第57話 禍根はどうしても残る
翌朝。朝日が昇る時間に騎士団本部に出勤していました。
正確には、戦死者の慰霊碑がある場所にです。
ここにはもう来るつもりはなかったのです。しかし昨日の酒屋でモルトの蒸留酒があったので、懐かしく思い買ってしまったのでした。
前世の頃に戦場で飲んでいたなと。
ついでに供えておこうかと思ったのです。この前はタバコだけでしたからね。
因みにいくつか買ったワインは、手紙と共に父に送りつけました。エレマルディー産の良いワインだったので。
慰霊碑のところに行けば……大量のお供え物が!
え?皆さんいつも頻繁に参っているのですか?
もう20年も前のことなのですよ?
その年に生まれた私が20歳になるのですよ?
困惑気味に私は、他の供え物に混じる様にお酒を置きました。
「烈火の狂信者共を叩き潰さなかったツケが出てきたようだ」
私はタバコを取り出し火をつける。
朝日で赤く染まる空に白煙が上るのを見上げた。
「アレだけ苦労して倒したゼイエラの亡霊が現れた。だから私は徹底的に潰せと言ったのに……禍根はどうしても残る。勝者にしろ敗者にしろ」
しかし、アディフィールを慕う者たちは徹底的に排除するべきだった。
最初はそのような作戦だったはずだ。
だから私も命をかけた。烈火のアディフィールを討ち取った私が生き残っていては、さらなる戦を呼び起こすからだ。
今回のことは一部の者たちが暴走しているのか、帝国の意なのかはわかりません。
ですが、新たな火種がくすぶっていることは確かです。
もし、今帝国が仕掛けてくれば、平和ボケした騎士団ではあっという間に、負けてしまうことでしょう。
「やはり、騎士どもを叩き上げたほうがいいのか?」
ため息と共に白煙がこぼれ出ます。
今の私は所詮新人です。
口を出せる立場ではありません。
ここで悩んでいても解決することではありませんし、レクスが出勤する前に、休んだ分の書類を捌いてしまいましょう。
ええ、きっと6日分の団長の採決が必要な書類が山のようになってあるはずですから。
「良い来世を」
私は何も入っていない慰霊碑に向かって言い、踵を返しました。
すると目の前に壁が……デジャヴュ。
視線をあげると赤い隻眼が私を見下ろしているではないですか!
「レクス。昨日褒めたのに、何故に背後霊化している」
きちんと声をかけられて偉いぞと思いましたのに、いつの間にか気配を消して立っているレクスがいるではないですか!
あの? まだ朝日が上りきったぐらいですよ。
こんな早朝に何故にいるのですか?
「おはようございます。隊長」
隊長呼びも直りませんね。
「おはよう。それでまた背後霊化していたのは何故だ?」
「隊長の先輩方への挨拶を邪魔するわけにはまいりませんので、終わるのをお待ちしておりました」
挨拶ではなくて愚痴でしたけど?
あと、もう少し離れた場所にいてくれれば背後霊化にならないと思うのです。
距離感がおかしいと認識して欲しいものですわ。
「はぁ、それにしてもこんな時間に出勤なのか? 早すぎるだろう?」
団長が早朝に出勤すると、下の者たちが困ってしまうと思うのです。
「5日間も空けると流石に書類が溜まっているので、昨日からいます」
「は?」
「朝日が昇って来たと外をみれば、隊長の姿が見えましたので挨拶をしにまいりました」
「寝ろ」
昨日からということは、日が落ちたぐらいに私を屋敷まで送ったあと、騎士団本部に詰めているということですか?
働きすぎです。
「しかし、本日魔導師団に行かねばならず、それまでにある程度終わらせておかないと……」
「寝ろ」
レクスの言葉を遮るように言います。
魔導師団に訪問するのはどうせ昼からでしょうから、それまで寝てください。
「話すだけでも疲れるやつらだ。休んでおけ。残りの書類など後でいい、どうせクソジジイが文句を言うぐらいだろう? 言わせておけ」
私は白煙を吐きながら言います。
曲者揃いの魔導師を相手にするだけで疲れるのです。それまでに休んでいるほうがいいに決まっています。
あと、騎士団のトップはレクスなのですから、文句を言ってくる者たちは限られています。
国王とかジジィとか国の老害共とか。
今回のことで国が議会を開けば、レクスは呼び出されるでしょう。しかし結果だけを見れば、盗賊に落ちぶれた元敵将の一人を捕まえたという快挙。
現国王が盗賊に対して、そこまで気にするかと言えば、国の現状をみればそこまで気にしてはいないでしょう。
ええ、行方不明の者たちがいることに対して、積極的に対処しようしている風には見えませんからね。
ゼイエラの亡霊が現れたと報告しても、王太子だった彼は簡単に言ってくれそうです。
『それは君たちの仕事だ』と。
盗賊の件にしても各領主が不甲斐ないから、このようになっていると言っていそうですね。
それで、何故に目の前のレクスはソワソワしているのですか?
「あの……隊長が膝枕をしてくださるのであれば……」
「しません! 仮眠室で一人で寝てください!」




