬間は、音量が跳ね上がる。


(条件がある。偶然じゃない)

(……なのに、説明がつかない)


 氷の令嬢は、初めて自分の冷静さを疑った。

 それでも彼女は、この現象から目を逸らさなかった。


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