第42話 わがまま令嬢?
「マルトレディル君。君凄いわ!」
「将校セレグアーゼ様の甥って聞いていたけど、あの中で無傷なんて信じられなーい!」
「かっこいいわ!」
あれから丸一日休息を得られ、今は次の仕事の準備をしているところです。
そして混成部隊としては、負傷者が多かったサイドバデル中隊の騎士を王都に帰し、工作部隊は役目を終えて帰還し、残ったのはファングラン団長の直属の三個小隊のみでした。
レクスは以前部下が不甲斐ないと言っていましたが、きちんと育てているではないですか。
そして私は、ドレスを着ろと言われ、着せられそうになったところで、姉の着替えを手伝わされたから自分で着られると天幕に逃げ込み、今は髪を巻き巻きされているところです。
「それで今回の設定はどういう感じなのです?」
これ、どうみてもどこぞの貴族の令嬢ですわね。
「わがまま令嬢の王都への強行旅行です」
「……普通の令嬢は宿で泊まると思います」
今は夕刻。今から隣領まで行って、南の街道から王都に向かうルートを通る予定なのです。
夜中にです。
いや、普通は馬車で通らないでしょう。
それも馬車の中が見えやすいように煌々と明かりを灯すとか言っているのです。
それはないですよね。
「これは実際にあった事例よ」
「は? そんな馬鹿なことをしたご令嬢がいたのですか?」
「二年前でしたか、王太子主催のお茶会がありましたよね」
「招待されていないのに参加しようとされた方がいらしてね。親に黙って……」
女性騎士の方々が遠い目になっています。たぶん、そのときのご令嬢の対応をされたのかもしれません。
「ということで、今回はわがまま令嬢とわがまま令嬢に頭が上がらない侍従!」
「あの? 皆さん。なんだか楽しんでいません?」
凄くいい笑顔で言われたのですけど?
「だってねぇ〜」
「マルトレディル君って、カッコいいし可愛いよね?」
「可愛いって必要ですか?」
「「必要!」」
何故かものすごい勢いで言われてしまいました。
「それにぐふぐふぐふ」
女性騎士の方から変な笑い声が!
出来上がったようなので、私は立ち上がって、振り返ります。
「ありがとうございます」
「次はきちんと仕事させてね」
「団長もマルトレディル君も疲れているでしょう?」
ん? まだ食事と睡眠が与えられているので、疲れてなどいませんよ。
しかし、彼女たちの仕事を奪うわけにはいきませんからね。
「はい」
私はそう答えて、天幕を出たのでした。
赤く染まった空の下には、出立の準備をしている騎士たちの姿があります。
その中で不釣り合いな豪華な馬車がありました。
備品管理部。あの馬車はいったいどこから調達してきたのでしょう。
その前には黒髪の貴族の従者っぽい格好をしたレクスが、騎士たちに指示をだしています。
ちょっと、おちょくってみましょうか。
「いつまでわたくしを待たせるのかしら? こんなジメジメした森の中にいつまでいなければならないの!」
「マルトレディル君! 素敵!」
「お嬢様。オプションの扇よ」
「あら? 気が利くわね」
女性騎士から渡された扇を目の前に広げます。が、その扇が希少種の銀白鳥の羽で作られているではないですか。
「……これメアドーレアのブランド品ではないですか! どれだけ備品管理部は、予算を使っているのですか!」
「これ押収品だからいいのよ。はい、頑張ってね」
手渡されたブランド品に驚いていると、背中を押されてしまいました。
まぁ、こんな感じでいいのでしょう。
そして視線を上げると、何故か準備をしている騎士たちの動きが止まって、私を見ていました。
なんですか?
「団長。こんな感じでどうですか? 今回はわがまま令嬢らしいですね」
レクスに近づきながら声をかけます。
しかし馬車の中では、演技など必要ないでしょうけどね。
「お嬢様。もう少しお時間をちょうだいしたく存じます」
レクスは侍従らしき感じで私に頭を下げてきます。
あの、先に騎士たちに動くように言ってくれないかしら?
手が止まっていますわよ。
「無能は必要ないわよ。さっさと動きなさい!」
いつまでこっちを見ているのかしら?
私は扇をたたんで、周りの騎士たちを指していきます。
「「「「はっ!」」」」
「マルトレディル君。いいわ!」
「かっこいい〜」
はぁ。このお嬢様はいるのかしら?
「それで、いつ出立ですか?団長」
「お嬢様。お時間が掛かりそうなので、お茶でもお淹れいたしましょう」
レクス。もうそれはいいです。
そのレクスといえば、左側に前髪を流して眼帯がわかりにくいようにしていました。
「別に必要はありません。予定の変更はないということでいいでしょうか?」
「輸送部隊と合流する予定です。しかし、王都に一旦戻っているので、到着が遅れています」
と説明されながら、レクスに手を引っ張られています。あの、そっちは私が出てきた天幕があるだけですよ。
「ということで、お嬢様はこちらでお待ちください」
「何故に? 元の場所に戻されたのでしょう?」
薄暗い天幕の中にある椅子に座るように勧められました。
「……隊長が可愛すぎるからです。あとで、隊長に見惚れていた奴らは、訓練を倍増しておきます」
「可愛いというのは関係ないでしょう。突然偉そうな感じの者が現れたので、何だこいつはとなっただけですよね?」
私は首を傾げて、レクスを見上げます。
「違います。隊長が可愛いのは誰もが認めることです。それから隊長に見惚れていいのは私だけですから」
……なんですか? それは?




