第40話 アラドルフの怒り
「わしの剣を拳で受け止めるのか」
私は全てを斬る凶剣をガンレットで弾き返します。
流石、鍛冶師ドレクの武具。
私の魔力が淀むことなく伝達します。
何度か剣に拳を打ち込みましたが、歪むことなく私の腕にガンレットが存在していました。
「剣を与えられていない従騎士なので!『斬風迅』!」
拳に風の斬撃をまとわせます。それを、剣を弾いてできた隙に打ち込みます。
が、剣を回転させ盾のようにして防御されてしましました。
やはり、普通では一撃も入れることができませんね。20年経っても凶剣の剣術は健在でした。
「その魔法を攻撃に使わないやつを知っておるが、中々の威力であるな」
ええ、知っていますよ。よく逃げられましたので。
しかし、中々の威力と言いつつ一歩も下がることなく防ぎましたよね。
相変わらずの頑丈さ。
一旦距離を取るべく、後方に跳躍し地面に足をつけた瞬間に走り出します。
背後に立ち上る爆炎。
アラドルフと一定の距離を取りつつ一周します。
「『旋風』」
渦を巻きながら風が立ち上る。爆炎の炎を巻き込みながらです。
その中心には私とアラドルフがいます。
炎の渦の壁が徐々に私たちに迫ってきています。
そして地面に設置してある白星石が次々と爆発していき、炎の渦の勢いを増していきます。
「自殺志願者か?」
「いいえ。こんなもの烈火のアディフィールの炎に比べれば涼しいものでは?」
「カッカッカッカッ! 小娘が知ったかぶりで口にするでない! 閣下の偉大さも知らぬ小童が!」
ぷっ。相変わらず烈火のアディフィールの崇拝者ですか。
「このような炎など閣下の名を出すものではない!」
大剣を大きく振り、炎の渦を断ち切る凶剣アラドルフ。その動きをしたときには私は駆け出していました。
大きく剣を振ったために、アラドルフの腹部は大きく空いているのです。私はその懐に入り込み、一発打ち込みました。
「ぐっ」
そして崩れたところで、右肩にかかと落としを食らわします。
「うがっ! 小童のクセになんという魔力」
両手を組んで膝をついたアラドルフの頭部に打ち込みます。
「今です!」
私は上に向かって叫びます。
「小童が! このわしを舐めるな!」
「うるさい。そのまま地面に沈んでおけ『氷結の颶風』」
上から下に向かって放つ、冷気をまとった凍りつく暴風。
「うがぁ! わしは凶剣のアラドルフであるぞ!」
私の凍りつく暴風でさえ切り裂きました。
本当に、やりにくい。
ですが、これはどうですか?
コンっと地面に白いものが空から落ちてきました。
「は?」
パラパラと雨のように上から落ちてくる白星石。
「小童は囮か! 奇怪のセレグアーゼ! しかしこのような小細工など……」
「いつも思っていたのだが、凶剣と言えども金属。その熱はいくらかは伝達する。私の冷気はどうかな? アラドルフ」
私は白い小石が降る中、笑みを浮かべます。
そしてアラドルフは化物でも見たような目を、私に向けてきました。
「このイカレ具合まさかフェリ……」
アラドルフの声は途中で切れてしまいました。いいえ、爆音により聞こえなくなったというのが正しいでしょう。
次々と爆発していくのを私はその場で立ったまま眺めています。私が作った氷の中でです。
流石にこの量は、尋常ではないですよ。伯父様。
あと、私は囮でもイカれてもいません。
こうしなければ、剣も鎧もない私では凶剣と戦えなかったというだけです。
しかし案外うまくいったものですね。私の冷気を剣に打ち込んで、腕の感覚を鈍らせることを。
最後の凍りつく風がダメ押しでしたね。
強引に腕を振り上げたために、流石の剛腕も剣の重さに絶えきれずに剣を手放してしまいました。
凶剣がないアラドルフに白星石の雨は防げる手立てはないでしょう。
爆炎が収まり、辺りは白い煙に覆われています。
さて、トドメを刺しましょうか。
氷の壁をコツンと叩き、私を覆っていた壁を壊します。
人に見られても困りますからね。
「閣下の敵を!」
黒ずんだ鎧が、私に向かって拳を振るってきます。
20年経っても烈火のアディフィールを慕うとは、あの男を失った影響は帝国に大きな影を落としたのでしょうね。
私は手を前に突き出します。
「『氷結の……』」
私がトドメを刺そうとしたところで、横から影が割り込んできました。
「黙れ」
レクスがアラドルフに向かって剣を振り下ろします。アラドルフの鎧を砕き、鮮血が辺りに散りました。
そしてドスンと地面に倒れる音が響きわたります。
「隊長! お怪我は!」
剣を収めながらレクスが振り返って、私に詰め寄ってきました。
「ないですよ。あとまた隊長呼びになっています」
「しかし、あのような爆発」
「レクス。私を誰だと思っている? まだぬるいものですよ」
私はタバコを取り出そうとポケットを探ります。が、あ……もってきていた分は全部吸ってしまっていたのでした。
「はぁ、レクス。私のことより、まだ団長としてやることが残っていますよ」
「わかっています。ですが……将校セレグアーゼ! いくらなんでも、やり過ぎだ!」
今更ですか! レクス。
私とラドベルトが、あれほどクソジジイとセレグアーゼのことを言っていたではないですか!
「さて、今回の作戦は大将校を始め、全員賛成だった。今更何を言っているのか」
文句を言われた伯父様が上からふわりと降りてきて、こちらに近づいてきました。
その手には捕縛用の鎖を持ってです。
「それにマルトレディルは、全て理解していた。そして、こちらが何も言わなくてもどう動くべきか実行してみせた。私からすれば、団長は戦場の死神を舐めているのかと問いたいな」
すると、レクスは私の方をなんとも言えない表情で見てきました。
「あのラドベルト部隊長と話していたことは、こういうことだったのですか? しかし、これはあまりにも……」
「それはクソジジイと言いたくなりますよね?」
私は首を傾げてニコリと笑みを浮かべたのでした。




