第41話 タバコが切れた
「よくやった。アルバート。怪我があるなら医療班に診てもらいなさい」
「いいえ、大丈夫です。それよりも伯父上、タバコありません?」
すると伯父様は私に一本のタバコを差し出してくれました。
「それにしても誰に似たのか」
そう言われましても、父にとしか言いようがないですね。
もらったタバコに火をつけて一服吸います。
いいタバコですね。
「それに対してファングラン団長の実力は問題ないが、考えはまだまだだな」
そのレクスは、残りの野盗を追撃するため、騎士たちの指揮をしています。そのためここにはいません。
「それで、大物を捕らえたので、今回の作戦はこれで終了ですか?」
「私はだね。君たちは予定どおりだ」
ん? ああ、この時期に増える野盗討伐は続けるということですね。
そして、凶剣を捕縛したので、伯父様の仕事は終わりということですか。
良かったです。伯父様の仕掛けは一般騎士では回避不可能ですからね。
「わかりました。伯父様、お疲れ様でした」
「はぁ、何か困ったことが発生したら、言いにきなさい」
そう言って、伯父様は背を向けて、グルグルに捕縛した巨漢の鎧を引きずって去っていきました。
それも盾のような剣を軽々と担いでです。
怖いですわ。
「お、マルトレディル。ここにいたのか」
「ラドベルト。どうかしましたか?」
私は白煙を吐きながら、こちらに向かってくる鎧に返事をしました。
「将校セレグアーゼから預かっていたものだ」
「あっ! 私の荷物」
確かに伯父様の天幕に置きっぱなしでした。それなら、この中に予備のタバコが!
「凶剣アラドルフに勝っちまうなんて、流石……フェリラン隊長だ」
「ラドベルト。死人の名を出してどうしたのです?」
「ああ、悪りぃ……独り言だ。俺等の隊長は凄かったという独り言。一人で戦っている背中に皆が憧れた。誰もが並び立ちたいと思っていた。俺等の隊長は最高だって言う話だ」
最高ですか。褒め言葉として受け取っておきましょう。
「しかし死人に最高もないですからね」
「くくくっ……いや、烈火の将軍なんかと比べれば、俺等の隊長は最高だ!」
それを帝国の者が聞けば、怒ってきそうな言葉です。
そう言えば、ラドベルトなら知っているでしょうか?
「次の予定はどうなっていますか?」
今後の予定です。一応一通りは聞いていますが、変更がないのかという話です。
「ん? ああ。次は南側の街道だ。しかしこの分だと、もう一度詰め直さないといけないだろうな」
そうですね。空が白じんで来ていますので、直ぐに動くことは難しいでしょう。
一日とは言いませんが、半日は休む時間が欲しいです。
「俺は一旦王都に戻ることになりそうだしな。半数は帰還するだろうな」
「半数? ここの待機部隊の撤収という意味ですか?」
「違う違う。負傷者が多いんだ。思っていた以上にやられるなんて、今の若いもんは弛んでいる」
負傷者の運搬という意味で、ラドベルトが一旦王都に戻るということですね。
そうですか、今回の襲撃で負傷者が多数でたと。
「それは風魔による被害が大きかったのですね」
「違う違う。ファングランの団長は役目を果たした。一般騎士への被害は全くなく、風魔のエライザールは己の役目を放棄したんだ」
逃げたということですか。
やはり、レクスでも風魔を仕留めることはできなかったようです。
ということは、何か予定外のことが起こって対処が後手に回ってしまったと?
「何か不測の事態が起きたのですか?」
「あー、たぶんマルトレディルが思っているようなことは起きていない。はっきり言えば、雑魚の野盗にやられた者が多いんだ」
……騎士が……野盗に……簡単に負けたと言っているのですか?
「ラドベルト。騎士の訓練を見学したほうがいいですか?」
「俺は部門が違うので、何とも言えない……が、時代のせいか根性がないヤツが多いな。そのあたりはファングランの団長と相談してくれ」
どうですかね。レクスは私に訓練の参加を免除すると言って、そのあたりを避けているところがありますから、別の方面から行ったほうがいいと思います。
「それじゃ、俺は職務に戻る」
あ、まだ聞きたいことが!
「ラドベルト。最後に確認したいことがあります」
「なんだ?」
「昨日、幌馬車の中でレクスは何を慌てていたのです?」
昨日ラドベルトが御者をしていた幌馬車の中で、何故か私がレクスに膝枕されていたことです。
その時レクスは何か慌ててラドベルトに命じていました。
ラドベルトの言いかけていた言葉は何だったのでしょう。
「ああ。あれな。マルトレディルが寝だして、馬車が揺れたときにマルトレディルの身体が前に傾いてな、ファングランの団長とちゅーしていたんだ」
「……ラドベルト。それはない」
顔面を何かにぶつけるようなことがあれば、必ず目が覚めているはずです。
恐らく前に倒れかかったところでレクスが目を覚ましたというところでしょう。
「ノリが悪いぞ。そこは『キャッ! そんなことが? ドキドキしちゃう』という感じだろう?」
「野太い声でいわれても可愛くありませんよ」




