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結婚するとは言っていません  作者: 白雲八鈴


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第4話 小さいですって!

 初日から一人部屋で過ごせるという開放感。たとえ、床が冷たい石だろうと、用を足すツボがトイレだろうと、毛布一枚がベッドの代わりだろうと、前世のことを思えば快適です。


 雨風にさらされず、虫に刺されることなく、毒蛇がテントに侵入することもなく、夜の見張りの交代を言われることもない。


「何をしている」


 私がニヤニヤと考えごとをしていると、突然扉が開き、声を書けられてしまいました。

 せめてノックぐらいしてもらえませんか?


「見てわかりませんか?」

「はぁ……ここは訓練場じゃない。見張りから苦情がきたのだが?」


 扉を開けた団長は大きくため息を吐きながら、私の一人部屋に入ってきました。

 あの? 出ていってもらえますか?

 私に独房にいるように言ったのは団長ですよね?


 それに苦情とは失礼です。私は一歩も独房の外には出ていません。


「中から爆発する音が聞こえると」

「今日は日課の訓練ができなかったので、仕方がないです」


 今日は朝早くに騎士団にくるように言われて、午前中は筆記試験を受け、午後から実技試験ということだったのです。ですが、私は早々に連行されて独房に突っ込まれたので、日課の訓練ができていないのです。


「魔法を室内で使うものではない」

「魔法障壁を張っています」

「そういうことではない」


 壁沿いに魔法を跳ね返す結界を張っているのです。独房の壁には傷を一つもつけていません。


 ということは、放った魔法が障壁に跳ね返されて、部屋中を飛び回っているのを避けているのが私の今の状態です。

 が、その魔法の一つが団長の方に向かってしまいました。


 勝手に部屋に入って来たほうが悪いのですよ。と思っていると、触れれば爆発する『爆光(レイアズ)』が消されてしまいました。

 正確には魔法の相殺です。


 仕方がないですわね。


 私も部屋中に飛び回っている『爆光(レイアズ)』を消しました。


「これでいいですか?用がもうないのでしたら、扉を閉めて鍵をかけてください」

「自ら独房を好む者は初めてだ。訓練が足りないのならついてこい」


 そう言って団長は背を向けて部屋を去っていきます。

 扉は閉めてくださいよ。私は団長についていかず、独房の扉をそっと閉めました。


 昔は可愛げがあったのにと内心思いながらです。


「おい、何故閉めた」


 ちっ。気づくのが早いです。そっと扉を閉めましたのに。


「訓練はもういいので、一人部屋を満喫します」

「では言い換えよう、実技試験がまだだから受けろ」


 そう言われてしまえば、渋々扉を開けなければなりません。

 実技試験の結果で何処の部隊に配属されるか決まるのですから。


 私は再び背を向けて訓練場の方に向う団長の後ろについていきます。

 足の長さが違うことを考慮していただきたいのですが。


 私は小走りで団長の背中を追っているのです。なんだか悔しいです。

 レクスのクセに。



 訓練場にたどり着けば、辺りは既に(とばり)が降り、二つの月が空に昇っていました。


 訓練に夢中になって時間が経っているのに気が付かなかったようです。

 夜になっても爆音が聞こえてくれば、それはうるさいと苦情が出てもしかたがありません。


 が! 何故に夜になっても訓練場に人がたくさんいるのでしょう?

 暗闇の中で人の気配が多くありました。


 そして、訓練場を照らす魔道灯がともされます。


「うえ?」


 たぶん小隊長以上が集められた感じですね。

 因みに私の前世は中隊長です。

 率いる部下は約150人ですね。


「これを返しておく」


 団長はそう言って私の剣を返してくれました。ええ、あのあと没収されましたので。


「サイドバデル中隊長前へ」

「はっ!」


 ん? もしかして、これ全員相手にしろとか言われないよね?

 それなら全員でかかってきてもらったほうがいいのだけど?面倒だし。


 そして、首が痛いほど見上げる巨漢の騎士が私の前に現れました。


「団長。本当にいいのですか? こんなちっさい見習い騎士を」


 あ? 誰がちっさいだって?


「かまわん。構え、はじ……」


『はじめ!』の合図の『は』の時点で私は地面を蹴り、巨漢に向かって回し蹴りを食らわす。


 巨漢の足が宙に浮き、そのまま訓練場の壁まで飛んでぶつかりました。


「誰が小さいだって? デカければいいものじゃない!」


 あのこれみよがしに、胸の部分が大きく開いたドレスを着て、マルトレディル伯爵令嬢様には似合わないでしょうけどと一言多い、ケリデール伯爵令嬢!

 デカければいいものじゃないのよ。


「アルバート・マルトレディル。剣を使え」


 剣を使うように言われてしまった。

 仕方がない、次は剣を使うことにします。





「ちっ!」


 なんだ! この(てい)たらくは!


 と思わず口から出そうになった言葉を舌打ちで誤魔化します。

 私の前には屍の山が積み重なって……間違えました。うめき声を上げる騎士たちが地面に横たわっています。


 結局最後は面倒になって、全員を相手にしますと言ってしまい、この有り様です。


 情けない。


 取り敢えず、実技試験はこれで終わりでいいのかと、団長に確認しようと思い、視線を向ければ……。

 何故か驚いた顔をして、私を見ていました。


 ん? 私は基礎的なことしかしていませんよ?

 驚かれるような変わったことはしていません。


 前世と同じ様に、この場全体を凍らせるという愚行はしていないので、問題はないはずです。

 はい、前世で訓練場を氷漬けにして、とても怒られたことがありましたから。


「もう、独房に戻ってもいいでしょうか?」

「……ああ」


 なにやら、心ここにあらずという感じの団長から許可をもらったので、私はさっさと一人部屋に戻ります。


 その背後からフェリラン中隊長という呼び声が聞こえたような気がしましたが、きっと気の所為でしょう。

 誰も死者の名など呼ぶ必要がないのですから。



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