第38話 鬼畜……
「おはようございます」
少し仮眠を取り、真夜中。
私は休ませてもらっていた家を出ました。
そこには既に鎧をまとったレクスがいます。
「隊長。おはようございます。夜中ですが」
「数時間で夜が明けるのでいいのでは?あとまた隊長呼びになっていますよ」
少し離れたところには、三個小隊がいるのですからね。
「敵の動きはどうなのですか?」
「移動開始したと連絡を受けた。だが、凶剣と風魔の姿は確認していないと」
まぁ、それは予想どおりです。
「了解しました」
私はそう言って騎獣に乗りました。
時間になったので、そろそろ出立でしょうか?
「そうやって笑っている姿を見ると、全てが上手くいくような気になります」
あら? また笑っていました?
「出立だ」
「「「「はっ!」」」」
そして騎士団が森の中の拠点にしている場所に向かって出発したのでした。
そして、騎士団の拠点に到着した頃には、すでに戦闘が始まっていました。
私たちと共にいた三個小隊もその戦闘に加わっていきました。
私と団長と言えば、本命が現れるまで待機です。
こっちの勝ちが見えてきたところで絶望に叩き落とすために現れることでしょう。
「それで伯父上。どのようなえげつない罠を仕掛けてくださったのですか?」
「マルトレディル。伯爵から何を聞いているのかしらないが、大したことはしていない」
私の横にはシレッとそんな嘘を言うセレグアーゼがいるのです。
あの天幕の中に積み上がっていた物を全部使ったのですよね?
よく言いますよね。
「部隊長。予定通りに拠点の周りで戦闘。拮抗状態です」
「もう少しその状態を保たせなさい」
「はっ!」
報告に来てくれた人は、伯父様の命令を受けて、拠点の方に消えていきました。
「それで伯父上。教えてください」
「そうだな。拠点の中は白星石を敷き詰めている」
……ヤバい。敷き詰めるって何ですか?
「あとは、雨も必要かと」
「伯父様。私を殺す気ですか?」
「魔装が使えるのであれば、問題ないだろう」
くっ……魔装も万能ではありません。それに私はほぼ無防備なのですが?
相変わらず容赦がないです。
「鬼畜……」
「何か言ったか? アルバート」
「いいえ、伯父上」
私はニコリと笑みを浮かべます。
レクスはここにはいません。私は凶剣を相手にすべく、拠点から少し離れた場所にいるのです。
「伯父上。来ました」
そう言って私は伯父様に手を差し出します。
「アルバート。その索敵能力。私の部下に欲しいぐらいだ」
伯父様はガンレットに覆われた私の手を掴みました。
「それに、私の力をこのように使うなど、フェリランぐらいだと思っていたが?」
「伯父上。早く。このままだと囮の団長もどきが死んでしまいます」
伯父様が仕込んだ罠のせいでです。
「これぐらいを切り抜けられなくてどうするのか……はぁ、乾坤の間に至る空を解放する『神随』」
私の身体が浮き上がります。
そして手が引っ張られ思いっきり投げられました。
「行け!」
私の身体は空を駆けます。
そう、セレグアーゼの特殊魔法は重力相殺。物の重さを無くすのです。
お陰で、私は戦闘区域を飛び越えて、拠点の中央まで一気にたどり着けるというものです。
居ました。団長もどきさんが拠点の中央に一人立っています。
「団長! 交代です!」
私は赤いマントを羽織った鎧の側に降り立ちます。地面に降り立ったところで魔法が解除されました。
「え? なに?」
突然の私の登場に戸惑う団長もどきさん。
その腕を掴みます。
「着地はご自分でなんとかしてください」
私は風を腕にまとわせて、団長もどきを来た方向に投げつけました。
上手く行けば伯父様がなんとかしてくれるかもしれません。
私の風魔法は戦闘型なので、伯父様のような正確性はないですからね。
そのとき、爆炎が崖側から立ち上りました。
「こんなもので、わしの足を止められるとでも思っておるのか! 騎士団団長ファングラン! ……って誰だ!」
銀色の鎧をまとった体格のいい者が、崖の上から落ちて来たようです。
そして、剣というのは取り扱いが難しい大剣を背負っています。
偽者につられて……いいえ、背後からの襲撃でこちらを混乱に陥れるつもりなのでしょう。
「凶剣のアラドルフ殿とお見受け致します。お相手は従騎士マルトレディルがお受け致します」
「従騎士? 舐められたものであるな。このような童が……いや、嬢ちゃんか?」
あら? 私の性別をひと目で見破られてしまいました。
まぁ、わかる人にはわかってしまいますよね。
そして私は拳を構えます。
私が持つ剣では凶剣に敵いませんからね。
ふぅ〜と息を吐き出します。そこに混じる僅かな冷気。
ヤります。
「わしをアラドルフとわかって笑っているヤツに碌な者はおらんなんだな」
そう言って巨漢の鎧は背中に背負った剣を構えました。
剣と言うには盾と言ってもいい幅広さ。金属の固まりといっていい剣を片手で構える剛腕。
久しぶりの戦場の緊迫感。ピリピリとした空気が私の心を冷やしていきます。
「まいります」
そう言って私は地面を蹴りました。
私は一直線にアラドルフに向かっていきます。
その背後からは爆炎が上がっていました。
そう伯父様が仕込んだという白星石。白い炎を上げながら爆発する物騒な石が、この拠点の地面に隙間なく埋められているのです。
いいえ、唯一団長もどきさんがいた周辺には仕込まれていませんでした。
「自爆と言っていい状況で、正面から向かってくるか!」
一歩踏み出し、足元から吹き出す爆炎をものともしないアラドルフ。
その右手に握る大剣が私に向かって振るわれたのでした。




