第59話 寝ぼけている?
私は今、非常に戸惑っています。
昼までやるべきことを終え、そろそろレクスを起こそうとしたのです。
昼食を取らないといけませんからね。
そして隣接する扉をノックしようとして、腕を上げたまま固まってしまいました。
中から嫌な気配が漂ってきています。
何が起きているのでしょう?
取り敢えず、ノックをしてみましたが、反応はありません。
このまま放置するか、中に入って確認するかの二択なのですが、午後の予定があるので放置するわけにもいきません。
私としてはこのまま放置したいですね。
意を決して少しだけ隙間を開けてみます。
……暗くて何もわかりませんわ。
確かに窓がない部屋なので暗いのは仕方がないですが、照明が設置してあるので、真っ暗にはならないはずです。
もしかして、真っ暗にしないと寝れないタイプですか?
隙間から手を入れて、壁にあるスイッチを探してカチリと押しました。
……つきませんわ!
何度もカチカチとスイッチを入れてみますが、部屋が明るくなる様子がありません。
もしかして、魔石切れ?
いやいやいや、今朝レクスを部屋に押し込んだときは、間接照明がついていましたわよ。
ということは、この嫌な感じの原因はレクスですか。寝ぼけて魔力が放出されているのでしょう。
私も嫌な夢を見たときは部屋が凍っていることが何度かあったので、この状況はあり得ることですが……。
「団長。お昼ですので、起きてくださいよ」
無反応……どうしましょうか。
私は氷と風の特化型なので、光魔法や火魔法はそれほど扱えないのですよね。
光魔法は机の上で手元を明るくする程度ですし、火魔法は火種程度です。
レクスの闇魔法を光で凌駕することは無理です。
気配はさぐれますが、寝ぼけた人を相手にするのは面倒です。
このまま扉を閉じていいですよね。
「はぁ〜。魔導師長に昼から訪ねると連絡をしてしまいました」
本人にではありませんが、補佐官に直接言ってしまったので、時間を取ってくれているはずです。
もし、これで遅れればグチグチと文句を言ってくるに違いありません。
仕方がありません。レクスを叩き起こすことにしましょう。
「団長。入りますよ」
記憶している部屋の間取りのとおり、ベッドがあるところにレクスの気配があります。そして闇に満たされた空間に踏み入れたのでした。
本当にファングラン家の力は恐ろしいですわね。方向感覚も微妙に狂わされています。
取り敢えず、視界が確保できない中、レクスの気配があるところまでたどり着きました。
起こそうと手を伸ばしたところで、身体が反転します。やはり、こうなりましたか。
「レクス。いい加減に起きろ」
私の首にカツンと何かが突きつけられたところで、声をあげました。
すると視界が晴れ、間接照明の光りを反射している天井が私の視界に映り込みます。
そして呆然としているレクスの顔もです。
「たいちょう……」
「起きたのなら、その物騒なものをしまってください」
私の首には鋭利な刃物が突きつけられていました。もちろん、そのことは予想済みでしたので、私の氷を皮膚に這わせるようにして刃を防いでいます。
これ、防御していなければ、首を切られていましたわね。暗殺系を相手にするのは、厄介なので嫌ですわ。
そして、まだ寝ぼけているのか、それとも状況を理解できていないのか、固まったまま動かないレクスを見上げます。
はい、今の状況はベッドに両手を押さえつけられて首に刃物を突きつけられた状態のままなのです。
「レクス。いい加減に手を離せ」
「たいちょうがいきている」
「『フェリランは死んだ』であっている。ほら、昼ごはんを食べに行かないと時間がなくなってしまいますよ」
何を言っているのかと呆れていると、上からレクスがのしかかってきました。……重い。
「たいちょう。置いて行かないでください」
「だったら、さっさとのけ! 重すぎる!」
思いっきり膝を蹴り上げ、レクスに一撃をくらわしました。いつまで寝ぼけているのでしょう。
「痛い……夢じゃない」
床に叩き落としたところで、やっと目が覚めたようです。
寝ぼけて、夢か現実かわからなくなることはあります。しかし、ここまで酷いことにはならないと思うのですが?
「レクス。きちんと寝れていますか?」
私は身体を起こしながら尋ねます。
昔、戦の影響で寝ることができなくなり、精神を病んだ者がいました。
もしかしたら、それに近い状態なのではないのでしょうか?
「寝るのは好きではありません」
「好き嫌いの問題じゃないですよね」
何故に好き嫌いの話になっているのです。睡眠は必要ですよ。
あれ? これは今までの周りの話を総合すると、ほぼ寝ずに仕事をしていたとかいいませんわよね。
「隊長の背中を追っても全然追いつかないのです」
え? 突然何の話をしだしたのですか?
「私が弱いから置いて行かれるのです。他の者達は隊長を追いかけて行くのに、私だけそこにたどりつけないのです」
これはもしかして、二十年前のことをずっと引きずって、夢にまで見ているということなのですか?




