第39話 レクスイヴェールの力
レクスSide
『レクス。風魔の相手をしろ』
隊長がそう言った。
それも笑いながらだ。
昔、フェリラン中隊長に尋ねたことがある。
何故、このような状況で笑っていられるのかと。
『あ?暗い顔していたら不幸を呼び込むだけだ。笑っていれば幸運の女神が微笑むんだぞ』
『フェリラン隊長。そんな女神いないですよ』
『うるさいぞ。ディロべメラ。辛気臭い顔をしていても鬱陶しいだけだろう?』
フェリラン中隊長がそう言っているからか、中隊は笑顔が絶えなかった。
そしてそれは生まれ変わっても、同じだった。
「隊長の期待に応えなければ」
その時、背後から炎の柱が立ち上った。
あちらも戦いが始まったようだ。
「あれ?確かじいさんが騎士団団長を倒すって粋がっていたじゃないか。なんでここで待ち構えているんだぁ?」
声が斜め上から聞こえてきた。そこに視線を向けると、空中に浮遊した者がいる。
黒い外套をまとっており、その者が誰かと示すものが見られない。
「まぁ、いいか」
隊長が、誰も風魔の容姿を見たことがないと言っていた。だが、『あれは飽き性だ。やる気を失わせれば逃げるから』という隊長の言葉がその風魔という者の性格を表していた。
考えることへの放棄だ。
そして背後から聞こえる連続した爆音。
隊長が戦っている。
ならば、私はこいつをさっさと倒して、隊長の元に駆けつけなければならない。
「うわぁ〜。あれ奇怪のセレグアーゼの仕業だろう?前から思っていたが、頭おかしいよな。アレを仕込むヤツもあの場で戦っているヤツも」
その言葉にイラッとする。
隊長を馬鹿にする発言。
「まるで俺の腕を落とした、イカれた女騎士みたい……」
「黙れ」
空中にいるのなら、地上に引きずり下ろせばいい。
「『影の縛鎖』」
夜ならば、魔法の制限はない。
地面から幾重にも黒い鎖が、空中に浮遊するものを捕らえようと伸びていく。
「うげ!なんだこれ。気持ちわりぃ」
だが避けられていく。
ならば……
「夜の底に沈む冥漠の牙に食われろ『遷化の侵食』」
「は? それ即死魔法じゃねぇか!『斬風迅』」
闇をまとった死を呼ぶ獣の牙が届く前に、戦闘区域の方に移動されてしまった。
それも攻撃魔法に使う技を推進力にして移動している。
ちっ!味方に被害が及ばないように離れた場所にいたというのに。
「行かせるか!」
「即死魔法使うヤツとまともにやる理由なんてねぇ」
追いかけるが、空中を浮遊している者に追いつくにはこちらが不利だ。
しかし、隊長が嫌がった理由はわかる。
まともに戦おうとしないのだ。
あの者の目的は、おそらく戦闘区域のさらなる混乱。
そう言えば、先程風魔が言っていた腕を切り落とした女騎士とは隊長のことだろうか。
「流石、隊長です」
「なんだこれ!」
かかった。
将校セレグアーゼに意見を聞いておいて良かった。
『風魔と戦うための罠?』
『私はその風魔のエライザールという者は噂でしか知らないからな。まともに戦わない者を戦わせる方法だ』
『鳥かごだ。空を飛ぶから面倒臭いのであって、空間ごと捕らえればいい。それを徐々に縮めていけば、飛ぶ場所が何れなくなるだろう?』
『伯父上。それこちらの戦闘空間を狭めています』
鬼畜と言われているセレグアーゼの罠。敵を追い詰めるが、味方の首も絞めるのだ。
そう、断続的に聞こえる爆発音の中で戦う隊長のように。
「何もねぇのに進めねぇ」
闇の檻。夜だと目視は難しいだろう。
「縮まれ」
その檻の大きさを狭めていく。
闇の檻に押されて、こちらに近づいてくる風魔のエライザール。
「はぁ、昔から思っていたが、ドーラメリア国の騎士ってイカれているよなぁ」
「褒め言葉ととっておく」
「褒めてねぇしっと、『万籟』」
「つっ……」
耳が痛い。なんだ?
一瞬の間があった後に訪れた爆風。
この森の木々も土も巻き上げながら暴れる風が辺り一帯を巻き込んでいく。
「俺と同じ戦場に立てない時点で、俺に勝てる要素はないんだよ。ドーラメリアの騎士団長さん」
闇の檻を引きちぎって空高く飛び上がる風魔。この魔法も強引に引きちぎるのか。
確かに空を飛ぶことはできないが、闇の中であれば私は負けない。
「『黒霧の移動』」
闇に溶け、空を浮遊する風魔のエライザールの目の前に出現した。
「あ?どっから出てくるんだ!」
その風魔のエライザールに向かって剣を振り下ろした。地面に叩きつけるべく、そのまま地面に落下する。
「夜の底に沈む冥漠の牙に……」
「ここで即死魔法を使うのか!『幻様蝶』」
剣で地面に叩きつけようとしていた風魔のエライザールの姿が、幾重の青い蝶に分かれて消えていく。
そして地面に降り立った頃には、気配も何もなかった。
「逃げたのか?」
周りを見渡しても木々がなくなった空間が広がっているだけ。
ちっ。殺しておきたかったが、隊長がおっしゃっていたとおり逃げてしまったようだ。
「隊長。遅くなりましたが今から向かいます」
そして炎の柱が高く空に立ち上る場所に向かって駆け出したのだった。




