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バター、ついに溶ける

作者: つばさ
掲載日:2026/01/07

 トーストに、硬いバターを塗りたくる。バターが硬過ぎてトーストが負けた。この凹んだパン、冬だな。早く春にならんかな。

 がちがちのバターに負けるパンは、私みたいだ。バターの重さに耐えられずに、春が来るのを、じっと待っている。いつ来るかも知らずに。

 

「なんでお前、いっつもそんな勉強してんの?」

 なんだこいつ、学年一位が、嫌味かよ。腹立つ野郎だ。

「なんだっていいでしょ」

「いや、そんな頑張る理由があるのかなあって。純粋な疑問」

「バカにしてんの?」

「まさか、尊敬してるよ。俺はテスト前以外勉強したくないからな」

 腹立つ、腹立つが認めざるを得ない。こいつと私じゃ、きっと地頭が違うんだろう。頑張って頑張って万年二位の私と、ちょっと勉強しただけで毎回学年一位のこいつ。こいつのパンは、バターには負けないだろうな。これからはこいつをフランスパンと呼ぼう。

「その問題、まじでむずいよな。俺も最初わかんなかった」

 今はわかるって自慢したいのか? 生意気なやつめ。私は20分この問題と格闘してるというのに。

「バカにしてんの?」

「まさか、尊敬してるよ」

 バカにしているようだ。

「ため息つくなよ」

 ため息ぐらい吐かせてくれ。学年一位、サッカー部エース、顔はイケメン、神はどうしてこいつにこんな属性をほいほい与えたんだ?

「なんで勉強してんの?」

 こいつは壊れたロボットか? そんなに知りたいなら教えてやるよ。

「学年一位になったら、スマホ買ってくれるらしいから」

 フランスパンは目を見開いてびっくりしている。そりゃそうか、今の時代にそぐわない教育方針だ。

「あー、大変なんだな。聞いて悪かった」

 そう、こいつはいいやつ属性も持ち合わせてやがる。いいやつなんだよな。

「謝らないで、代わりにこの問題教えて」

 そう、こいつは勉強も教えてくれる、いいやつだ。もっと、すごい嫌なやつだったら、恨むことができたのに。


 まだ、春は来ない。今日のトーストも、バターに負けて凹んだ。

「勉強は、最近頑張ってるの」

「うん、頑張ってるよ」

「お父さんみたいに、弁護士の先生になるために、頑張るのよ。学年一位を目指しなさい」

「うん、頑張る」

 弁護士になりたいなんて、一言もいったことないよ、お母さん。


 今回も学年二位だろうな。手応えは、いつもと同じだった。成績を確認すると、やっぱり二位だ。

「今回は、まじで難しかったよな」

「そうだね。今回も一位だった?」

「うん、そっちは?」

「二位だよ。変わらずに」

 きっと変わらない、ずっと変わらないんだろう。この関係も、母との関係も、私が勉強し続けるのも。

「なあ、なんで勉強してんの?」

「何度目の問いだよ。こないだ答えただろ」

「ずっと、苦しそうだから」

 やめろよ、泣きそうになる。

「じゃあ、次のテスト手加減してよ」

「それで満足するんか」

 するわけねえだろ。

「バカにしてんの?」

「してない。俺はお前をずっと尊敬してるよ」

 バカにしてないなら、じゃあ、じゃあ、

「なんでそんなに私に優しくするの?」

「え、まだ気づかん? お前のこと好きだからだけど」

 バターが急激に溶けて、私に染み込む。

「なるほど、これが恋だ。私も、あなたのこと好きみたい」


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