第43話 流石ラドベルトだ
完全に日が落ちた鬱蒼と茂った森の暗闇の中、煌々と明かりがともった馬車が走っています。
その馬車の中で私は暇を持て余していました。
暇です。
これ、私がこのような格好をして馬車に乗る必要があるのかと、ぼうっと窓の外を眺めていました。
そんな私にレクスが声をかけてきます。
使用人の格好をしたレクスがです。
「お嬢様。ケーキをお食べになりますか?」
「え? ケーキ!」
思ってもいない言葉に、反応してしまいました。
あと、馬車の中では誰も聞いていないので、普通でいいと思います。
そして何故か横に座っているレクスの手元には、皿の上に鎮座したふわふわクリームに覆われたケーキがあるではないですか!
「どうしてケーキが?」
「ご褒美です」
「ご褒美?」
何のご褒美なのでしょう? 意味が分からず首を傾げてしまいます。
「あの凶剣を捕縛したご褒美です」
「……それは仕事です」
凶剣のアラドルフを捕まえたのは、今回の仕事の一環です。
だからご褒美をもらうほどでは……しかし目の前のふわふわケーキが私に食べるように訴えています。
「でも、いただけるのなら、ちょうだいします!」
そう言って手を差し出すと、何故か皿が遠のきました。何故に?
「お嬢様。あ~ん」
「……レクス。何故に私に食べさそうとする」
一口大に切られたケーキがフォークの上に乗って差し出されています。
レクスからです。
「わがままご令嬢に仕える侍従ですから。早く食べないと落ちてしまいますよ」
よく分からない理由を言われてしまいまた。しかしガタガタと揺れる馬車内だとフォークから落ちてしまいそうです。
落ちてしまうと勿体ないので、差し出されたケーキをパクリと食べました。
お……美味しい!
こんな夜中にケーキなんて、何だか罪悪感もありますが! 甘さが身体に染み渡っていきます。
「くっ……隊長が可愛い」
レクスが次に切り取ったケーキを再び差し出してくれたので、パクリと食べます。
「今回の功績で、隊長を騎士に昇格できます」
「は?」
私がケーキの幸せに浸っていると、レクスからとんでもない言葉が出てきました。
私を騎士に? ……それはアルバートが困ってしまうことですわ。
「お断りします」
昇格できるということは、強制ではないということです。
いわゆる、団長の推薦で騎士にできるというものです。
「はぁ、隊長ならそう言うと思いましたけど……」
残念な感じでため息を吐きながらも、笑っているレクス。差し出されたケーキを食べながら、レクスを見上げます。
その表情はどういう意味ですか?
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
理由……本当の理由は言えませんわ。
三か月後にアルバートと入れ替わるのに、いきなり騎士だとアルバートが泣いてしまうと思います。
「ただでさえ、見習い騎士の期間がなかったのです。人のやっかみとは恐ろしいものですよ」
「甥のことですか?」
「まぁ、ほぼ毎日声をかけられていますけど」
「……訓練を増やすように言っておきます」
あのファングラン公爵家のぼっちゃんですよね。今回の仕事にも部隊を超えて参加しようとしていましたし、中々面倒くさい人ですよね。
「あれは、ファングラン公爵家の力を持っていない」
「え?」
突然何ですか?
特殊魔法は血筋による発現と突発的発現とに分かれます。
ファングラン公爵家の力と言えば……。
「兄のほうは持っているのですが、弟のデュークアルベルトは闇の魔法の特性を持って生まれなかった。だから、劣等心があるのでしょう」
「弟! あれに兄がいたのですか?」
え? ちょっと待ってください。今の当主ってレクスの弟ですよね。
ななななな何歳の時の子ですか!
ヤバいです。レクスの元婚約者のアスタベーラ公爵令嬢はいったい何歳の子と……。
「今のご当主は何歳なのですか?」
「36歳だな」
「え? レクスと同じ歳?」
「ファングラン公爵は第二夫人の子だ」
ファングラン公爵家。闇が深そうです。
「デュークアルベルトは初めから跡継ぎとは見られていない。だから、騎士として鍛えて欲しいと言われたのだが、目に余るようなら叩き返そう」
毎日暇人なのかと思うほど声をかけてくるだけなので、何も問題はありません。
放置でいいと思います。
あ、もうケーキがなくなってしまいました。
王都に戻ったら、下町のあのお店のケーキを全種類食べましょう。
「もう一つ食べますか?」
「食べます! ってまだあったのですか?」
「ラドベルト部隊長に買ってきてもらったので、隊長の好みは把握していますよ」
「ん? 輸送部隊を待っていたのは、このためでした?」
「そうですね」
「流石、ラドベルト」
「買ってくるように言ったのは私ですからね」
「ふふっ。ありがとう。レクス」
「くっ。幸せ過ぎる」
何を言っているのですか? それよりも次のケーキが欲しいです。
私は両手を出してケーキを要望しました。
「隊長、口元にクリームが」
「へ?」
うぇ? レクス。私の口元を指で拭って、舐めないでください。
子供みたいで恥ずかしいです。




