第10話
「アマヤ」
この女性は、俺の手をしっかりと握った。
ナイスだ。
「俺の正体もバラさないでくれよ。強盗の最中で、世界中を逃げ回ってるんだ」
俺も話を合わせてみた。
すると彼女はニヤリと笑った。あの時、アマヤさんは確かに笑ったんだ。
確かにその夜は過ぎ去った。でも、今までクラブでこんな風に会話のキャッチボールができる相手に出会う確率なんて、どれくらいある?
稀すぎる。クラブで羽を伸ばせたことなんて、多分これが二回目くらいだ。でも、俺は運が良かったんだろう。
「好きだ。一夜限りじゃなく、もっと続けよう。君と一緒にいるのが楽しいんだ」
まあ、彼女との会話は本当に楽しかった。そして、その後に続くことも。
集中しすぎるといつも下を向く、その不機嫌そうな頭。辛辣で棘のある物言いだけど、妙に筋が通っていて、俺のユーモアのセンスに突き刺さるようなパンチがある。
ああ……俺はこの女性が好きなんだな、と思う。
「ねえ、アキくん……もしそこで綺麗な子を見つけたりしたら、引っこ抜いてやるから。分かった? それか、こっちにあるあなたの服を全部燃やしてやるわ」
「え~」
嘘はつけない、俺の顔は耳まで赤くなっていた。そうか? 本当に、アマヤ? 嫉妬してくれてるのか?
マンチェスターのホテルの窓辺で、俺は電話越しに馬鹿みたいにニヤけていた。
大丈夫だよ。
毎朝、俺の胸に君の黒髪がある時、俺はずっとそれを見つめているんだから。君の髪がすでにあるのに、ブロンドの髪なんて目に入るわけがない。
それに、時々見せる君の可愛い復讐もね。でも、俺の古着を燃やす気満々なところも嫌いじゃない。
そう考えて、俺は一人ごちた。
その後、俺は指輪のケースをパチンと閉じて、ロンドンの街へと歩き出した。
世の中には希少なものがある。
それはおそらく、この宝石のことじゃない。
多分、高い生マンゴーをビニール袋いっぱいに詰めて持ってきてくれるような、そんな女性のことだ。
さて、家に帰るために、明日の早朝のフライトに乗らなきゃな。




