第45話 亡霊
遠くから地響きが地面を伝って聞こえてきます。近づいてきていますが、騎士たちが到着するまでには、まだ時間がかかりそうですわね。
護衛役の騎士たちは、散り散りに逃げるふりをして、本体に合流したぐらいでしょうか?
「あ? あっけなく気絶したか、お貴族様ってよえぇよなぁ」
上になってしまった扉の位置から、おっさんが降りてきたようです。
で、私が動いていいのですか?
「取り敢えず、護衛を……って、なんだこれ! 足が!」
「簡単にお嬢様に近づけると思わないでいただきたい」
レクスが私を抱えながら身を起こしました。
そして野盗の状態を確認すると……馬車の中の明かりが消え、よくわかりませんが、馬車の壁に身体が半分埋まっているように見えます。
え? なにこれ?
地面なら理解できますが、この空間は一部を除いて馬車の壁に覆われているのです。
身体が半分埋まる状態にはなりません。
「なんだこれ! 抜け出せねぇ!」
「どうした!」
「おい! そこの護衛を仕留めろ! 魔法使いだ!」
魔法使い。なんだかレクスに似合わなそうな言葉が聞こえてきました。
「ぷっ」
思わず吹き出して、クスクスと笑ってしまいます。
「お嬢様。緊張感が台無しです」
「だって、魔法使いって……」
「死ねっ!」
上から降ってくる無頼漢に向けて、閉じた扇を振るい上げました。
狭い室内で吹き荒れる風。
「こんなもの魔法にも入らないのに」
魔法の発動呪文を唱えなかったというのは、そこまで威力がないものです。私からすれば、そよ風のようなもの。
そのそよ風に吹き飛んでしまうのは、相手が弱すぎるというだけですわ。
「迎えがきたので外にでましょう」
普通なら横倒しになった馬車から出るのも一苦労するものですが、レクスは軽々と跳躍して上に空いた扉だったところからでました。
馬車の上に立つレクスに抱えられている私。野盗共から凄く注目されてしまっています。
そして剣を抜く音が複数響いてきました。
ふぅ〜と息を吐いて、集中します。
この集団にはブレインとなる者がいるはずです。
こちらの様子を遠くから覗っている者。
風の魔法を応用した索敵です。
かなり広範囲をカバーできます。
「いた」
私はレクスの腕から飛び降りて、ドレスの裾を持ち上げて、走り出しました。
「お待ちください! お嬢様! 遅い! 馬車の中に2人いる! 確保しておけ!」
後方から距離を開けて後をつけていた三個小隊が追いついてきたようです。レクスは予定どおり野盗を彼らにまかせ、私を追いかけてきました。
私のことはいいよ。お嬢様ごっこはもう終わりです。
「どこから湧いてきた!」
「これは騎士団じゃないか!」
倍以上の人数の騎士たちの出現に慌てだす野盗共。その声を背に私は、森の中を駆けていきます。
そしてたどり着いたところは、森の中でも少し開けた場所でした。
その中央には湧き水でしょうか、泉があります。
ただ先程までいた気配が、泡のように消えてしまっていました。
そう逃げたのではく、消えたです。
私は中央の泉に向かっていきました。
「魔法の気配が残っていますね」
これは厄介な存在が野盗に扮しているのかもしれません。
「確か神出鬼没のラゼンでしたか?しかしあの者は、私がトドメを差したので、蘇らない限りあり得ませんよね」
その昔、帝国領になる前のゼイエラ国の王族固有の魔法に水渡りというものがあったのです。
人が通れる大きさの川や泉があれば、そこを道として通れるという魔法ですね。
それを帝国が大軍を送り込むために占領し、王族の一族を手中に収めました。
まぁ、これがやっかいで思ってもみないところに大軍が現れるので、クソジジイがぶっ潰せと……あれも酷い作戦でした。
「隊長。やはり何も残っていません。ただ、焚き火の跡があるぐらいですね」
辺りを見回っていたレクスが戻ってきました。
「レクス。逃げられた。しかし敵ながらいい判断だ」
見切りをつけるのが早い。いや、……私は泉の中に手を入れます。
やはり、別の魔法の痕跡もありますね。
「『氷結』」
泉の水を完全に凍らせていきます。そう、泉の底までもです。
魔法の残滓さえ押しつぶすように。
「隊長? いったい何を?」
「レクス。覚えておくがいい。水の中に道が作られた痕跡を見つければ、木っ端微塵に破壊しろ『爆光』」
凍った泉に光が満ち溢れ、爆散した。
「よし。撤収だ」
私は氷の雨が降り注ぐ中、きた方向に戻っていきます。
「隊長。説明してくださらないとわかりません」
後ろからついてくるレクスに説明を求められましたが、道が作られたで通じないのですか?
「あ?……ああ、ゼイエラの亡霊の件は公言禁止だったか。それはだな……」
空がしらじんでいく中、クソジジイへの恨みたっぷりの話をレクスにしていく。
こうして5日間の野盗討伐が終わったのでした。




