第58話 お断りします
私は仮眠室にレクスを押し込んで、山のようになった書類を捌いています。
副団長に頼んだとしても、やはり団長の最終採決が必要な書類があるということです。
そして、昨日の夜から朝までレクスが見た書類を持って行き先ごとに分けているのです。
よく一晩でこれほど確認したものですわね。
私は隣接する部屋がある扉をちらりと見ました。そこに団長の仮眠室があるのです。
従者のエルトさんが最近は帰りが早いとおっしゃっていましたが、恐らく帰らない日もあったのでしょうね。
働きすぎです。
それでは、昼まで私は自分のやるべき仕事をしましょう。
「カリーナが王都に来ると言っているのだが」
伯父様が、思いっきりプライベートのことを私に言ってきました。
「それ、急ぐことですか?」
私の手には、積み上がった書類を持っているのです。
特殊部隊に渡す書類を置いたところで、声をかけられました。
あと、何故に伯父様経由でそのことを聞くことになるのでしょう?
「はぁ、急ぐことではないが、暴走ぎみなので早めに返答をしないと、すぐにでも領地を立ちそうな勢いだな」
暴走ぎみですか。その昔、セレグアーゼ伯爵令嬢に振り回されていた経験上の言葉ということですかね。
「祝いに何が欲しいのかと聞き出すように言ってきた」
「何故にお母様の伝言を伯父様から聞くことになっているのですか?」
母は、今回の私の活躍を伯父様から聞いたのでしょう。いいえ、恐らく母から、私の状況を報告するように伯父様が言われていたのかもしれません。
「……あれの考えは理解できない」
そう言って遠い目をしている伯父様。昔、色々ありましたものね。
「まぁ、宿舎だと手紙が他人に読まれることもある」
「私、伯父様ほどモテないので、手紙を盗み読まれることはないと思います」
「……それは誰から聞いた」
「ハハハハハハ」
実際知っているとは、口が裂けても言えません。
モテる方は大変ですよね。
宿舎はプライベートがあるようで、ないですからね。
「それで、何がいい?」
「特にありませんが、軍資金の追加をお願いしたいですね。従騎士は給金がでませんから」
「必要な物があれば、ファングラン団長に言えばいいだろう。従騎士の必要なものを用意するのは、騎士側の役目だ」
それはそうなのですけど、プライベートの物が欲しいというのは違うのですよ。
それにレクスには、もう過剰なほど支払ってもらっています。
「それ、色々出してもらっているので、これ以上は……」
「マルトレディル。何故にファングラン団長にあれほど気に入られている? バレているようには見えないのだが」
はい。女だとはまだバレていないですが、フェリランの生まれ変わりとバレてしまっているので、色々おかしなことになってしまっています。
「何故でしょうね」
私はそう言って、苦笑いを浮かべておきます。
「アルバートと代わったときに、絶対に問題になるだろう。時をみてファングラン団長には言っておいたほうがいい」
「おおおおお伯父様。それ恐ろしいことが起こるので、私の口からは無理です」
今でも強引に自分の願いを叶えようとしてるのです。私が姉の方だとバレると、結婚して欲しいとか言われるではないですか。
「私が去った後に、お父様から説明してもらうようにします」
すべての責任を父に押し付けましょう。これを言い出したのは父なのですから。
「マルトレディル伯爵にか?」
伯父様の中では無理だろうという感じがあるようです。はい、私も思いますが、自分が言った責任は取って欲しいです。
「まぁ、私がどうこう言う事ではないが、後々アルバートが困らないようにしておきなさい」
「……伯父様。アルバートを特殊部隊に引き抜きませんか?」
私は剣術をアルバートに教えてきましたが、書類関係のことは全く教えていません。
私と同じことができるかと言えば、できません。絶対にアルバートが困ることになるのは目に見えています。
「すぐに居なくなるヤツはいらん」
「はぁ、父の跡を継ぐまでですからね」
騎士団に在籍するのは、長くても五年ほどでしょう。その後は跡継ぎのために領地に戻ることになりますから。
「いっそのこと、シエラメリーナが残るというのはありだが? 女性騎士の在籍が多くなってきているから、昔ほど口うるさく言うヤツもいないだろう」
ああ、女のくせにというやつですね。
「それ、気になっていました。女性騎士が思っていた以上に多いのですね」
「能力が伴っていれば、それにあった地位につけるようになったからな」
「そうなのですか?」
「英雄フェリランの影響だ。女性騎士でも力が劣ることはないと証明してみせたからな」
「そう……なのですか……」
「あと、ファングラン団長が率先して採用していったのもある。実力さえあれば、団長直属の部隊に入れると」
「それで女性騎士が多かったのですね。納得です」
私の影響と言われると首をかしげてしまいます。ですが、団長であるレクスが実力を認めて部下にするという行動は、部隊の士気があがるというものです。
「それで、シエラメリーナとしてはどうだ?」
「ふふふ。伯父様、お断り致します」
私はニコリと笑みを浮かべて、シエラメリーナとして騎士団に所属することを断ったのでした。




