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結婚するとは言っていません【書籍化・コミカライズ化決定】  作者: 白雲八鈴


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第48話 カラエの花

「本当なら今日は報告の会議が開かれる予定なのではないのですか?」


 私は気になっていたことを尋ねます。

 一部隊の報告であれば、団長に報告して終わりなのです。

 しかし今回は混成部隊でした。各部隊からの報告が行われるはずです。それも私の感覚であれば、翌日に上層部を集めた会議が開かれるはずです。


「昨日、終わらせました」

「え? 戻ってきたのは夕刻でしたが?」

「事前に戻り次第、報告会議を行うと連絡済みでしたので、時間は問題にはなりません」


 そうですか。それでレクスがここにいるのですね。


「そのことで一つ将校セレグアーゼから内密に進言があったのです」


 伯父様から内密に? 何かおかしなことでもあったのでしょうか?

 もしかして、捕虜として捕らえた凶剣アラドルフが死んでしまったとかですか?

 トドメを刺したのは私ではありませんわよ。


「従騎士マルトレディルの功績はなかったことにするというものでした。その言葉に苛立ちを覚えましたが、従騎士という立場を考慮すべきだと言われて……今回は将校セレグアーゼによって敵将を捕らえることができたという内容にまとめました」


 これは周知の事実だけれども、書類には残さないということですね。

 上層部がよく使う手です。


 私の過去の戦勝も幾度か、なかったことになりましたから。


「構いません。従騎士が敵将を捕らえたとなると、他の騎士たちは何をしていたとなりますからね」

「はい。申し訳ありません」

「なぜ、レクスが謝るのです? もともと騎士への昇格を断ったのです。これでいいのですよ」


 あまり目立つといけませんからね。


 そこにカフェのマスターが、たくさんのケーキを持ってやってきました。


「失礼します」


 そう言って、色んな種類のケーキがのった皿を私の前に置いてくれます。

 五日間がんばったのは、このためだと言っていいです。


 そして、香り高い珈琲も置かれました。


「ごゆるりと、おくつろぎください。そう言えば、カラエの花が見頃らしいですよ」


 その言葉に私はハッと顔を上げます。

 まさか……


()はどこにいる?」

「サディールの隣です」

「そう、ありがとう」


 はははは、流石にこのような注文をする者は他にいないですよね。

『いつも通り一つに』という言葉を私が否定しなかったから……私がユーフィア・フェリランだとバレてしまったようです。


「カラエの花とは、聞いたことがないですが、有名な花なのですか?」


 レクスはマスターが言っていた花の名前がわからなかったようですね。

 それはそうでしょうね。有名な花ではなくて、ただの野花ですから。


「サディール・フェリランの墓に植えた野花の名前ですよ。この時期ぐらいに亡くなったらしいと、その年の冬に知らせが届いたので」


 前世の兄の墓には何も入っていません。

 だから、母が代わりにカラエの種を蒔いたのです。

 そして私の何も入っていない墓もその隣にあるらしい。


 誰も墓に参ることなんて、ないでしょうに。


「そうですか。あの白い小さな花がカラエの花なのですね。確かに今の時期に咲いていますね」

「……なぜ、知っている」


 レクスの言葉になにやら嫌な予感がします。


「毎月、隊長の墓に参っていますから」

「やめようか。レクス」


 それも笑顔で言わないで欲しいです。

 そこには何も入っていませんよ。


「はぁ、何も入っていない墓に参る必要はないだろう」


 私は呆れながら目の前に置かれたケーキを食べ始めます。

 この幸せは、ここでしか味わえません。


「隊長の魂と言っていい剣が入っています」

「は? 原型をとどめていなかったはずだが?」

「はい。柄と刃の一部しか残っていませんでしたが、私が回収しました」


 何故にアレを回収しようと思ったのです。

 熱にやられてドロドロに溶けていたと思いますのに。


「それに、私だけではなく、隊長の墓には花が絶えないぐらい人が参っています」


 ……二十年です。二十年経っているのです。それにフェリランという名を受け継ぐ者はいませんので、墓を管理する者などいないはずです。


「本当に止めて欲しいです」

「あの……マスターは何故そのようなことをご存知なのでしょう? 隊長の従騎士だった私が知らなかったことを」

「はぁ、従騎士といっても半年ほどではないですか。マスターとの付き合いの方が長いですよ」


 私が何年ここに通い詰めたと思っているのです。


「私はサディール・フェリラン小隊長の部下だっただけですよ」


 そこに、白いアイスクリームにチョコレートのソースがかけられたものを持ってきたマスターが話に入ってきました。


 これは溶けない内に、食べなければなりません!


 私は目の前に置かれたキラキラ光るアイスクリームにスプーンを差し、一口大にすくいあげます。それをパクリと口の中に入れました。

 冷たさと甘みとチョコレートの香ばしさに口の中が満たされます。


 美味しいです。


「小隊長? そのサディールとは誰ですか?」

「英雄フェリランの兄ですね。彼は……」


 マスターは私の方をちらりと見てきました。今の私には関係のない話なので、好きなように語ってもらっていいですよ。

 そう思いながら、アイスクリームを堪能します。


「サディールは一族の力にこだわりすぎた男でした」



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